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いつもの日々に  作者: ルウ
実験No.1 結び神
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Serial Experiments 安全地帯への撤退と不本意な援軍

その異変は昼過ぎ、食事時間も終わって腹こなしにアトラクションを回ろうとし始めるぐらいの時間。

正門のチケット売り場で大きな爆発が起きた。

その時、東哉と斎は中央の大池公園にある芝生で食事をしながらその音を聞いていた。


「…予感通り始まったみたいだな、どうする東哉?」

「今は下手に抵抗するのはマズい。戦力としてはこっちが二人、あっちは規模すらも解らないんだ…。今さっき決めた通りにやるぞ。」

「解った。」


二人は早々に昼ご飯を食べ終わると、周りで異変を感じた人たちを横目に人気のない池の縁へと歩いて行った。東哉が周りを警戒している間に斎が池に手を入れると、音もなく池に穴が開く。

そこへ二人は周りの人の目から隠れる様に池の中へと入って行く。

それは斎の使う固有能力によって作られた『池の中のシェルター』だ。


「これ凄いな、俺の破壊するだけの能力と違って汎用性も高く、使用する人間によっては色々と変わる能力なんじゃないか?」

「ふふん、私の能力『アクアマテリアル』は凄いだろう。」

「ああ、凄いな!!」


斎の固有能力『アクアマテリアル』は水分子を操作する単純な能力だ。ただこの単純さゆえに、応用が色々と効く強力な能力だ。通常はブラウン運動をしている水(液体もしくは気体中にある微粒子がランダムに動く現象、この場合は水分子自体が微粒子)は凍らせない限り固まらないが、斎の能力はそれを並べ固定したり組み合わせて剛柔性のある物質にしたり、色々な性質を持つ水を作り上げる。

その結果が、


「池の中って臭いって聞いたんだけど…臭わないな。」

「水の分子をパズルのように組んで作った部屋だ、臭いの元ごとクラスター構造で包み込んでいるから臭わない。天井は密度を利用して屈折率を調整して上から見えなくしている。」

「…一時的なシェルターとして作ったのに、なんでテーブルやソファーとかもあるんだ?」

「私が好きだからだ、小上りの畳コーナーも作ったぞ。」


水の中にも関わらず広く深い池の中を贅沢に使い、広い部屋が形成されていた。20坪ほどの広さに水で作られたテーブルと触ればとても柔らかいソファー、よく見ると部屋の奥は段差があり小上りとなっている。その小上りは斎の拘りで、水に出来ているにも拘らず畳の質感を持っていた。


「なんだ、この小上りは…水で出来て色も違うのに触り心地が畳だ…。」

「そこは苦労したんだ。この間、サイファ学園都市に行った時も物作りが得意な能力者の爺さんに能力の訓練法を教えて貰ったんだ。能力を効率よく成長させるには、自分に合った方法で能力を使い続けると良いって教えてくれたのが、水による身近な物の再現だ。」


話によると斎に教えてくれた『多々良』と呼ばれてた爺さん曰く、能力を成長させるにはまず能力に慣れる事。そして使い続ける事により能力は出力を上げ精密になり効率的に動かせると言う。

そこで水分子を操作する能力を持つ斎には、能力を使って身近なものを作り続けるという事だった。


「最初は鉛筆とか消しゴムとかを作ってたんだけど、やっている内に楽しくなっちゃってな。水を繊維にして糸を作って編み物してみたり、水にマイクロサイズの気泡を混ぜ込んで白い糸を作って布を再現してみたり。さらにそこから発展して、出来たのがコレだ!!」

