混迷の林間学校 浸食
第三チェックポイントの抜けて、海岸線に行く途中奇妙な人物を見た。
フラフラ。
宙を歩くような怪しい歩き方、上体は揺れて目が虚ろ。酔っぱらいのように歩く姿だが、服装が学校指定のジャージなのでそれはないだろうと予想できる。
そんな状態の女子生徒を見て、東哉は一瞬だけ莉奈かと思うがすぐに違うと思い至った。
女子生徒の事は放っておいて莉奈探しをしようと思ったが、すぐに異変を感じ女子生徒を観察する事にした。
「なんだ?何かがおかしい」」
まあ、女子生徒が一人で、目が虚ろで、フラフラ酔っ払ったように歩く。とおかしな所だらけだが、何かがおかしいと東哉は見る。
フラフラと歩く女生徒のおかしな行動は多々あるせいで、なにがおかしいか分からない。
彼女はフラフラと海岸線へと歩いているだけなのだ。
そこで東哉は気づく。このままだと場所によっては彼女が海に落ちる。
「やっばっ」
東哉は女性を抑えるために走る、彼女との距離はそう離れていなかったのですぐに追いつく。
「おい、あんた大丈夫か!? そっちに行くとあぶな…い」
肩を掴み止めようとしたが、女性の首がグルリとホラー映画さながらに回ったのである。さらに目は虚ろで、口角に泡を飛ばさんばかりに無音で叫んでいる。
気持ち悪さよりも恐怖を感じる、その姿に東哉はグッと歯を噛みながら止める。
だがそれが失敗だった。
「やめって、なんだ…これ」
抑えようとした瞬間、それが聞こえた。
いや聞こえるとは違う、あえて言うなら突然耳の中に音が現れたようだ。
「やめ、やめ…てくれ」
聞こえる。誰とも知らぬ怒りが自分に入って斑に燃える。
「違うんだ俺が悪いんじゃ…」
聞こえる。誰かの焦燥が自分を焦らせる。
「死んだのは、生きているのは、俺は…」
聞こえる。誰かが死んだ悲しみが、死にそうな悲しみが心を重くする。
「俺の罪、君の罪、罪」
聞こえる。お前の罪だ、償えと心を蝕む。
憎しみが産まれ、恨みに囚われ、妬み嫉み………、あらゆる負の感情が頭の中に入ってくる。
「ぐ、ぐがぁあああ」
東哉は頭を抱えうずくまる。痛いのではなく頭の中をかき回す様な自分のモノでない感情の渦がだ。
そんな時だった、東哉は奇妙な感覚を感じた。頭中に入る情報が、何かしらのモノで遮られたのだ。
「おい、大丈夫か?」
しかしそのタイミングは少し遅かった。気を抜いたのがいけなかった、意志の力で抵抗してゆっくりと思考が塗りつぶされていたのが一気にいってしまった。心が負の感情に染まっていく。さっきの女生徒の状態を見る限り、まともな状態にならないだろう。声をかけて来た誰かに悪いなと考えながら、東哉は意識を閉じた。
「ヤバいって? どういう事だ、桂二」
足早でコースを反れながら誠一達は海岸線へと向かう。
「あの場所にはちょっと怪談めいた話が合ってな」
「カップルが別れるとかだろ?」
「いや違う、それはまだマイルドな方だ。あれが作られて、正確には実験施設の上の作品が作られてからこの公園には救急車の出動要請が多いらしいんだ」
桂二の話によると、あの作品が出来てから約一年ほど救急車の出動要請がグンと増えたらしい。出来た頃が一番ひどく一月で15人、二日に一人の割合と言う驚異の数字。
しかも恐ろしいのが緊急搬送された患者が意識不明、目覚めた人間が漏れなく攻撃的な性格になったと言うものだ。
「なんだそれ。超常現象か何かか?」
「僕それは解るかもしれない。昨日今日であそこに行ったときの話をしただろう? あの声が気のせいじゃないとしたら」
拓海が追随して話すと場の雰囲気が冷たくなっていく。そんな中、桂二が足を止める。
「『儀式』だ」
「儀式?」
桂二が慌てて携帯にメールを打っていく。どうやら何かしらの緊急事態が起きているらしい。
「ここだけの話にしてくれよ。…世の中にはあまり表に出て来ない技術があってな。その中でも超常現象や魔法の様な現象を起こすオカルトの総称を『儀式』って呼んでんだ」
「魔法みたいなって事は、今回のやつはその儀式なんじゃないかって事か?」
「多分な。オカルトみたいなとは言ってはいるものの。実のところ何かしらの隠された法則や技術だからな、状況と材料と知識さえあれば誰でもしかけられる…チッマズイ『残響』の仕込みか。誠一急ごう、これは罠かもしれん」
「どうした、落ちつけ桂二」
誠一が止めるが桂二は止まらずに走り始める。罠の一言でワンテンポずれた誠一と拓海が追った。
追った先、海岸線に着くとそこには異様な光景が広がっていた。
泡を吹いて倒れる作業服の男、布団の様に干される同じ学校の女子生徒、揺れる男女、地面に向かって罵倒を続ける男、涙を流しながら声にならない叫びをあげる女。
「なんだこれ…さっき居た時はこんなんじゃなかったのに」
「これが、儀式…何でこんな事を…おい、大丈夫か?」
少し離れた所で地面に手を付けた同じ学校の男がうずくまっていた。誠一は尋常ではない状況で動揺していたのか、今置かれた事を忘れ無防備に声をかけた。
「よせ、誠一‼」
音もなくスッと俯いたままの男が、予備動作もなく誠一へと手を飲ました。それは偶然ではなかった、何千何万回と行った拳法の套路が出たのだ。伸ばされた男の腕を半歩だけ踏み込んで払ったのだ。払われた手は空を切り、男はたたらを踏み柵を掴んだ。
瞬間、掴んだ手すりが消えた。跡形もなく。
「何っ!!」
「気を付けろ誠一。そいつ船津の手に触るな」
「解ってる…」
船津という事は、こいつが恐らく今回の拓海のライバル。それよりも気を付けないといけないのが彼の手だ。桂二に言われるまでもなく手に触れたものが塵になるのを見た。
原理は解らないが、危険なのは解る。
「手の中でプラズマが見えた。多分そいつの能力は分解だ‼ 触れるなよ」
「えっ? なにっ能力!? 要するに触れなけりゃいいんだな」
「そうだ、言い訳出来なくなるからケガさせんなよ」
「無茶言うなよっと!!」
今の状況を気にせずに襲ってくる東哉を体さばきと払い打ちで捌きながら誠一は、今桂二から言われた事を反芻する。
「能力ね」
どこかで聞いた単語に、誠一はこの一件が終わった後に桂二に聞くことが増えたと呟き両手をかざした東哉の手をかちあげ、踏み込み両手で腹を軽く押した。
「うおぉ、東哉死んでない…な、やりすぎじゃないのか」
「手加減はしている」
軽く打ったが物凄い音と共に体をくの字にして吹っ飛んだ東哉に、誠一は顔を引きつらせながら視線を外した。口から泡を吹きながら気絶している東哉、これからどうなるやら…。




