Serial Experiments 諍いと和解
「やっぱりお前馬鹿じゃないのかな? 仕事でも義務でもないのに、武装グループに対処するとか…終わってるよ。」
「なんだと!! お前は今捕まってる人達が可哀そうだと思わないのか!!」
「可哀そうだとは思う。だけどね、お前がやらなきゃいけないわけじゃないだろ!! ましては、女友達を巻き込むなんて!!」
「ま、待て待て待て、落ち着けお前ら!!」
一触即発。どころか目が合ったとたん罵倒する拓海に、言い返す東哉。完全に水と油の相容れない関係、傍から見れば不倶戴天の敵同士だ。
前に雑談してた時に莉奈がらみで仲が悪いと話に聞いていたが、予想以上に仲が悪い。しかも言っている事がまともな為、思っていたと違ったせいで止めるのが遅れた。
「二人とも気持ちはわかるが落ち着け。」
「でもよ斎、こいつがいつも突っかかってきて…。」
「多々罵倒が入ってるけど、こいつの言っている事は間違っては無いんだ。」
少し薄情な話だが今回の件、東哉が頭を突っ込む意味や必要性は無い。この場所にいる人間は、東哉にとっては他人だからだ。むしろ、下手に関わったせいで怪我をしたり目を付けられたりして大変な事になる可能性の方が高い。
あえて言うなればこれは損得勘定、メリットとデメリットの収支バランスとリスク回避の面で言えば問題行動でしかないという事だ。
この件で得があるとすれば、東哉の心がスッキリするという事だけだ。
「でもよ、前回と前々回も助けてくれたじゃないか!!」
「私が思うに東哉を助けたことは恐らく桂二もしくはその後ろにある組織にメリットがあったからじゃないか?」
「それはあるね。香住屋さんは良い着眼点だと思うよ。桂二は見た目チャラくて軽い感じがするけど、ああ見えてもアイツは結構ストイックでシビアな所があるから。僕らに対する友情とかもあるけど、損得勘定は必ず絡んでくると思う。」
七瀬桂二。彼はチャラチャラとした見た目と違い彼の上司兼師匠に似て策謀を巡らせる事を好み、陰陽術を使い状況を打破する事を得意とする。
そんな彼の根幹は自身の欲望、好奇心の思うままに知りたいことを知る事。彼は彼の欲望を満たすために、自分の周りの人間の信頼をストイックに勝ち取り、協力をして協力をされる事で自分の世界を広げたのだ。
「それじゃあ、お前とあいつの関係もそうなのかよ。」
「そうだね、多分そうだ。でもね、そんな関係は大なり小なり誰にしもあるだろう? そりゃ根底には友情とかもあるとは思うけど、あいつはそれに損得勘定を混ぜて、それにあたって僕達の信頼を得てるんだ。だから、前回も今回もお前の元に来たんだろう?」
そこまで言われて東哉は黙った。何か裏切られたような気持になりながらも、何となく納得して唇を噛んだ。
それを横から見ている斎は、莉奈が離れた理由の一つを理解した。それは互いに近すぎて傷の舐め合い見たくなってしまい…共倒れしてしまうと思ってしまったからだろう。
そんな不安な未来を思い浮かべてしまい、何とかする為に出ていったのだ。自分と東哉の成長の為に。
とそこまで考えて斎は気付いた事がある。
あの男はメリットがあるから助けたと言っていた、それは間違いじゃないだろう。恐らくは彼自身が所属する組織に、敵対する組織の邪魔をする為に協力しているからだと思うからだ。
今まで聞いた話だと誠一は恐らく純粋な戦闘力で、拓海は彼自身の持つ画壇などのコネクションだ。それに見合う対価を出して、二人に信頼してもらっているのだろう。
では、東哉は彼のどこが必要としているのだろう?
