表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもの日々に  作者: ルウ
過去を追い求めて
25/174

彼女の理由

石上神社公園と言う場所は、神社と名が付くだけあって岩山の中腹に神社がある。この神社は三島神社と同じ大山祇命オオヤマツミノミコトを祭神として祭っている。配祀(祭神以外の神が同じ神社の中で祭っている神の事)は岩永姫だけと言うとても珍しい構成となっている。大山祇命を祭る本殿から少し離れた、人が寄り付かない岩永姫の神殿の裏側が誠一のいつもの修業場所だ。

その神殿の裏側では、縁側に座る思惟とその前の石畳の上で正座する誠一とキャスケット帽の少女である。


「…」

「…で?事情を聞かせてもらえるかしら?」

「思惟さん襲い掛かられたのは俺なんですけど、なんで俺も正座?」

「喧嘩両成敗」

「酷いっ」


少女は視線を下に向けてダンマリだ。そんな彼女を見ていた思惟はやれやれと溜息を吐く。


「はぁ。あなた姉に似て猪突猛進ね。目的の為なら一直線、周りを見ずに突撃。顔も似てるけど、性格も一緒」


思惟の言葉を聞いて少女の顔が跳ねるように上がった。


「姉を、知っているんですか!?」

「良く知っているわ。ここを降りて門前町に入って一つ路地裏に入った所にあるレンガ造りの喫茶店『里桜』。そこの常連客仲間って所だけどね。」

「私、姉を探してるんです‼」


それを聞き思惟はやっぱりと言う顔で目を眇めた。


「あなたのお姉さんの事は知っている。けれど…」


口ごもる思惟に何か言いにくい事があるのが見て取れる。言わなければならないけど言えない、そんな雰囲気だと口が出せない雰囲気の中で誠一は思った。

右手で口を押させて思惟は懊悩していた、しかしその悩みは答えは出ない、少女はそれを見て懇願する様に願いを口にする。


「お願いします。五年前に居なくなってから、待ってたでもいつまでたっても帰ってこない。だから私、能力を使って色々探したんです。でもそれでも見つからなくて…。多分お姉ちゃんは…」


少女は暗にもう生きてはないと思っていた、だから思惟が言いにくそうとしているのだと。


「思惟さん…」

「わかったわ。来なさい」


不安そうな誠一の目と懇願する少女の目に思惟は肩の力を抜いて仕方ないと立ち上がると境内の奥へと歩みを進める。




石上神社は名の通り巨大な岩山の中腹に建てられた神社である。それゆえに普通は登山には難しいのだが、この岩山は海側の切り立った崖以外は比較的なだらかで起伏が少ない。

そのために比較的大きな神社が建てられ、人の往来もそこそこで参拝客も通年をとおして多い。しかし、どこもそんな場所ではない。

神社の傍にある立ち入り禁止の札が建てられた林道、そこからゆっくりと海側へと回りこむ道が存在していた。

思惟はその立入禁止の札の横を通り、誠一と少女を手招きする。


「こっちよ」

「思惟さん、ここ立入禁止って書いているんですけど」

「ここの神主にはいつでも来て良いって了承済みよ」


岩肌を削り作られた道を歩く、筒状に山をグルリ回る様に削られた道は二人が肩を寄せ合えるように歩けるぐらいの幅。

話の内容的にあまり口のはさめない誠一は少し気まずい、ただただ気まずい。正直な話、襲ってきた相手だが、なぜそんな事をやったかを聞きたくて、ついて来てしまった事に後悔している。まあ、来てしまったものはしょうがないしなぜか気になるし、先ほど襲ってきた時とは違い口元は不安で引き結ばれ手は固く握られていた。