「…斎って凝り性だったんだな。」

「こんなに嵌るとは思わなかった、私自身も驚いている。」


ソファーに腰掛けて見ると程よい弾力で身体の体重を支えてくれる。透明な机を叩けば水とは思えないほど硬く、コンコンと硬質な音が返ってくる。

何だコレと斎を見れば、凄いだろうと胸を張って笑っていた。

水の分子配置と組み上げ方でここまで変わるのかと驚いていると、どこからともなく飛んできた一羽の鳥がソファーの背もたれに止まった。

心なしか鳥の顔があきれ返っている。


「ん?」

「鳥?」

「鳥じゃない、鳥型の式だ。」


鳥が口を開けば鳴き声ではなく男の声、それも二人とも知った声だ。


「んんっ桂二?」

「ああ、俺が打った式だ。東哉にも解る様に言えば式神って奴だ。」

「ああ、あの漫画とかで出るアレか…って、それじゃお前は陰陽師!?」

「ん?言ってなかったか? まあ、そんなもんだ。それで状況は確認してきたが、香住屋はトラブルに合いやすくなってないか?」

「不本意だ。」


学校に前回の公園の事件、そして今回の件を考えればそう言われてもしょうがないが、斎としては不本意極まりない。切り抜けたらお払いに行こうと思いながら桂二の話を聞くため椅子を作り出して座った。


「私の事は良いけど、今このパークはどうなってるんだ?」

「上空から一通り見てみたが、武装グループに占拠されている状態だ。オレンジパーク併設のホテルを拠点に、ショッピングモールとオレンジパークを占拠している。」

「なんだそれは、それじゃまるで…テロリストじゃ?」


武装集団が集団で占拠する、完全にテロリストだ。そう考えて斎が言うと、鳥は少し違うと頭を振って否定する。


「やり口は完全にテロリストだが、人員に妙な奴らがいる。…ああ、ここにタブレットがないのは口頭でやるのは面倒くさいな。集団の中心に毛色が違う奴が数名いた、白いローブの様な宗教色がある男が二人と虚ろな目をした小学校低学年程の少女がいた。」

「宗教色?…宗教関係者って事か?」

「見た事がない宗教服だから今から調べるが、おそらく新興宗教だな。だがそれよりも問題がある、こいつらの目的が解らない。お前らからの話が早かったから奴らの犯行声明が出ていない。」


普通テロリストや武装集団がこの様に行動を起こした場合、自分達の団体名や思想と目的を大々的に喧伝するはずなのだ。


「それと大切な事なんだけど、今回は支援出来ない。」

「え、どういう事だ?」

「ちょうど仕事が立て込んでいるんだ。この間の学校の件に関係している話だが、福岡港のコンテナに人が詰め込まれて送られた情報が入って、それに対処しに行く予定なんだ。それと同じ話が多く、うちの隊員がほとんど出てるんだ。誠一も俺について来てくれてるから無理だ。ちょっとタイミングが悪かったな。」

「ええ、ここの人はどうするんだ?」

「フォローするのはちょっと無理だな。確かに人助けは良くするんだが、基本的に俺等の理念の下でやる以上、順番にやるしかないんだ。慈善事業でもないからな、まあ俺個人としては出来るだけの事はするが…そうだ、今そこの近くにはあいつがいる。」

「あいつ?」

「ああ、ちょっと待ってろ。今の東哉位の実力なら、何とかなるかもしれん…。それより香住屋、頭脳担当としてお前に頼みたい。そこの馬鹿の手綱を取っておいてくれ。」

「ああ、解った。大船に乗ったつもりで任せろ。」

「ちょっと、どういう事だ!?」


そう言ってから、三人は話を進める。そこからの大まかな話は大掛かりな作業となった。

どんな作業かと言えば、まず東哉の能力で池の底にスロープ状に大きな穴を掘りある程度の深さになったら通路を作る。そしてその通路をパーク外まで伸ばすと、慎重に上へのルートを作り、外からの人員を引き込む路を作った。そして東哉と斎でカモフラージュした出口で待つこと五分、桂二が言う『あいつ』が現れた。


「チッ、また別の女の子…また迷惑かけてるの? 死んで詫びたら?」

「なんで一言目から罵声なんだ!! それに俺は迷惑かけてねーし!!」

「はっどうだかね。」


背中に背負った大きなリュックサックとそこに括りつけられたイーゼル、たすき掛けにかけた絵具で汚れたパックを持った東哉のよく知る人間。

彼をとても嫌う誠一と桂二の友人にして新進気鋭の絵かき、美波拓海みなみたくみが不機嫌な顔をして立っていた。


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