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いつもの日々に  作者: ルウ
実験No.1 結び神
119/178

Serial Experiments 戦う訳


「煽られて来けど、これはなんか地味なんじゃね?」


遊園地の池の横から少し離れた目立たない場所から穴をあけ出てくる東哉。そこから彼は身を屈めて、励起法で強化された聴覚で周りを警戒しながら骨伝導イヤホンから聞こえる斎の指示通りに動く。


『地味だろうが、その通りやってもらわなければ困るんだ。』

「わかってるよぉ。でも、こうスニークミッションとか言うと、茂みから出て敵を倒したり、屋根の上から襲ったりすんじゃないのか?」

『それやったら死にかねんだろうが…テロリストの殆どは普通の人間だぞ?能力者のお前が、ちょっと力加減間違えたら死人が出かねない。』

「…それはマズい。」


能力者と普通の人間のフィジカルはかなり違う。励起法の強化は乗数強化と呼ばれる、それにより普通の人間に攻撃をかけた場合、斎が言った通り死人が出る。

それ以前に東哉はまだ高校生、大分場慣れ出来ているが人を死に至らしめる事は拒否感がある。


「誠一は、どうしてあんなに強いんだろうな…。」

『事情は知らないが彼は彼だ。強いのは確かに強いんだろうが、彼には彼の事情があって強いんだ、違いがあるとするなら…覚悟が違うのだろう。』

「覚悟…。」


これはあの事件の後に聞いた事だが、誠一は以前あの偽生徒会長となくなった記憶の時に知り合った仲間のクローンだったらしい。彼はその彼のクローンにとどめをさした。利用をされた事や犯罪をしていた事、敵対していた事を考えてみて彼は自分の手を血で汚す事を選んだ。

彼はクローンとは言えかつては仲間だった者を、命を奪う覚悟で攻撃したのだ。


「…あいつは、どんな気持ちで手をかけたんだろうな。」

『それは彼しか解らない…、だから猶更お前は気を付けて動かなければならない。解るな?』

「解ってるよ。だから、サポート頼むよ。」


そこまで言って東哉は移動する。その顔は何か覚悟を決めた顔だった。


「俺はあいつとは違う覚悟を決める。なるだけ傷付けない、殺さないって覚悟を。」

『なんだそれ。なるだけって予防線張ってるんじゃないのか?』


ヘッドセットから馬鹿にしたような拓海の声、しかし東哉は言い返さない。


「そうかもな。でも俺の能力は相手に使うと殺傷能力が高すぎんだ…だからこれ位なんだよ。」


ようやく見つからずに管理室の扉の前に着いた東哉は、管理室のドアノブを回すが鍵がかかって開かない。


「扉に鍵がかかって開かない。対応できるか? 出来ないなら無理やり行くが。」

『それはどうにも出来ない、私がその場に行けば水で鍵を複製できるかもしれないがいないしな。』

「多分カードキーだから着ても無理だと思うぞ。」

『だとしたら下手に壊したりしたら、周りに知られるかもしれない。』

「それについては大丈夫だ。」


東哉は少し離れた壁の前にしゃがむと、そこに手をあてて固有能力を発動する。するとザラッと人が屈んで入れる位の範囲の壁が砂に変わり、更に分子まで分解し気体まで変わる。


「これで入れる。」

『なあ東哉、管理室から一番近い壁に穴をあけて札を投げ込めばよかったんじゃないか?』

「あっ…。」


言われて東哉は気付いたのか、せっかく空いた穴へ札を投げ入れると別の管理室へと足を向ける。

その背中は少し煤けていた。

能力を使って聞いていた拓海は、成長したかと思ったがまだまだだなと呆れていた。




そんな東哉達の動きの裏、遊園地の横にあるホテルの二階にあるレストランではパークに来た一部の人間が集められており、人質となっている。

人質は部屋の真ん中に集められており、銃を持った人間に囲まれている。

その状況を少し離れた位置に話している二人がいた。


「アリトモ、お前は何をしてるんだ?」

有為ありためだ…式を放って周りを調べているんだが…。」

「式?」

「これだよ、これ。」


有為の首に巻き付く様に現れた細い小さな狐。それは一匹だけではなく何匹も、懐や袖口、髪の中から現れていた。


「うおっ、なんだこれ?」

「管狐だ。西欧の使い魔みたいなものだ、日本では式と言う。中でもこれは特殊なモノでな、妖怪の一種を式にしているんだ。」


管狐、東北から中部地方にかけて伝わる憑き物を言う。この管狐は山伏が扱い、扱った者は他人の過去を見たり未来を言い当てたり他人に災いを呼んだりする事が出来る。


「こいつらを使って周りの索敵をしているんだが、俺と同じタイプの式神使いがこっちを見ている。」

「マジか!!」


それを聞いてバルトは慌ててカーテンで閉め切った窓から外を覗いて周囲を見るが見つからない。暫く見つめていると少し離れた木立の枝に、二匹のカラスがとまっていた。

まさかアレかと良く見ていると、カラスの足が違う事に気が付いた。


「足が三本?」

「ヤタガラスだ。日本神話に出る導きの神にして太陽神の化身とも言われている。しかしあれが式だ、管狐が何匹もやられてるのを考えるとかなりの使い手だ。」

「おいおい、大丈夫なのかよ。」

「暫くは大丈夫だろ。だが、あいつらがカモフラージュ代わりの声明出していたから、機動隊が来るのが時間の問題だろう。」


先程、このレストランの真ん中で雇われの傭兵の何人かが、人質に銃を突き付けて演説めいた声明を出していた。バルトはあのやり方には違和感を感じていた。テロリストの声明としては正しいのだろうが、あいにくここは日本だ。


「なあアリタメ、あいつらの言っている事理解できるか?」

「解らんさ。でも、俺ら傭兵にそれが必要か?」

「いや、そうだけどよぉ…。でも傭兵だからだろう? 他の奴らは普通よりはるかに高い報酬に目がくらんでるけど、これ明らかにおかしいだろう?」


今回の依頼はおかしい事ばかりだった。ありえない事ではないが日本においてのテロリスト活動は近年ほとんどない。なぜならば、日本警察の公安や対能力者組織の『六花機関』が日本に対する不利益を封じ込めてきたからだ。

それにも拘らず、今回は成功しているのだ。


「日本の公安もそうだが六花機関の強さは聞いている。にもかかわらず成功しているなんて異常だろ。」

「完全に成功している訳じゃないがな。それに今から動く可能性もある…。」

「いや、もう動いてるんじゃないのか? その証拠にあれがそうだろう?」


バルトはそう言ってカーテンの向こうにまだいるはずのカラスの式を指さした。確かにそう考えるのが普通だろう。


「なんにせよ、ここまでやったんだ。後には引けないさ。」

「それはそうなんだが…俺等、捨て石にされるんじゃないのか?」


バルトの考えは傭兵の考え、金を稼ぐために自分の命を優先しなければならない。その為には…。


「引き際を考えなきゃな…。」


バルトはヤレヤレと溜息を吐くと、飄々とした顔で笑う。それを見た有為は、表情を動かさずにバルトと周りを見る。何かを待つように。


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