Serial Experiments 悪い予感
「あー疲れた。ここ広すぎじゃね?」
「ああ、確かに広い。まさか一つのエリアがこんなに広いだけじゃなくて、エリア同士も離れているとは思わなかった。…園内バスなんてものがあるはずだ。」
敷地面積300万平方メートル、その広さは東京〇ィズニーランドの敷地面積が約50万平方メートルなのでその六倍の広さだ。その広大な広さの中で色々な施設がある為に、移動には園内バスがありそれにより色々なエリアに移動できる。
「歩いて行けるとか思ってたけど、ちょっと舐めてた。博物館からまさか30分も歩くとは思わなかった。」
「この広さはちょっとした町だな、アトラクション同士も結構離れてるし…回る順番を計画的に考えておかないと直ぐに日が暮れるぞ。」
そう言ってベンチに座る二人は園内マップを見ながら今後の予定を立て始めた。
「定番と言えばジェットコースターと観覧車、バイキングかな?」
「…。」
「どうしたの東哉?」
「最近高い所にとても縁があって…というか空中に飛ぶ機会が多くてな、ちょっとトラウマに…。」
ここ二か月近くの東哉の空中に飛ぶ確率は高い、少なくとも。
最初は誠一との鍛錬地の時に、大地と並行に吹き飛ばされ。(悪意の残響 鍛錬と過去)生徒会室(三階)の窓をぶち割りながら運動場まで飛び出した。(悪意の残響 薬の材料)そしてこの間の訓練で崖から滑り落ちそうになる事が十数回、完全にトラウマになっていたりする。
「なんだ高所恐怖症か?」
「いや、高所もそうだけど…あの落下する時のフワッとした無重力感が…。」
「話に聞いていたが何か、とんでもない事になっているみたいだな。」
完全にPTSD(心理的外傷ストレス障害)である。そんな東哉を見て斎は、ならばとパンフレットを見返す。
「ほら、だったらさ。浮遊感の無いものに行こう。」
「遊園地ってそんなやつばっかりじゃなかったっけ?」
「他にもあるさ例えば。」
パンフレットに載っているアトラクションの一つを指さす斎。そこにはゴーカート乗り場と書かれていた。
手押し車の英訳をゴーカートと言う。一人二人位で乗れるパイプのフレーム、ガソリンエンジンと小さなタイヤとハンドルで、指定のコースを走るアトラクションだ。
普通の車と違って風を身体で感じ、コースバーン(路面)に近いのでスピードがとても速く感じて迫力がある。
「うおおお、思った以上速さを感じるっ!! 上手くいかないっ、ぶつかるっ!!」
「うわわ、ハンドル切ったらスピンするうぅぅ。」
アクセルペダルの踏み込みに慣れていないので、思いっきり踏んでしまいコース際の積み上げたタイヤにぶつかる東哉。ハンドルを思いっきり切ってしまい、コントロール不能となってスピンする斎。
慌てる二人はそれでも笑顔だった、そして二人は思った以上に満喫していた。
「何か思ったより運転って難しいな。」
「確かに、自動車学校ってのがあるのが必要なはずだ。」
ウンウンと頷き合う二人。
「ああそうだ、もうちょっとしたら運転免許取れるな。」
「だな、私も運転免許とったら兄貴の車を借りて遠出したいな。」
「ああ良いな。ドライブって奴か、なんか憧れるな…。」
「どうした東哉。」
「ああ、なんか未来を思い描くって…初めてかもしれない。」
自分で言った言葉に東哉はふいに腑に落ちた。
昔の記憶がない自分、そのせいでまた記憶が消えたらどうしようと思っていた。それから東哉は今だけを考え、大好きな莉奈とずっとに一緒に居たいと言う思いだけで生きていたのだ。
だが学校生活をして、友達が出来て、いろんな経験をして。
「莉奈が居なくなって、今が無くなった気がしてたけど…浩二に励まされて、天子に怒られて…斎にも色々世話になって…。俺、みんなに支えられてたんだって気付いて。今こうやって未来の事を考えられるようになった…。」
「東哉…。」
「なあ、斎。俺来年はどうしてるかな?」
何か吹っ切れたような顔。今までは土台の無い家や手を離れた風船のような雰囲気だった東哉が、地に足を付けて前を向いている。
斎はなんだか嬉しくなったと同時に、真っすぐに見てくる東哉の視線に恥ずかしくなって目を逸らした。
「さあな。でも確実に分かる事がある。私達は今二年生、来年は受験だ!!」
「うぇー今思い出させるなよー。」
「何言ってる。今から勉強してないと進学にしろ、就職にしろ大変だぞ!!」
「お前俺の母親かよ!!」
「やかましいわ!!」
遊園地の地図片手にじゃれ合う様に歩く二人。その二人が見てる世界は希望に溢れていた…。
「…ん?」
「どうした東哉?」
「いや、これは…まさか? 斎、励起法は出来るか?」
「ああ、初歩だけは教えて貰った…けど。」
「出来るだけ深度を最大でやるんだ!!」
「…解った。」
突然東哉が険しい顔をすると、何かを感じたのか考え込んだ後に斎に励起法を行う様に支持を出した。
何事かと思った訝しむ斎は、東哉のその状態に何かを感じ取ったのか素直に教わった励起法を試みる。
すると。
「なんだ…違和感? 違う、胸騒ぎ?」
「やっぱり、俺だけじゃないか。」
何度も言うが、能力者には大小あるが、予知めいたモノがある。それは能力者としての感知能力と膨大な演算能力によるモノだ。
これは個人の資質や固有能力の性質にも寄るが、これは周囲の変化に敏感なのだ。
そして二人は何かを感知した。
胸騒ぎを覚える程の何かを。
「東哉、何か胸騒ぎがする。これは嫌な…そう嫌な予感だ。」
「ああ、俺もだ。しかも段々強まってくる。」
「逃げた方が良いのか?」
「いや、もう無駄だと思う。お前も解るだろう?この閉塞感は、たぶん囲まれてる。」
「私が? それともお前か?」
この間の事件を思い出して、自分か東哉かと考えたがその考えは自分の感覚が違うと結論付ける。
「違う、この感覚はこのパーク全体?」
そして始まりは、遠くの場所からの銃声だった。




