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いつもの日々に  作者: ルウ
過去を追い求めて
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神官の役割

香住屋晴喜、東哉のクラスメイト香住屋斎の兄だ。モノトーン系のフランスモード系の服で固めた大人の色気が駄々洩れと噂の人だ。ホスト風とは言うけれども、実際の仕事は違う。


「えーと、ハルさんは仕事帰りですか?」

「…気付いていないのかな?僕の店の近くだよ、ここは」


言われて東哉は気付いた、落ち込んだ気持ちのまま彷徨って足の向くまま辿り着いたのがこの公園。よりにもよって苦手な人の店の近くだとは、東哉は何とも言えない表情をする。

それを見た晴喜は、意味深な顔でほほ笑んだ。


「なんスか」

「悩みがあるみたいだから、聞こうか?」

「ないですよ、放っておいてください」


にべもない東哉の態度に微塵も動揺がない晴喜。大人の余裕を感じさせる彼の態度、それに東哉は自分の子供っぽさに何時も嫌になる。

だから東哉は苦手なのだ。


「まあまあ、閉めたばっかりだけどお茶の一杯くらい出すから」

「いや、いいですからって、手を離してくれって、イタタッ力つよっ」


無理やり立たされ、肩を掴まれ引き摺られていく。その行先には、純和風のカフェがあった。




コトッという音と共に縁の薄い高級そうな煎茶碗が木の茶托に乗せられ東哉の前に出される。茶碗を持って口に近づけば、フワリと爽やかな緑茶の爽やかな香りが鼻をくすぐる。

茶碗からはあまり熱くない柔らかな温度を感じる為、今が飲み頃だと東哉は少し口に含む。

少し甘みを感じる優しい暖かさのお茶を喉に流し込み、相変わらずこの人のお茶は美味いと感じながらも一気に煽った。


「で、どういう事っすか。斎に何か聞いたとか?」

「ふふ、察しが良いね。妹に『東哉に会ったらその無駄に多い女性経験を生かして励ましって』言われてねー。振られた覚えがないから、どう励ましていいか解らないけど見かけたからさ」

「腹が立つ」


励ますつもりか自慢かと言うような発言に、思わず握りこぶしを握ってしまう東哉。


「まあ話を聞いたよ。莉奈ちゃんが君の代わりにどこかに行ったって話だけど…」


あながち間違っていないが、色々なことを隠した話だ。もし漏れてしまったときに莉奈か俺が何かしらの影響が出ると思って斎が色々隠して話してくれたのだろう。そんな斎に感謝しながらも、なぜこの人に話したのかなともおもってしまう。

ただ、心配してくれたんだという思いも感じているので、渋々ながら話してみることにした。


「…そうですよ、莉奈が俺をおいて行っちゃったんです」

「それって少しの間別れるって事じゃなく?」

「正確には違うんです。莉奈は…あいつは俺の為に出て行ったんです」


それって弟みたいな東哉を甘やかせないため?言葉の意味そのままで考えると東哉君の成長のために自分がいると駄目だから?などと晴喜は妹から伝え聞く彼の話から思いつくままに予想しながらも、無言で頷き話を進めさせる。


「詳しい事情は言えないんです。だけど、あいつ俺の為とか言ってたけど、いやそれも理由の一つ顔も知れないけど多分恐怖から逃げたと思うんです」

「恐怖?」

「えー、あーあれですトラなんとか?」

「トラウマかな?」

「ああ、それです。トラウマ。実はですね、斎や浩二にも言ってないんですけど俺五年程前から以前の記憶がないんです」

「それ、僕が聞いても大丈夫かい?」

「ここまで聞いたんだから聞いて下さい」


解ったよと晴喜は自分用に入れたお茶を飲みながら話を促す。


「…五年よりも前の記憶がない。それはもう今までいろいろ考えたんですが、全然思い出せなくて最初に一・二年はとても悩んだし、やさぐれてネガティブ思考になって莉奈と母さんに迷惑もかけてました。そして俺の中では思い出せないものはしょうがないと開き直って、もう終わった事で色々と折り合い付けたんです。ただ、多分それって俺だけだったんです」

「君だけ? 莉奈ちゃんも記憶喪失って事?」

「違います。そうじゃなくって…莉奈は話してくれないんです」

「それって?」


東哉は以前からおかしいと思っていた事がある。

例えば記憶を失っていた人がいると人は、周りの人はどういう行動を取るだろうか?

大体の人は記憶が無くなった人となりによって行動は変わるかもしれないが、記憶を取り戻す手伝いをするだろう。


「記憶がない人間が身近にいたら晴喜さんはどうします?」

「それは…身近な人間だったら、記憶を取り戻してほしいからその手伝いをするかな?」

「どんな?」

「それは、えー、記憶が無くなる以前の事とか話してみたりとか、一緒に行った場所とかに行ったりとか?そんな事をして思い出してもらうかな?」

「ですよね…俺、そんな話を聞かなかったんです」


今まで東哉は莉奈からそんな話を聞いた事はなかった。むしろ東哉の方から聞いてもはぐらかされて、いつも聞けずじまいだった。


「それって…」

「多分、莉奈は俺に記憶を思い出して欲しくないんだと思います。気持ちは俺が平穏に暮らすのが本音だとは思います。でも。それと別に莉奈は俺が覚えていない過去を恐れているきがするんです」


まだ記憶が無くなってからすぐの頃、東哉は昔の事を思い出すために莉奈に昔の事を度々聞いていた。しかし、聞く度に話を逸らされ、誤魔化されて来たのだ。


「聞く度に曇る顔を見てたら、ああ聞いて欲しくないんだなって気付いて。暫くしてから何となく解ったんです、あれは俺等の過去を恐れているんだと」

「そうか、何かつらい事があったのかもしれないね。そんな事情ならどうもできないかもしれない。だけど、それは彼女の事情であり君の事情ではないよ。それより大切なのは君の気持ちなんじゃないかな?君はそれでどうしたんだい?」


思いの丈を吐き出して、気付いた。東哉は莉奈に捨てられた、置いて行かれたから悲しいのではなかった。東哉がとても悲しかったのは、


「記憶を取り戻して莉奈に言いたいんです、俺は大丈夫だから恐れることはないんだって」

「そっか」


莉奈の恐怖を苦しみを取り払ってあげたかった、それが出来なかった事に悲しかったのだ。


「莉奈は今俺の前からいなくなりました。でも、今からでも遅くない。俺は過去を取り戻したいと思います」

「そうか、頑張りなよ東哉君」


東哉は道を見つけた。それが莉奈との道が交わらないとしても彼は進む。


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