Serial Experiments 潜り行く者たち
「アリタメどうしたんだ? いきなり顔をしかめたり溜息を吐いたりして。」
またか、こいつは傭兵にしては良く話すなと有為は半眼でバルトを見る。しかしさっきまで挙動がおかしいのは自覚しているが、こいつは良く話しかけてくる…何かを探る様に。
有為がまさかと考えている中も、話は続く。
「何でもない。さっきの声明から動きがないから、これからどうするのかと考えていた。」
「たしかになー。このままじゃ俺ら囮で全滅しそうだし。」
「金さえ払えば戦場に行く傭兵も、死にたくはないからな…。契約があるから逃げれない。」
「そーそー。それに俺は思う訳よ、そろそろ引き際じゃね?」
傭兵としての考えを言うとバルトの雰囲気が少し変わる。
「逃げるのか?」
「そうだな、今泣逃げられると思うからな。そこでだアリタメ、一緒に逃げないか?」
「一緒に逃げるにしても、主要な場所は警官が包囲してるぞ? どうやって逃げる?」
「俺に秘策ありだ。あいつらここの通信室に何か運び込んだのを見ただろ? まずはそれを調べるんだ、行こうぜ。」
ホテルの通信室。その言葉に有為は徐々に疑惑が確信に変わってきていた。
人質を他の傭兵に任せたあと、一階の通信室へと二人で向かう。
一階の奥の角部屋、そこに入ると数台のモニターと椅子、ガラスで仕切られた大きなコンピューター。
そしてそれから伸びるケーブルがトランク大の電子機器。
「これは…受信装置、それと受信したデータを保存する大容量メモリースティック…これか?」
電子機器を調べるバルトがメモリーステックに手をかける瞬間、彼の肩に棒が当たる。
「あ?おいおい。どうしたんだよアリタメ。いきなり殺気立って。」
「一つ聞きたい、お前それをどうするつもりだ?」
「どうするつもりだって? それは、こう言う事だ!!」
手品のように取り出したナックルガード付きのナイフが、振り返りざまに有為の棒をはじく。有為とバルトはお互いに飛び退き、距離を取ったままお互いの装備を構えたまま睨みあう。
「やっぱりか、お前。どこのやつだ?」
「どこのやつ? どう言う事だよ、アリタメ。」
「西欧…いやお前の言葉の訛りと顔付きから…中東辺りか。」
「アリタメ、あんたもそうだろ? 食糧庫の番人さん?」
睨みあいは続く。バルトの表情は笑顔は変わらないが、その目は獰猛な光を放っていた。
その目を見て、食糧庫の番人と言う言葉で有為は確信する。
バルトの正体は恐らく中東辺りの情報収集機関の機関員、それも自分と同じ『能力者』の機関員。
バルトの言葉を皮切りに同時に行うのは励起法だ。
「余剰エネルギー波…励起法を使ったな?」
「お互い様じゃないか? お前も儀式使いなのに余剰エネルギー波が出てるぜ?」
仕掛けるのは同時、打ち払うように振った有為の棒を潜る様に避けるバルト。ナイフを抉る様に突き上げられるのを見て、やられると思うより早く有為は固有能力を発動する。
響き渡る硬質音、金属と金属がぶつかる様な音が通信室に響く。
「なっ何!?」
驚いたバルト、ナイフの切っ先が有為の鳩尾から五センチの位置で止まっているからだ。
呆けているバルトに有為の右足が振り上げられる、バルトはそれをガードし吹き飛ばされる。トランク大の受信機を巻き込んで。
「しまった!!」
バルトは受信機を巻き込みながらバネのように飛び退くと、その勢いで壁を走り開いた扉から飛び出した。有為が壊れた受信機を見ればメモリースティックが無くなっていた。
「クソッ、やられた。」
受信機を励起法で強化した棒で叩き壊すと、バルトを追うべく飛び出した。
目的の受信機破壊は上手くいった、しかし実験開始してはいないが何かしらのデータが入っているであろうメモリースティックを持っていかれた。
「データが入ってないと思うが、もし実験のデータが流出するのはマズい。」
どんなデータかは解らないが、もし今回のような非人道的な実験が流出したら国益を損なう事は間違いない。それ以前にこの実験がもし軍事的な事に転用するとなると、大変な事になる。
「そうはさせん。」
有為はデータの奪取もしくは破壊の為に走った。
観測装置の一台を破壊するべく、生垣の陰に隠れながらその周りにいる人間を窺っていると突然肩に乗せていた管狐の動きが止まる。
その次の瞬間には消えてしまった。
「なんだ!?」
『どうも向こうで何かあったみたいだな。』
「何か?」
『解らん、美波から聞くに限り。かなり慌てているらしいが。』
拓海はノイズが走った精神波から何とか状況を読んで斎に伝えていた。それを聞いて東哉は状況が差し迫っている事に思い当たる。
『どうした東哉?』
「状況が不味い気がする…こう言葉にできないんだけど、危険が近づいている感じがしないか?」
『…。』
それを聞いて斎は思わず黙ってしまう。東哉の言う通り、何か解らないが嫌な予感がするのだ。それはこの遊園地の異変を感じた時と同じモノ、いやそれ以上の…。
『確かに。危険が迫っている様な、今にも逃げ出さないといけない様な…。』
「だろう?何か心がはやる?そんな感じ…だから、早く頼まれた事をして予定通りの人質の解放に行こうと思う。」
『東哉!! それは危険だ!!』
「それでもだ。危険でもそれでも俺はやり遂げる。それは俺が成長したという事であり、目的なんだ。」
そこまで言われると斎も黙らざるを得ない。思いを寄せている相手に言われたら、やぶさかでないのだ。
溜息を一つ吐く。
『出来るんだな?』
「ああ、やれる。見てろよ俺が出来るところを!!」
『ああ、見てるさ』
そして東哉はベルトの腰の部分に付けておいた金属の板を取り出すと、足の裏に取り付ける。それは足の裏を縁取る様なスバイクの様な形をしていた。
「さあ、実戦で初めて使う俺専用の装備!!俺の成長!! いっくぞおぉぉぉ!!」
雄たけびの様な声と共に、東哉は生垣の陰から観測機器を守る傭兵に飛び出した。
弾丸の様に。




