二人目の
時間は東哉と莉奈が学校を出てショッピングに出る時までさかのぼる。東哉達の隣のクラス、その窓際の一番後ろの席の彼。
「誠一、今日お前暇か?」
「いや別に暇ってわけじゃないけど、どした?」
中肉中背でこれと言って特徴のない黒髪の青年だが、目元に力があり身にまとう雰囲気に重さがある。そんな彼に声をかけるのは、少し色素が薄い赤みがかった無造作ヘアーにピアス穴、胸元を緩めた制服からネックレスが見え隠れしているいわゆるチャラ男のような青年。
「お前さあ、高校二年になっても付き合いわりぃのな」
「とはいっても、俺も忙しんだよ」
「また修行か? 好きだね、お前も」
黒髪の青年、水上誠一はホームルームが終わって帰り支度をしている時に近寄ってきた友人との会話を楽しみながら、遠回しな誘い心苦しく思いながら断っていた。
「いや、今日はバイトだよ。修業はそのあとさ、間違いじゃないけどな」
「あー、そういやそうだったな」
誠一は孤児である。今いる児童養護施設(昔で言うところの孤児院)では不自由なく暮らせているが、18歳になると自立するために施設を出なくてはならない。月々の小遣いはもらってはいるが、自立の為の貯金を考えるとお金を貯めないといけないのが現状だ。
その為、知り合いの喫茶店の接客などをして働き、未来への努力中なのである。
「今日はバイトなんだ、だからすまん拓海でも誘って、いやアイツはアレだった」
「そうそう三組の菊理に告って振られて傷心をキャンパスにぶつけてる所さ。ま、気にすんなよ、誘いに来たわけじゃないんだ」
「そうなのか?」
「ああ、俺の趣味の範囲で小耳にはさんでな」
チャラ男、七瀬桂二。彼の趣味は情報収集、見た目通りの軽い口調と甘いマスクを武器に、校内のグループにいつの間にか入り込んで話を聞き出すタチの悪い男である。ここ最近では校内だけではなく、町のいろんな場所にも出没しているとも聞く。
眉間に皺を寄せつつ誠一は話すように促す、見た目と違ってこの男は情報の扱いはしっかりしているようで、人に迷惑をかけるような情報は口に出さないのだ。そんな男が話す趣味の話には過去何回か助けられているので、誠一は話を聞いてみる気になっていた。
「最近町が騒がしいってのは聞いているか?」
「ああ、うちの喫茶店の灯さんから聞いている。どうも商店街の組合で、暴力事件が多いらしいな」
「そうなんだよ。どうも裏高見原でいくつかのチームが抗争になってるとかでな」
「なんじゃそら」
裏高見原。いわゆる何処の町にもある治安の悪い地区の高見原における通称である。
この都市の黎明期、色んな業種の人間がこの地に集まった。中でも多いのが日雇いの作業員だ。
ほとんどの人間はある程度の都市が出来た後に別の地域に散っていったが、そのまま住み着いた者もいた。その中にいたのがいわゆるヤクザとか半グレとかいう人種だったのだ。
そんな奴らが集まったら出来るというのがスラム街だ。
森林街(高見原において森と街が融合しているためそう呼ばれる)の間に出来た隙間に屯す浮浪者や不良、半グレ集団はそれぞれ身を寄せるように集まってチームを作っていた。
「二日前くらいかな? 裏の最大チーム『ボルテックス』のリーダーが瞬殺されたらしくてな。それが切欠でチームは解散、有力幹部が他のチームにばらけた所為で路地裏は戦国時代よ」
「いやいやいや、日本でも有数の最先端の街の裏側が戦国時代とか意味わからんし」
「悲しいけど現実なんだなこれが。まあそんなんで気を付けろってこった」
「気遣い感謝するよ」
誠一は荷物をカバンに詰め終わり背負うと、話を切り上げるように教室の扉に手をかける。
「…なあ桂、今度流行りの遊びとかを教えてくれ」
「ああ、いいよ。またな誠一」
「ああ」
誠一の背中を見送りながら、桂二は溜息を吐きながら呟いた。
「不器用すぎんだろアイツ。素直になりゃいいのにさ。まあ、いいさ。今日は俺も忙しいしな」
高見原の山側にある『高見原学園』から地下鉄を使い、桜区石上町にある石上神社公園駅で降りる。地下鉄の出口を出ると海側に大きな岩山が見える、山の中腹には石上公園があり、頂上には神社がある。その反対側は神社の門前町が広がっておりここも他と同じく森が広がっており薄暗い情緒あふれる街並みになっている。その門前町から少し外れた裏路地にその店はあった。
レンガ壁に蔦が絡まった味のある趣の店、喫茶店『里桜』。その店に駆け込む影があった。
「ん?」
喫茶店の店長、雉元灯はコーヒーを入れる手を動かしながら店の入り口を見れば、肩で息をした黒髪の青年がいることに気づく。
「誠一君じゃないか、バイトにはまだ早い…と言うかどうしたんだい肩で息をして」
「ああ、灯さささん。いいい今そこで、車に轢かれたんです」
「誰が?」
「おっ俺がです!!」
「………ん?」
話す内容に意味の分からなさに、灯は細いフレームの眼鏡のブリッジを押し上げながら首を傾げた。
いつもの日々には、加筆修正。変わる世界は書き直しです。そのために遅れます。