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いつもの日々に  作者: ルウ
進化計画
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獅子は子を千尋の谷へと突き落とす

高見原から西へ行くと植生は違う普通の森がある。西には山脈もあり、森から縫うようにつながる道は山脈の谷間を超えるように続いている。その森を縫うような道から外れ、山麓に佇む古い建物があった。

そこの外観は朽ちた建物、いわゆる廃墟と言うやつだ。外観のペンキは剝げてコンクリートの地肌は見えて、扉や窓はなく内部の内装はボロボロ、残された荷物は埃だらけを通り越して朽ちた物がほとんどだ。

玄関に残った看板には元々ここがどういう所かという名残が残っていた。



高見原郊外 旧日本陸軍 傷痍軍人療養所跡地



「この国は約八十数年前、戦争があった。それはとても激しい戦争だったのは、その時代を体験はしてなくても聞いてはいるだろう?」

「ああ」

「ここは元々、旧日本軍の傷痍軍人…解りやすく言うとだな、国家の為に公務や戦争で傷ついた軍人が一時的に保護ないしは治療や療養を目的とした施設だったんだ」


1904年に起こった日露戦争、それによって傷を負った(身体の欠損や精神外傷)兵士に恩給としての待遇保護するための廃兵院を前身とする療養地。


「と言うのがここの建前」

「なんだそりゃ、陰謀論っぽいな」

「まあ聞けよ。ここの施設は元々陸軍でな、しかもよりにもよって悪名高き731部隊の実験拠点の一つだ」

「731って言えば、戦争の時に取った捕虜に人体実験してたっていう」

「そうそれだ。ただそれは表向きの話で、裏向きの話だと少し違う」


そう言うと桂二が懐から紙束を出す。クリップで綴じられたその紙束は少し黄味がかかって古臭い紙束で、表紙のタイトルの上には『極秘・持ち出し禁止』のスタンプが押されている。

それでも見えるタイトルは東哉にとっては信じられない物だった。


「『人工神化計画』? 進化じゃなくって?」

「誤字じゃない。まああまりのグロさで中身は見せられないが、これはここで行われていた実験のレポートのコピーだ」


人工神化計画、それは神の末裔と呼ばれる能力者を人の手で神の位へと神化(進化)させる計画だと言う。

とは言え能力者の生態はいまだに解らない事が多く、最初は手探りで色々な事をやっていたと記されている。


「マイルドに言えば最初はネズミの繁殖みたいに交配して、どんな能力者が出来るかガチャから初めて、最後は解剖って所だ。大分はしょってるけど、今のをR-18のエログロにしたのがこの書類だ」

「…それが、何なんだ?」


ここに来て東哉はとても嫌な予感を感じていた。ここ数日、桂二は教師役として色々と東哉に教えていた、能力者とは固有能力とは励起法とは色々聞いて、世の中の裏側を知ったのだ。

そして能力者でも個人差が大きい差があると言われる未来予測が、東哉にとても嫌な予感を感じさせている。

そんな東哉を尻目に桂二はズンズンと建物の中に入っていく。


「お前にはここ数日色々なことを教えてきた。能力者の事や固有の能力とか、体術の基本も教えてきたけど結局は我流の喧嘩殺法じみてるしな」

「悪いかよ。どうもお前から教えて貰ったのは性に合わないんだよ」

「…まあいい。だけど会わないのは仕方がないが、基礎はおろそかにしない方が良いぞ」


桂二は色々な事を思い出して顔色を悪くする。脳裏に浮かぶのは入隊前後で受けた基礎訓練。


「ティースプーン怖い」

「お前大丈夫か?なんか顔色悪いぞ」

「いや、基礎訓練さぼってティースプーンに恐怖を刻まれたのを思い出したんだ」

「お前ホント大丈夫か?」


建物の中央付近でうずくまる桂二は、スッと書類を東哉に手渡した。


「はっ?なんで、俺に?」

「なあ東哉、生きている内で一番経験を積みやすいのは何だと思う?」

「は? えーっと、修業とかか?」

「ああ、それも経験を積むにはいいな。だけど一番じゃない。一番の経験とは」


桂二は書類を持った東哉の手を強く引く。


「おっおい、いきなり」


と同時に何かの爆発音と共に東哉の頭が今まであった場所を通り過ぎる何か。そして、穴が開くコンクリート壁。

東哉は壁の穴を見た後、顔を青ざめさせながら錆び付いたロボットの様にギギギと桂二を見た。


「え?」

「一番の経験は『実践』だ。そこで俺が情報を流しておいたら、いろいろ集まってきたらしい。どうもその書類が欲しい奴らがいるらしくて。それが表の世界に出回るのを危惧する団体とかがこの建物を包囲しているらしいんだわ」

「えっちょっと待て」

「その書類は面白半分で脚色して、内容の半分を官能小説に差し替えてる。奪われても良いけど、奪われた方が悲惨な事になるから気を付けろよ。さて、ここからお前はどう動くか、ミッションスタートだ」

「桂二、それは実践じゃなくて実戦じゃないのか!!」


いきなりの展開に東哉は思わず叫ぶ。

それを皮切りに始まる銃撃戦に彼は頭を抱えて伏せる。これからどうすると桂二を見るが、そこにはもう誰もいなかった。


「桂二、覚えてろよ!!」




「はてさて、これからどう動くかね。書類が欲しい団体は大きいのは三つ、弱小が四つって所かな? ぜひとも潰しあってほしいところだけど、この食いつき方は異常だ。隊長が言うようにこれにヒントがありそうだ」


桃山財閥による能力者狩り、その目的は一体なんだと言う話になると今まで解らなかった。しかし、今回の書類獲得の為に能力者狩りの部隊『ハウンド』まで出てきたところを見るに、この書類に何か意味があるのかもしれない。

まあ、東哉の顔を覚えているハウンドの構成員が追ってきている可能性も否めないが。

と独り思っていると、桂二の周りにも人が集まりだしてきた。


「やれやれ、逃してくれないか」

「止まれ」


物陰から現れるのは三人ほどの、アメリカのテレビドラマにでも出てくるかの様な黒い戦闘服の男が三人。全員が銃を構え、照準を桂二の頭・心臓・足へと合わせていた。


「両手を上げて大人しくしてもらおう」


銃を向けられても微動しない桂二に、男達は訝しむ。見た目は大体高校生ほどの少年が、廃墟の中で銃を持った完全武装の男達に囲まれて平然としているのだ。


「お前、何者だ」

「人の名前を聞く前には先に名乗るのが礼儀ですよ。元自衛隊の永井さん」


発砲したのは誰だったか解らない。名前を呼ばれたとたん、心臓を狙っていた永井は引き金を引いていた。



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