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いつもの日々に  作者: ルウ
混迷の林間学校
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混迷の林間学校 覚醒

身体が重い。

どこかの部屋で目覚めた時の思ったのがそれだ。さらに体中が痛い特に痛いのは腹、巨大なハンマーか何かで思いっきり殴られたかのような感じ、で起き上がろうとしたら滅茶苦茶痛かった。

首だけを動かして部屋の時計を見れば時間は夜の九時。


「九時ぃい、いぎぎっ!?」


慌てて飛び起きると東哉の体全体に痛みが走る。前言撤回、ハンマーどころじゃない車に轢かれたみたいだ。東哉が周りを見れば薬品が入った棚と白で統一されたカーテンとベッド。


「保健室…か?」


東哉は何となくだが、雰囲気的には病院ではないと感じていた。だったらここはどこだろうと周りを見れば、林間学校の時に持ってきた荷物がベッドの横に置いてあった。

時間は九時、病院ではないのであればここは施設内かと考えた所で、目覚める前の事を思い出す。


「たしか、あの女の子を止めようとして、変な声が聞こえ…」


東哉は何となく思い出した気がした。あの後、心を満たす負の感情の声に従って暴れまわった気がする。相手の顔や何をしたかはあまり覚えていない。おぼろげな感覚以外で覚えているのは…。

おもむろに荷物から行きがけに飲んだ空のペットボトルを取り出す。


「たしか…こう、だったは…ず」


おぼろげな記憶の中で行った感覚。それは感覚が拡大する感覚、自分自身の感情が乗っ取られたような感覚になったため感じたあの深く沈み込む感覚。体の隅々どころか自分の細胞一つ一つ、分子の一つ一つまで知覚する感覚。そして…。


「出来た」


手の中にある空のペットボトルが突然『崩れた』。溶けるとか潰れるのではなく、砂の城を崩したかのような、砂が飛び散るみたいなザラッとした崩れ方。


「マジかー」


東哉は思わず平坦な声で項垂れた。なぜなら超能力が使えるという一番あり得ない事態が起こったからだ。あの時、空缶が崩れた偶然が必然になろうとしている、いや今完全に理解した。頭を掻きむしると無理やり体を起こす。


「クソっ、なんだこりゃ。原子核同士の構成…分子同士の結合が、強制的に断ち切る。なんでか解る、理解できる………あー、今それどころじゃなーい‼」


何故か解る分子間を切断する力の使い方。それを行うための観測する力。

そんなものを一切合切に断ち切って、東哉はただ一つの事で動き出す。


「今は莉奈の事だ。何かを、何でもいいから何かを…」


動く度に入ってくる周りの情報が次々に入ってくる。そのせいで脳が沸騰しそうで、身体のダメージも相まって足がふらつく。それでも東哉は、扉を開けて行く。




東哉が部屋を出て数分後、入れ替わる様に入ってきたのは浩二達三人だった。


「東哉、大丈夫かーっていねぇ!?」


手掛かりが見つかる様に協力して送り出したら、意識不明で帰ってきた。心配しない方がおかしいのである。とりあえず意識が戻ったかと様子を見に来てみれば、ベッドはもぬけの殻。


「あいつ何処に行ったんだ?」

「順当に考えたら、海岸線に行ったんだとおもうが…こんな時間に大丈夫か? あんなことがあった後だぞ」


先生から聞いてはいた集団昏倒事件、原因が解らない事件が起こったばかりなのに居なくなった東哉が浩二達は心配を募らせる。


「でも、昏倒したばかりなら立ち上がるのも大変かもね。そこら辺で倒れてるかも」


そう天子が心配そうに呟くと、そうかもしれないと周りを探索しようという事となった。

「斎ちゃんはここで待ってて、すれ違いになるかもしれないから」


斎を残し、浩二と天子は部屋を出て東哉を探しに出る。


「浩二君は施設の海側を、私は一応逆を探してみるよ」

「おう、見つけたら携帯にメッセージ入れるわ」


そう言って二人は別れる、天子は角を曲がり壁にすぐに張り付くと浩二が離れたのを確認すると誰もいないはずの空間に話しかけた。


「東哉君は大丈夫?」

「ああ大丈夫だ。足がふら付いていたが弱いながら『神域』が展開されていた」

「あーとうとう、覚醒しちゃったか…莉奈ちゃんに何て言おうー」


何もない空間に浮く一枚の人型の紙片、そこから桂二の声が響いてきていた。その光景に疑問も感じない天子は聞かされた事実に頭を抱えていた。


「そもそも何で覚醒したの?」

「どうも海辺の芸術作品が罠だったらしい、よりにもよって『残響』の『儀式』装置らしい」

「失態じゃない?」

「そう言うなって、今回の話は菊理莉奈の頼みで、東哉の奴を誘導してガス抜きする予定だったんだ。今回の林間学校を利用しようって提案したのはお前だろーに」


そう今回の話は全て計画されていた事だった。自分がいなくなった後の東哉の行動は手に取るように解っていた莉奈は、自分を探し回るのは仕方がないとはいえ、無理したりするのを止めたかった。負担が溜まりどこかで爆発して倒れるんじゃないか危惧した莉奈は、ガス抜きの為にどうにかならないかと考えたのがこの話だった。


「能力者狩り集団の『ハウンド』の目を逸らす為に誘導したら、まさかのハウンドの罠があるとは思わなかったのよ」

「まっお互い様って事で頼むよ。とりあえず方針としては静観だな。こうなっては能力者としての最低限の事が出来ないと何かがあった時に危機回避が出来なくて逆に危険だ」

「だよね。私も先生から基本を徹底的に教わった後に気づいたもん。『神域』が出来たら後は『励起法』と『固有能力』のどっちかだろうね」

「『固有能力』は確認している。安定していないから確定ではないが、恐らくは分解能力だろう」


それを聞いて天子は悟られないように薄く笑った。あの時と変わっていないなと。


「それで? 私に式を打ってまで連絡とるとか何かあった?」

「緊急搬送で今回の件が向こうに伝わったらしい。『崩壊』ともう一人がこちらに派遣されてきた」

「『崩壊』!? それ大丈夫なの?」

「大丈夫じゃあない、だから連絡を入れたんだ。第三部隊の七瀬桂二から蒼羽天子に接敵とどちらか一人を撃破してほしい」


意外な依頼だった。天子が考えていたのは桂二と二人で排除だと思ったからだ。でも実際はどちらか一方、これはおそらく…。


「東哉君に倒させる気ね」

「俺がこっそりついて行ってサポートするつもりだ、上手くやって固有能力を安定させる」

「…わかった、んじゃ私がもう一方って事ね」

「あっさり納得したな」

「さっきも言ったけど、ここまで事態が行っちゃうと危ないからね、安定するなら早い方がいい。と言う訳で相手の情報が解ったらメールお願いね」


時間がないとばかりに話を切り上げると、天子はポケットから一つの指輪を取り出すと中指に通す。


「意外とスパルタなのな」

「痛くないと覚えないんだよ。あ、あはは。あはははは」


何かがあったであろう天子の乾いた笑いに察した桂二はあえて無視した。その間に天子は装着した指輪を持った手で虚空を掴むと虚空から染み出すように黒いレインコートが現れる。


「さてと、行きますかね」

「この借りは誠一を紹介するって事で」

「ちょっと桂二クーン‼」


羽織ると同時に聞こえる呟きに天子は目を剥いたが、振り向いた先にはもう誰の気配すらなかった。


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