命のやり取り
能力者の能力は基本的に三つの基本技能が主だ。
『固有能力』『励起法』『神域』の三つが個人差と熟練度により大なり小なりとある。
しかしながら、これは基本技能。そう、技能なのだ。
では能力者と一般人の差は何かといえば、ここはサイファ学園都市の重金教授の言葉を借りるとしよう。
それは二つあり、一つは能力者の脳内に網の目のように張り巡らされた出入力を司る未知の特殊有機金属化合物、別名『緋金』。
もう一つは、固有能力と励起法と神域を制御する演算を司る『能力演算野』だ。
『緋金』の説明はいずれ行うとして、今回は『能力演算野』の事を語ろう。
『能力演算野』は能力を使う際に必要な脳内の場所である、その役割は名前のままで演算だ。その働きは外界の情報を『緋金』を通して解析して認識し、演算処理した情報を『緋金』を通して三つの基本技能を発現すると言う働きがある。
そして今回のポイントは『外界の情報を解析して認識し、演算処理する』という点だ。
これには一つ副次的なものがあるのだ。
高見原郊外 旧日本陸軍 傷痍軍人療養所跡地 エントランスホール
「ドリャっと」
銃弾をかいくぐりながら東哉は、何も気負うことなく発砲した戦闘服を着た男に接近して腹を殴りつけ昏倒させる。
これで三人と心の中で呟きながら、東哉は頭の中に映る迫りくるイメージを避けるようにしゃがみこんだ。その直後、東哉の頭の位置にあった場所を銃弾が通り抜ける。
「マジか。容赦ねーな」
しゃがみこんだと同時に能力を発動、床のリノリウム材を分解し掴み取るとパウダー状まで分解しまき散らす。
視界が塞がれて同時打ちを避けたのか銃弾が止まる。東哉はその隙を逃さずもうもうと立ち込める粉に飛び込んで、射撃手の懐に飛び込んだ。
二人いる射撃手の間に入り、向けられる銃口を両手掴むと一気に分解。銃は瞬時に鉄粉まで分解されると、二人の男は動揺で動きを止めた。
東哉は左の男に足払いをかけ転倒させると、左拳で右の男を殴りつけ昏倒させる。足払いをかけた男は背中から落ちるもすぐに復帰するが、右の男を昏倒させた東哉が左ボディブローで気絶させた。
「これで5人。しかし、すげーな未来予測」
あからさまな戦闘訓練を受けた男達を難なく倒した東哉は、自分の拳を開いたり閉じたりしながら自分の持つ能力に今更ながら驚いた。
能力者の演算野と緋金による副次的効果、それは未来予測だ。
かなりの暴論であるが、一次関数と言うものがある。X軸とそれに垂直に立つY軸、それらであらわされた平面に数式で出された数値を使いグラフを掻くと言うものだ。
あれは起点と傾きが解れば、数値の変化によってどのような変化を表すか直ぐにわかる。それと同じである。
起点と言う過去と言う状態と傾きと言う現在を『正確』に把握していることにより、未来がある程度予測できるというものだ。
能力者はこれを大なり小なりと個人差があるが行うことが出来る。
「桂二が言うには能力者の中でも、俺みたいな『導士』系の能力者は『確度』が低いって言うけど…これなら」
桂二はこれなら何とかなるんじゃないか、なんで少し希望が出てきた。なにせ最近は負けが込んでる上に莉奈に置いて行かれていたため、自信喪失して落ち込んでいたのだ。
とそこまで考えて落ち込むが、落ち込んでる暇など与えないとばかりにかけてくる足音が聞こえる。
「確か桂二が言うには戦いにおいては勝利条件があるんだったな」
戦いにおいて勝利とは、勝利と感じる人間の勝利条件が達成されているかどうかである。
これは解っているし知ってはいても、意外と理解している人間は少ない。戦いの意義が解っている人間が少ないからだったり、自分の命を守るためと言うのが多いのもある。
しかし、この条件はしっかり決めておいた方が良い、でないと戦いが終わらないのだ。
下手したら相手が死ぬまで終わらないで、自分もしくは相手の死で終わる場合もあるからだ。
「俺の勝利条件はこの『書類』を出来るだけ守り抜く、でなければ放棄して撤退。敗北条件は俺と書類が同時に確保される事かな?」
東哉の脳裏にここ数日の間の光景が甦る。まずは授業が終わった後に桂二に色々な知識を叩きこまれ、逃げ出そうとした挙句に能力者じゃないのに難なく東哉を捕まえて戦闘訓練でボコボコにされる。
もし、ここで俺が捕まったら…多分、あれだ、助け出されたうえで罵倒されて、この間の倍以上の訓練が待っているだろう。
「もう嫌だ!!」
ここ数十日、東哉にはストレスが多すぎた。莉奈がいなくなり、探し回って、戦いになり置いて行かれて落ち込んで。決意したと思ったら、知らない事を教えられて、渡りに船と思って鍛えて貰ったら地獄だった。
そして今、戦場さながらの場所に放り込まれた。東哉の心は少し限界にきていた。
しかしながら自分の目的のため強くなると決めていた東哉にとって負ける事は少々、自尊心に関わることで…。
「よし、戦略的撤退だ。逃げるんじゃないだ、うん」
東哉はそう決めると、壁のコンクリートの一部をむしり取ると再び分解して煙幕を作り出す。
だが、
エントランスホールに再び煙幕が蔓延したその時、東哉は慌ててしゃがみ込み伏せる。
「うおぉぉぉ」
再びの銃撃。東哉は知らないが銃撃音から今度は拳銃ではなく自動小銃、しかも連射という事はフルオートで撃っていた。
「マシンガン⁉」
機関銃と自動小銃は微妙に違う、あまり知識がない東哉は勘違いしている。しかしそんな事を言っている場合じゃなかった。
「なんで、煙幕で隠れているはずなのに」
銃弾が東哉の方へと集まりだしているのだ。あきらかに東哉の場所が解っていて照準を合わされている。これは不味いと東哉は再び床の建材をむしり取り分解し煙幕を濃くし跳躍。
「ぐっ」
不可解な現象は何かしらの能力だと当たりを付け、壁に背を預け神域を展開して銃弾の音に耳を澄ます。今度は…。
背を預けた壁を分解して隣の部屋に倒れこみ、反対側の壁を盾にする。
そして東哉は確信する、相手は能力者だ。念を入れて爆発しないように濃くした煙幕に対応して照準を合わせてきた。
「大人しく出てきて投稿しろ‼」
開けた壁の穴から窺うと、戦闘服の男が三人が自動小銃を構えて銃口を東哉に向けていた。
「お前が書類を持っていると言う事は解っている。渡してもらおうか」
銃の事は解らないが、あんなのに撃たれたらヤバい。書類をおいて立ち去るべきだと考えていたら、男達の足元に血まみれで横たわる男が倒れていた。
「素直に渡すならよし。渡さないのならこいつみたいになる」
男の一人が横たわる男を蹴ると、顔があらわになる。
血まみれで良く解らないが、あれは桂二だ。
「…」
「おいどうした、何か言えよ」
「お、お前らっ!!」
短い時間だが桂二とは師弟関係にあった、それより前から遊んだりもしたりしてそれなりの信頼もあった。訓練と称して酷い目にも合ったが、彼なりの思いやりで鍛えてくれたのも薄っすら解っていたのだ。
だから、そんな桂二があんな目にあって東哉は…キレた。




