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いつもの日々に  作者: ルウ
幕間 学園都市
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学園都市 後編

最初は体が怠いという訴えだった。10歳の少年が言うには体が怠く、動くのが億劫という事だった。普通に考えれば、過酷な実験施設からの解放により体調が悪くなったのかと考えた。しかし、それは違った。少年だけではなく同じように保護されていた数人の子供たちが同じ症状になり、それが全員に波及していったのだ。

この件について重く見た学園都市の上層部は、能力者の生態に詳しい重金浄教授に解決を依頼。科学の天才と名高い教授に頼めばすぐに良くなると思われたが、状況は違った。

最初の少年の体調は良くなるどころか悪化したのだ。


「最初は何らかの毒物かと思い検査したが、血液検査には反応なし。何かの病原体かと考えたが、保護したもの全員の症状が違いその可能性も消えた。何日も検査をするも原因が見つからなかった」


対処療法で命を維持しているが、原因が見つからない限り直すことはできない。このままではゆっくりと命の灯が消えていく、浄が焦るなかでタイムリミットが来てしまう。

最初の少年が亡くなってしまったのだ。


「それからバタバタと人が死ぬなかで、懸命に解決の糸口を探した。そして、ようやく気付いた。奴ら遺伝子をいじっていたんだ」


必死で探るなか浄はある点に気づいた、死んでいく人間は血液の中にあるホルモン量が異常に多かったり少なかったりしているのだ。

これはホルモンを出す遺伝子に異常が起こっている事が見て取れた。しかし、解ったとしてもすぐに治すことが出来ない。何故ならば、異常があるのは解るが治すとするならば元の遺伝子配列が解っていないといけないからだ。


「そして我々は治療を始めたが、間に合わなかった。時間が経つごとに一人一人の症状が変わり、どうやら同じ部分ではなく、様々な場所が弄られていることが分かった。そして手を尽くして救えたのが三人だけ。いや三人も救えたと言っていいものか」


自嘲気味に笑う浄。彼の表情に、とても苦労してるんだなと莉奈は思った。


「何、他人事みたいな顔をしてるんだ。おまえに関係することだぞ」

「はっ、そうだった!!」


東哉や養父、学校の友達と過ごした日々がとても楽しくて、忘れていたのだ。大切な日々があの苦しく耐えていたあの日々を塗りつぶしていた。

「まあ、忘れるぐらいの方がいい。…検査結果だが、問題ないと出ていた。あちこち弄った跡があったが、生活に支障がないところを見ると問題はない。むしろ、君は能力者としては出力が高いぐらいだ」

「出力、ですか?」

「例えば君と同じ能力者がいるとしよう。同じように能力を発動すると君の方が射程、演算速度、エネルギー量が高くなる」


これは明らかに遺伝子を弄られているのが原因だ。自分がそうならば、と考えた莉奈はまさかと慌てる。


「私がそうなら東哉はっ」

「安心しなさい。そちらもちゃんと調べている。本人に無断だが血液検査と遺伝子検査を行っている」

「へっ?」


ついこの間、林間学校で二回ほど吹き飛ばされて(一度は誠一、二度はほぼ自爆)いるので、採決と検体を取るのは簡単だったりする。


「結果を見る限り、こちらも君と似たり寄ったりって所だね。偶然かそれとも何かしらの要因かは分からないが良かったと思うよ」

「はっ、はあぁぁぁぁー」


莉奈は思わず力が抜けてその場にへたり込んだ。先ほどの話を聞いた後だからこそなおさらである。


「ただ気を付けることがある…これだ」


浄は机に置かれていた透明な瓶を莉奈に見えるように出した。それは三錠の透明なソフトカプセルの薬、色は緋色を濃くした黒で中にきらきらとした金色の粒が見える。


「それは?」

「偽神薬と呼ばれる、一時的に能力者になれる危険な薬だ」




学園都市内にあるシャトルバスに乗り込み、莉奈は今日一日の事を考える。

逃亡生活が隠遁生活になり。それが当たり前になって、いつの間にかに能力者達の普通の生活になった。そんな中での色々な秘密。世界の裏では能力者の世界がある事、風文には別の名前があり貴族である事。色々聞いたが一番は、五年目の逃亡は逃げられていたようで逃げられていなかった。


『スレイブジーン』


重金浄教授を中心にしたチームによって名付けられた遺伝子パターンの名前である。元は能力者の遺伝子のどこが何の働きをしているかの為に行われていたが、それをそのままホルモン異常を起こす事により逃げた者や裏切り者を始末する様に変えられたのではないかと言うのが浄の推測らしい。

しかし、その推測はあながち間違ってないと莉奈は思っている。保護された子供たちの死に方に覚えがあるのだ。


「許せない…」


自分の命や東哉にもそんなことを強要したのも許せないが、莉奈は思い出したのだ。一番最初にあそこに連れられた時の事を。あの時いたのだ、大きな部屋を埋め尽くすほどの数百人の子供たちを。


「人の命を、弄んで。未来を閉ざして…」


あの子供達だけではない、それだけは確認はしていないけど解った。あの場所にいた私だからわかる。だから、そう呟いて莉奈は渡された携帯のメールを起動して、決意したことを手早く打ち込んだ。送ったメールは電話の着信で返ってくる。


『本気か?』

「本気です、今のままじゃ東哉はおろか私もいずれは捕まりますよね。だからこそあなたはこの学校に私を入れ、自然と力を付け生き抜けるように誘導した。違いますか?」

『…いや、違わないな』

「そして教授との会話、あれは妙に不自然でした。あれ本当は、私に聞かせるだけではなく今の現状を私に考えさせるもの」


そうあの会話は少しおかしかった。検査結果が良いならば自分をあそこまで脅すような内容を言う事はないはずなのだ、しかも東哉の事を出してまでとなるとと考えた結果はこれだ。

「…感謝しています。私をこの学園都市で匿うつもりだったんですよね? このまま高見原にいたら私が暴走するかもしれないから、知らないと暴走するし知っていると動けなくなりますから」

『だったら大人しく…』

「いいえ、私は思い出したんです。私と東哉、天子と保護された子供達だけではない名も知らない多くの子供、同胞たちを。…天子に聞きました、古代から続く能力者の統括組織。その中でも能力者達が引き起こす災いを封じ込める、あなた達『八方塞』を」

『天子め、余計なことを…』

「私も戦いたい。いえ戦わせてください!!」


それは薄暗いバスの中での決意。莉奈には、その行道は暗夜行路、先行きの見えない闘争の道に見えた。


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