誠一はそっと彼女を岩山側へと引く。


「えっ?」

「………」


海に近づき岩山に吹く風は誠一がそっと遮る。その気遣いに、彼女はほんの少しだけ肩の力を抜けた。

無言で歩く事、五分。神社とは真逆、岩山の海側は大きな洞となっており開けた場所に出た。


「ここは?」

「ここの神社の禁足地よ。本来は入れないけど、ここの祭神に許可を出してもらっているから大丈夫」

「祭神?」


「そうよ」


突然の声に誠一と少女が声がした方へと顔を向けるが誰もいない。周りを見れば誠一たち以外は誰もいない。

警戒する二人を尻目に思惟は話を続ける。


「ご無沙汰しております、咲夜様。こっちは私の弟子の誠一、そしてそっちの子は奈緒美の妹の…」

「彩です」


そういえば名前を聞いてなかったと思惟が言いよどむが、少女は素早く察して名を告げる。


「彩、折紙おりがみ あやです」


そう名乗った。


「…そう、あの子の妹ね。という事は」

「そういう事です」

「わかったわ。私はもう少し寝ているから、今度はお神酒を奉納してね」

「わかりました。では、後日お伺いします」


そこまで言うと声の主はそれ以上何も喋らなかった。思惟は一息空けると、洞の中心へと向かう。

海が見える洞の中心には樹が一本、その樹の下には小さな祠が置いてある。

彩と名乗った少女は祠を見て、目を見開きフラフラとおぼつかない足取りで近づく。

誠一も近づいて祠の中が見えると、そこに何かが収められているのが分かる。


「ブレスレット?」

「おねぇちゃん…」


彩が崩れ落ちる様に樹の前で跪いた。慌てて誠一は倒れそうになる彼女の細い肩を支える。


「おい」

「これ、お姉ちゃんにあげた、ブレスレット」


よく見ればそこには組紐に天然石をあしらった少し古ぼけたブレスレットが入っていた。見た感じ既製品では見た事がないようなデザインなので、おそらく手作りだろう。だから彼女は様に判別できたのだろう。話の内容、彼女の様子と今の場所の雰囲気から考えるとここは。


「そう。ここに貴方のお姉さんは眠っているわ」


樹木墓、そう呼ばれるものなのだろうと予想が付いた。

洞に泣き声が響く。





彩が誠一に縋りつくように泣き続ける事30分、ようやく落ち着いた彼女が泣きはらした目を上げる。


「どうして、どうしてこんな事に」

「詳しくは知らないのよ。私が知っているのは、彼女はこの町で研究員をしていた事と五年前の高見原港区の大規模火災の関係者って事と、死因が普通のじゃないって事」

「死因が普通じゃない?」


息を吞み口を引き結ぶ彼女の代わりに誠一が言葉を紡ぐ。


「五年前の火災の時、私の知り合いが彼女を連れてきたの。体の所々を焦げさせ、火傷と血だらけだった。普通に考えたら火災に巻き込まれたと思ったでしょうね」


そこからの話はとても信じられない事だった。連れてこられた彼女を病院で見せた方がいいと思惟は言ったのだが、連れてきた男が無理だと言ったという。

その理由はすぐに分かったらしい。傷だと思ったのは外傷ではなかったらしい、それは体の中から突き破られた傷だったらしい。


「驚いたことに、それは体の中から突き破る様に出ていたの。私はありえない事で驚いたけどすぐに何とかしようと思った。でも出来なかったのよ」

「出来なかった?」

「そう、出来なかった。樹は彼女の体だったのよ、体の一部が樹へと変わり自分自身の体を突き破っていたの」


あまりの異常に調べてみれば、その樹は彼女自身の体組織が変化したものだったらしい。そのせいか治療が困難になり、彼女は帰らぬ人となった。


「あの子は健康そのものだった。それは私が確認している。突然何かの病気になったかもしれないと思ったけど、あんなおかしな死因は普通じゃありえない。だから私は方々調べてみたわ」

「…何か解ったんですか?」

「『偽神薬』おそらくそれが原因」


それは誠一が聞いた事がある、この街に蔓延しつつある薬の名前であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