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いつもの日々に  作者: ルウ
幕間 学園都市
22/174

学園都市 中編

「それはとーもーかーく」


稲葉は先ほどの深刻な雰囲気が霧散して、にんまりと笑う。それは何となく獲物を前にしたオオカミ様な笑みの様で、莉奈は思わずのけぞる。


「ずっと聞きたかったんだけど。あなた、ここに来るときイギー様に付き添ってまらったんですって?」

「そう!私も聞いた聞いた、イギー様に連れられてきたって聞いたときは羨ましーっておもったもん」

「イギー様? え?」

「イギー様。ここの卒業生で理事会の役員も務めてる。エッグハルト・F・フランメワンド様よ!!」

「…誰っ⁉」


初めて聞く名前を聞いて目を白黒させる莉奈。どうも状況から考えると風文の事だと思うが、名前が明らかに違うどういう事かと聞けば興味深い話が返ってきた。


「ドイツ貴族?」

「そうそう、先輩から聞いた話だとドイツの古い貴族のうちの人らしいよ」

「Fってつくのは、あれでしょ、ほら貴族の名前につく尊称? えーと」

「違うらしいよ。隈ちゃんが言ってるのはたぶん『フォン』じゃない? 新素材開発室の新海先生があれはフォンじゃなくてフランメらしい」


フラメにフランメ同じ言葉が続くややこしい名前だと莉奈が考えている中でも女子二人の会話は続く。


「どうも、ヨーロッパの中でもドイツで有名な能力者貴族の称号らしい」


ドイツにおいて、フォンは貴族を表す称号の様な物である。例としてはリッター(騎士の事)ヘル(領主の事)などが付く場合がある。中でも連綿と続き数多くの能力者を輩出する貴族毛はこのように付く場合がある。FフランメBボードンWワッサーなどだ。


「えー、あの美形で学園の理事で貴族とか、王子様っぽくない」

「それな。解るわー。で、そんなイギー様に連れられた莉奈ちゃんはどういう関係かなーって、おねーさん達は思うのです」

「はっははははー」


思わず乾いた笑い声が出る莉奈。能力者たちの中にいるからあまり気にしなくても良いだろうが、極力目立たないに越したことはないのだ。しかしどうしたものかと二人にどう説明しようかと頭を悩ましていると、その悩みの元凶が講義室の入り口で手招いていた。


「あー、スミマセン。呼ばれてるので」


松隈と稲葉が振り向くとそこには落ち着いた色のスーツ姿の優男がいた。


「ああ、イギー様。カッコいい、と言うか麗しい」

「両想いの恋に落ちたいわー」


ヤバい、何と言うかとにかくヤバい。いつもは朗らかな優しいお姉さんなのに、もうダメダメである。お先にと声をかけて莉奈は風文についていく。


「友達が出来たか?」

「なんで親戚のおじさんムーブなんですか」

「いや、お約束だろ」


クックックとかみ殺した笑い声、こう言う人を食ったような雰囲気は莉奈の回りに居なかったのでちょっと苦手だ。


「それで今日は何の用ですか? 最近は二日と開けずに来てますけど」

「ああ、訓練じゃないから安心すると良い」


ここに連れて来られてルーティンは意外と過酷だった。朝5時に起床して能力者としての覚醒を促す訓練、朝食を取った後9時から講義、昼食を経て5時過ぎから専門の『過酷な』戦闘訓練が始まり夕食を挟んで夜10時まであるというハードスケジュールだ。

特に風文が来ている時は過酷さが増すので、地獄そのものである。


「はっはは、良かったー。…それじゃあ、なんで来たんですか?」

「要件は2つ、一つはこれを渡しに」


そう言って渡されるのは1通の手紙、裏面を見ればそれは義理の父の名前が書いてあった。


「君の義父と連絡がとれた、そうしたら隊員経由でこれが届いた」

「ありがとうございます‼ それで、義父は大丈夫でしたか?」

「それなんだが、辛うじて大丈夫と言ったところらしい」

「そうでしたか…」


辛うじて大丈夫。能力を使ってバレた可能性が高い事態で、辛うじて大丈夫は予想していた中では良い方なのかもしれない。だけど、やはり莉奈は心配だ。


「引き続き調査はさせている、焦らない事だ。それと2つ目、こっちの方が重要だ」


そう言って止まった風文はドアを指さす。ドアにはプレートが貼ってあり、その教室の名前が書いてある。教室の名前は。


「重金生化学研究室?」




古臭い紙の匂い、それと同時に聞こえるのはパソコンの冷却ファン。扉を開けると同時に莉奈はこれが研究室かと感心した。


じょういるか?」


風文が声をかけるも返事がない。いつもの奴か仕方がないと呟きながら、黒縁眼鏡のショートヘアーの白衣の女性に声をかける」


友永ともながさん、浄は?」

「教授ならいつものです」

「ありがとう」


軽く感謝を伝えると風文は、研究室の奥へと入っていく。扉を開けると先ほどとは違って、とても奇妙な部屋だった。

部屋の壁は棘を生やしたように凸凹で四方と天井を覆っていた、部屋の中央には体全体を横たえれるような椅子があり、背広姿の男がゆったりと寝るように腰掛けていた。

男は眉間に皺を寄せながら目をつぶっていた、風文は近づくと男の肩を揺さぶる。


「浄、浄‼」

「ん? ああ、風文か。スマンな実験中で忙しかったんだ」


寝ていたのに実験中とはどういうこと?と思った莉奈の顔に、疑問が浮かんだのか風文と浄は笑いながら説明してくれた。


「能力者の能力は基本的にはバレない方がいい能力が大半だが、バレてもいい能力もある。その中でも浄の能力は知られても問題はない」

「まあ、その前提で話すと私の能力は『ラボ』、脳内に仮想的に世界を作りそこで実験することが出来る能力だ」

「仮想世界ってやつですか?」

「ああ、その認識で構わない。ただその世界は限りなく現実世界と同じ動きを取るがね」


重金研究室の教授、『重金おもがね じょう』の能力は言ったとおりである自分の中に世界をコピーしその中で実験をすると言う実験室いらずの便利な能力である。


「なんか便利そうな、実益のある?能力ですね?」

「いやいや、意外と使いづらい能力さ。論文として出すにしても、能力の中でやった回数分の実験をしなければならないしな。能力で行ったとしてもやる事は大切って事さ。そもそも荒事には使いにくいところもあるしな」

「よく言うよ」


苦笑いする風文は用事を促す。


「それより、血液検査と遺伝子検査の結果は?」

「こっちだ」


そう言いながら浄は椅子から立ち上がると、隣の部屋に移動する。そこは普通の部屋で、ローテーブルとソファがあり奥には机があり、その上にデスクトップパソコンと積み上げられた書類と本があった。浄は机の上のファイルを一つ取り出すと、紙束を引き出した。


「はら」

「私ですか?」

「菊理莉奈君、間違いないよ。君の血液検査と遺伝子検査の結果だ」

「血液検査は解りますが…遺伝子ですか?」

「そうだ。君は五年前のあの日より三年前に孤児院から集められてずっと実験体になってた、そうだね?」

「はい…」


莉奈は思い出す。小学校一年の時、両親は事故で他界。親しい親戚が近くにはおらず、そのまま孤児院へと送られた。それから間を開けずにつれて行かれたのがあの場所だった。


「気づいていたとは思うが、あの時に脱出したのは実は君たちだけではないんだ。あの時我々が保護したのは50名ほど、そして今まで生き残っているのが3名だ」

「えっど、どういうことですか‼」

「やつら、秘密保持のためにとんでもないものを遺伝子に仕掛けたんだ」



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