能力者の定義
再び神社裏へと帰ってきた。誠一が泣き疲れて眠ってしまった彩を背負ってきていた以外。では行きとメンバーは変わらない。変わったのは意識だ。
「思惟さん」
「解っているわ。聞きたいことがあるんでしょ?」
「はい」
気功とは違う体の強化から始まり、車に轢かれても大丈夫な自分と林間学校で見せた東哉の不思議な能力、何か知っているであろう桂二の言動と拓海から聞いた話。
そして先ほどのだれか知らぬ第三者。
「色々聞きたいことがあります。特に能力者の事を」
「あー先に気付いちゃったか。…近いうちに教えるつもりだったからいいか」
あーあ、とあからさまにガッカリした思惟に誠一は苦笑いしかない。おそらく彼女の事だから、自分の驚く顔を見たかったのだろう。それはそれとして、教えなきゃねと思惟は割り切って話を始めた。
能力者とは、超人的な力を発揮し超能力に似た奇跡のような現象を操る者の総称である。
その歴史はとても古く、日本において表の世界に出せない裏の世界の歴史書『ヒメカミ神代記』によれば紀元前より前から存在する者たちらしい。
このような記述は日本だけではなく世界中にあり、日本と同様に『神話』として残っている。
縁側で世間話をするように語られたのは、そんなファンタジーめいた話だった。
「まあ眉唾に聞こえるけど。そういうものだと思って聞いてなさい。ともかく神話の終わりぐらいにチラホラと出ているところから、能力者は古くは神話の時代に神と呼ばれていた者の末裔と言われているわ。その名残と言われているのが能力者の古い分類方法」
「分類方法、ですか?」
「一つ目が月読系譜、今では識者と言われる感知系の能力者。二つ目が天照系譜、導士と呼ばれる操作系の能力者。三つ目は素戔嗚系譜、法師と呼ばれる空間・概念支配系の能力者。」
「それは、神の名前ですね」
「そう、だから神の末裔とか言われているの。まあ他にも色々理由があるんだけどね。そして近年の研究の結果、能力者の定義は三つの要素からなると言われているの」
近年の研究者『重金一族』によって定義された能力者の三要素。
それは『神域』『固有能力』『励起法』の三つである。
『神域』
能力者による絶対的な空間。正確には能力者の支配範囲であり能力の効果範囲を意味する。
『固有能力』
能力者個人々々が持つ固有の能力である。火を操る能力を持つ者はそれのみでありそれ以外の能力を使うことが出来ないと言う事。もし二つの力が使えるのであれば、それは二つの力を使える能力という事である。
『励起法』
使用者の身体を全体的に強化する究極の強化術である。体の一部だけではなく全体的に行う強化法で強化率が乗算と言う特徴を持つ。
「…?」
そこまで聞いて誠一は思い出した。自分の肩に寄りかかって眠る少女が言った『励起法』という事を。
「思惟さん。もしかして俺が使っているあの特殊な気功って」
「そうよ。あれが励起法、能力者のみが使える究極の身体強化」
「…もしかして、俺『能力者』ですか?」
「そうよ、あなた今気づいたの?」
ようやく気付いた誠一であった。
「と言う訳で、何はともあれ実践よ」
「いや鈍い自分も悪いですけど、説明がおざなりでいきなり実践って雑すぎません?」
「前から思ってたけど、あなた脳筋よりで少し鈍いみたいだからこっちの方が良いのかなってね。論より証拠、百聞は一見に如かず、実践に勝るものはないってね。構えなさい」
そう言って思惟は誠一に構えを促す。誠一は言われたとおりに構える。左を前に出した半身、身体の中心を隠すように構える。
「最初は『神域』これは出来ない人の方が少ないわ。意識を集中しなさい、それと周囲の空気の分子一粒まで意識するのよ……ん? なんかおかしい?」
誠一は言われた通りにした、出来るだろうなとやってみたが思惟は訝しげに目を細めている。
「思惟さん何かおかしいですか?」
「おかしいと言っちゃ、おかしい」
目を細めて見ている思惟は言う。
思惟自身も能力者だ。先ほどの分類でいえば彼女は『識者』の能力者、『固有能力』は『流れ』を読むと言う単純かつ強力な能力『潮読み』だ。
彼女は五感でありとあらゆる流れを読むことが出来る。例えば空気ならば風の流れを、水ならば水流、気の流れや人の流れあらゆる流れを読むことが出来る。
そんな彼女が見えていたのはその神域。
「せっま。何その神域の範囲、メチャクチャ狭い」
「え? 狭い?」
「普通は体表から5mから10m位なんだけど、何て言うか」
思惟は眉間に皺をよせ目を凝らしながら誠一を見ると言った。
「5mmから10mm?」
「なんでそんなに狭いんㇲか俺」
「んー、多分。神域内の空間処理精度が普通の能力者の倍なんだと思う、それに反比例する様に範囲が狭いんだと思う…まあいいや、置いといて次行きましょう。励起法は出来るから固有能力かー」
困った顔で思惟は言う。これは教える事は出来ないと。
「能力者は生まれながら一つの計算式を持って生まれると言うの。それは世界を見るためのレンズであり、世界を動かす歯車であり、世界を作り替える鍵でもある。それはもうあなたの中にある、神域の範囲を見なさいそこに答えがあるわ」
そう言われ誠一は素直に己が色濃く感知できる範囲を探る。身に纏うそれは色濃く見えるナニか、例えるならば光が届かない深海の底の水、圧力で圧縮された深い深い水底の水。
意識が底を探る。
深く
深く
深く
深く
「誠一?」
何となく解った。
誠一は唐突に歩き出す、向かうのは神社の裏にある大きな庭石。大きさは彼の股下ぐらいの大きさでおそらく二トンぐらいの岩。
その岩を誠一は、さりげなく、力を入れるようでもなく、鞄を持ち上げるかのように持ち上げた。
「何と、いう」
あまりの光景に思惟が絶句する。能力者であればあれくらい出来ない事はないが、あんな力まずに軽々と手荷物を持ち上げるかのようには無理だ。励起法の出力を上げれば出来るであろうが、励起法の発動時に特有の空間波がない。という事は、答えは一つ。
「それが固有能力ね」
単純かつ強力な能力に思惟は戦慄する。強化の重ね掛け、恐ろしいまで身体能力を爆発的に引き上げる能力であった。




