友情と停滞
『第三部隊』と言われても誠一と拓海には伝わらないが、サイファグループと言われたら二人には聞き覚えしかない。
「大企業じゃないか‼」
「一番乗りの出世株だね」
「いや、引っ掛かるのそこ?」
部隊名で言ったのにもかかわらず反応がないのに、大企業名の方で反応するのは桂二としては肩透かしを食らったみたいだが仕方がないところもあった。
サイファグループ、起業から1年足らずに上場した新進気鋭の大会社だ。起業してから今までいろいろな会社を吸収し、グループ内の社員は10万人を超え年商10兆円を超える企業である。
「いや、でっかい会社じゃない? 学生のうちからそこに所属するってのはやっぱり気になるよ」
「同じく。家族がいない将来が不安な俺としても気になるからな」
「うーん、現実的。まあ、さっきも言ったけど大企業の裏には能力者がいる。それはサイファも変わらない」
「て事は、桂二お前も?」
そう言われると桂二は困ったように笑う。
「いや、俺は能力者じゃないよ」
「え?」
「え?」
突然の事実に誠一と拓海は驚き声を失う。
「訳知りっぽかったし、事情知ってるから、お前も能力者かと」
「何度も言うが、俺は能力者じゃない。どちらかと言えば『儀式使い』だな」
「『儀式』って、林間学校の時に言ってたやつか?」
『儀式』それは超常現象や魔法・道術・呪術・妖術・幻術・超能力などを体系化し使いやすく簡素化したものだ。
解り易く言えば能力者じゃなくても能力者の様な力が使えると言うものだ。
「それってスマフォのアプリみたいなもの?」
「簡単に言えばな、実際のところは違う。色々と条件をクリアしないと使えないし前準備が死ぬほど面倒で使いにくいと来たもんだ」
「何か良く解らないが、いろいろ苦労しているってのが何となくわかった。要するに普通の人間だけどその儀式って奴で能力が使えるって事か?」
「おおむね、その認識で問題ないよ。だから俺もお前らに出来るし、協力するって言いたいところだけど…すまん」
本当にすまなそうに言う桂二。
「今朝の東哉の件で暫く動けそうにないんだわ。心の傷が思った以上に深かったらしくて」
「それは桂二の役割じゃないと思うよ? むしろ放っておいた方がよくない?」
「誠一、なんか拓海が黒いんだけど」
「なんか嫉妬を通り越して、憎しみに似て非なるナニかになっちまったらしい」
「二人とも聞こえてるからね」
何はともあれ話し合いは続く。真剣な内容だが、どことなく楽しそうにしゃべる彼らの姿は、まるで青春の一ページの様だった。
そしてこちら東哉は青春の暗黒面に落ちていた。
「そんな訳ない。莉奈が、俺を、置いていくなんて」
首は項垂れ、目は虚ろ、林間学校から一週間ほどたった彼はあまり食事がとれていないのか頬がこけていた。自宅の近くの公園の片隅にあるベンチ、樹の隙間から漏れて暮れ始めている夕日がその姿を殊更に暗く見せていた。
記憶をなくしてからの東哉は莉奈といつも一緒だった。それこそお風呂やトイレ、お互いの部屋にいるとき以外はずっと一緒だった。幼馴染と言うより家族、姉と弟に近かったのだ。
ちょっとした依存関係になっていたのである。
「なんで俺も連れて行ってくれなかったんだ…」
いや、見た感じは飼い主と犬だった。
そんな彼の落ち込み具合に周りの人間も気を使ったのか、だれも近づいて来ず遠巻きに見ていた。だが、そんな彼に声をかけるものが一人。
「よう少年、どうしたんだ、そんなに落ち込んで」
東哉の暗さと対照的な明るい声、聞き覚えのある声に頭を上げると、そこにはホスト風のチャラチャラした男がいた。
「ハルさん⁉」
「おー久しぶりだね、東哉君。元気してる?」
彼の名前は香住屋 晴喜クラスメイトの友達、香住屋 斎の歳離れた兄である。




