そうして二人で
「で、どう言う訳で俺が君を手伝う事になったんだ?」
「私に言われてもね、何か…流れ?」
「なんで疑問形かなぁ」
場所は今だ神社の裏、あれから目覚めた誠一は縁側で彩と顔を突き合わせていた。話し合う内容は『彩ちゃんを手伝ってあげてねー』の一言で帰っていった思惟の弟子への命令だったりする。
「別に手伝ってくれなくても良いのよ? 探るくらいなら私一人で出来るし」
「いや、やるよ。思惟さんから言われたのもあるけど、さっき思惟さんも言ってたけど君お姉さんに似てるだろ?」
「それがどうしたのよ」
「猪突猛進タイプ」
彩は目じりを釣り上げ平手で誠一の肩を叩く。デリカシーのない言葉だから仕方がないとは言え、身に覚えがある上に思惟に言われたので文句は言えない彼女だ。
咳払いしながらも話を続ける。
「うっうん。とりあえず…協力してくれるなら、ありがたいけど…いいの?」
「いいよ、なんか君ほっとけないし。ついでに俺、今少し力を持て余し気味でさ」
「もて余す? 覚醒したばかりだから?」
「いや、俺の固有能力ってのが身体強化に偏ってるらしくて」
「偏り? 一部が強くなる『パーツ』系統?」
能力者の中でよくある能力がパーツと呼ばれる系統だ。腕などを強化する『グラップ』『リフト』、足などを強化する『ジャンパー』『スプリント』、五感で言えば『リスナー』『テイスト』『テレスコープ』『スメル』『コンタクト』などがある。これらは身体能力系で良くあるものであるが、誠一の能力はそれとは違っていた。能力の効果範囲は神域の範囲である、しかし誠一の神域は普通の能力者としては極端に狭い。その影響で誠一の能力は自身と皮膚から数センチにしかない為、能力が自身にしか影響が出ないのだ。
「水分子操作?」
「そうなんだ、しかも自分の体にしか効かないと言うね。まあ、何となく運用方法は頭の中で思いついたからやったらこんな感じでさ」
そう言うと先ほどと同じように大きな岩をヒョイと持ち上げた。それを見て思惟と同様に彩も顔を引きつらせる、能力のあまりのピーキーさに絶句しているのだ。誠一が軽々と持つ大岩の重さはおおよそ2トン、普通の人では絶対に持ち上げられない物だ。鍛えた人間でも無理なその重さクレーンを使わなければならないほどの重量を誠一は力みもせずに持ち上げたという事は、その膂力が励起法で強化されている身体をさらに尋常ではないレベルで強化しているという事だ。
「とんでもないわね。物質操作系で直接岩を操作とかじゃないのよね?」
「ああ。水分子を操作して体の表皮と体内でパワーアシストするスーツを着たようになってる」
「それは、凄いわ」
あまりの性能、ピーキーさに改めて彩は顔を引きつらせる。
「まあ、いきなり身体能力が上がったせいで体の動かし方が今一ブレーキがかかってて、あの様なんだ」
「ああ、あなたが師匠にボッコボコにされてたのはそういう訳ね」
つまりはそういう事だった。力が普通に強くなっただけなら良かったのだが、一つ間違えれば周りを壊しかねないし人を殺しかねない強化倍率の高さ故に、加減がうまくいかない隙を突かれボッコボコにされたと言うところだ。
「とまあ、力加減を覚えるために護衛代わりに使ってくれ」
「それは良いけど…」
もし何かに襲い掛かられたら簡単に叩き潰せるどころか完全に蹴散らせる。
彩は肩の力を抜いて息を吐く。
「お願いするわ…」
「まかせてくれ」
一息ついて二人は話を進める。
「それでどうやって君のお姉さんの事を調べる?」
「まずは姉と同じ研究所にいた人を探そうと思うわ。姉さんの足跡を追うにしても、私の知らない姉さんの事を知らないといけないと思うの」
「…いや、その同僚の人に話を聞くとしてもそう簡単に教えてくれるか? 研究所って火災事故があったんだろ? 何かとんでもない事があったかもしれないと考えたら難しくないか?」
「そこは私の能力が使える」
彩はにっこりと笑い胸を張る。
彩の能力『モーション・エモーション』は相手の頭から漏れ出た脳波や筋肉から漏れ出る微弱電波を感知し相手の感情や思考、動きを読むと言う能力だ。
「要するに読心の能力って事か?」
「そうよ。ちなみに今あなたは…私と同じ読心系の能力者を知ってる? 間違ってる?」
「えっあ、ああその通りだ。」
話を聞いたとき誠一が思いついたのが先日聞いた友人の拓海の事だ。ちょっと考えただけの事から細かい事まで読み取っている、本当だと誠一は確信する。
「要するにその能力を使って相手の心から直接情報を抜くって事か?」
「そういう事。それともう一つ、霧島の剣士を探したいの」
「霧島の剣士?」
霧島の剣士、その名は裏の世界で有名な能力者の剣士だ。励起法で強化された身体能力で銃弾を躱し、あらゆるモノを断ち切る雷速の剣士。そしてその彼らには共通の特徴がある。
「レインコート?」
「そう、文明開化以前は頭巾や編み笠だったらしいんだけど、それ以降はレインコートを全員羽織っているらしいの」
「それはまた奇特な」
「私もそう思う。けど話によると、そのレインコートや元となった頭巾や編み笠も特殊な素材で出来ているらしくて、それが理由で来ているらしいわ」
「ふーん。で、なんでその剣士を?」
「五年前、私に姉さんの事を教えたのがその剣士だったの。死んだって言われて気を失ってから、次に目覚めたのが今お世話になっているお爺ちゃんの家だった。あの剣士私とお姉ちゃんの事を知っているみたいだったの、じゃないと私とお姉ちゃんの二人暮らしだったこととか、他に身寄りがいないってのを知っていて色々手続きがすんなり行く訳ないもの」
「お爺さんは何か知らないのか?」
「多分知ってると思う、でも教えてくれなかったし私以上の古いの能力者は心を読みにくいらしく何もわからなかった。多分私を気遣ってくれてるんだと思うけど…」
「それじゃあ手掛かりは」
「断片的に周りの人から聞いた所で解ったのが霧島の剣士って事だけ。それで最近色々と聞きこんでたら高見原の噂を聞いたの。『桜坂の剣士』」
『木刀一本』で高見原の裏の世界の人間を叩き潰す、黒い『レインコート』を羽織った『桜坂の剣士』。共通のキーワードが多く彩は、何かしら繋がりがあるかもしれないと思いこの街に来たと言う。
「それで桜坂の剣士をおびき出すために裏路地の不良やチームを叩き潰してたら、案の定見つかって。そのまま追っていったらあの屋上であなたと出会ったって事よ」
「なるほどね」
あれは偶然の出会いだったのか、と誠一は思いながら話は続く。
「だったら、どっちを優先に?」
「もちろん、どっちもよ!!」
「きつくないか?」
「大丈夫よ、多分‼」
なんか良く分からない自信ありげに言う彩に、一抹の不安を感じながら誠一はやっぱり猪突猛進なんじゃ?と思った。