「まさか…。」
そこまで考えて顔を上げたら拓海と目が合い、首を振られる。それは暗に黙ってろと言うサイン。
おそらく拓海も気付いている、東哉に協力するメリットに。
気付いて思わず口に出そうとするが、斎は口を噤む。
それが莉奈に対するメリットであり、自分自身に対してのメリットだから。
斎は心中で呟く。
『莉奈…謝罪も感謝もしないよ。』
そして暫く拗ねた東哉の機嫌が直ったころ、一時的に話が終わる。
「ようやく機嫌が直ったね…ガキかな、お前は…。」
「うっせえよ…俺がまだガキだって事はわかった…でも何でお前はそんなに言えるんだ?」
「大人にはね、子供の成長の為とか耳触りの良い言葉を使って嬉々として虐めてくるロクでもないのか多いんだよ。特に画壇のクソ爺どもは特に多くてな…。」
「あ、ああ。お前、苦労してるんだな。」
先程以上に目が座り始めた拓海に、東哉は誤魔化すように慰めを口にする。
「まあ、いいよ。そんな事より聞くけど、お前この状況どうするの? まあメリットやデメリットはこの際聞かない、桂二からの頼みだからね。だが、この一件どう関わるか考えてくれよ。」
「関わるか?」
「そうだよ。桂二から聞いているけど、お前もそっちの彼女もいるから上手くやれば何とか出来るかもしれないのは知っているよ。けど考えて見なよ、もしお前らがこの件を収めたらどうなるさ?」
「収めたら…? ………あっ。」
そこまで言われて斎は気付く。
「マズいな。」
「どう言う事だ?」
「戦闘とかは良いけど、その後どうするかって事だよ。ほったらかすのか?」
「そんな訳…そんな訳、終わった後…。」
「やっぱり考えてなかったか…猪突猛進と言うか後先考ええてないと言うか…。」
この話の問題は、簡単に言えば後始末の事だ。前回の学校の時は桂二の支持の元で第三部隊の設備班によって元通りに修復された。高見原タワー前の戦いなどの相手が露呈するのを恐れた場合は、相手が処分又は修復した。
では今回は?
「ようするに桂二はこう言いたいんだろう、今回アイツらは手伝えない。相手はテロリスト、何かあっても後始末が出来ないって事だ。考えて見ろ、この場所で暴れたら何かしらの痕跡が残る、そこから私達がバレるとマズいって話。そうなんじゃないか?」
「桂二が言ってたよ。ここまでくると警察をはじめとした国家権力が場を仕切る。そうなると桂二の居る組織に手が入る可能性もあるし、僕らにも良くて監視が付く可能性があるって。」
「それは嫌だな…。」
最近荒事が多すぎて感覚がマヒしているが、この様な事件が起きたらまず出張ってくるのは警察もしくは機動隊だ。それより前に言える事であるが彼らは未成年、この様な事の介入はしてはいけないし普通はしないモノである。
「あー俺、なんか感覚がおかしくなってたわ…。」
「それを言うのは私も一緒だ、何で忘れてた?一般常識を今思い出した気分だ…。」
二人は普通の常識を思い出して、自分達の異常に気付き崩れ落ちる。そんな二人を呆れた顔して見ている拓海。
「落ち込むのは後にしてくれないかな? で、どうするの?」
「そ、そうだな。落ち込むのは後だ。斎、どうしよう?」
「…私に振るな…とは言え、東哉お前どうしたいんだ?」
「どうしたい…俺はどうしたい?…俺は、人を助けたい。」
東哉の心の中では莉奈がいた、それは彼女を想う気持ちでありいつでも安心して戻ってこれる様にと願う想いでもあった。
「ここは高見原から離れているけど、やっぱり莉奈の戻る場所に近い。あいつの戻る場所には平和になってほしいんだ。そんな場所って、他の人だって笑顔でいる必要があるだろ? 離れてても近くでも俺は平和な世界にしたいんだ、だから頼む力貸してくれ…。人を助けるだけをしたい。」
つたない想い、でもそれが東哉の紛れもない本心だった。それを聞いて斎は少し痛そうな顔をして、拓海は唇を噛んで溜息を一つ吐いた。
「彼女の名前、出されたらズルいだろうが…わかったよ。協力する。」
拓海は諦めたように笑った。




