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いつもの日々に  作者: ルウ
異郷の逃亡者
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後始末と不穏の影

高見原中央駅は高見原の主要駅だ。そこから南北へと海岸線と並行に伸びる路線と西の山間に上る路線の二つがある。

その路線の一つ、北へと昇る六両編成の電車内。四人掛けの席で向かい合わせ座る男二人。

フードが付いたジャケットとジーンズで合わせた誠一と、カジュアルな服に身を包みキャップを被るイスマールだ。


「この服、俺が着ても良いのか?」

「それは桂二が移動する時に目立たない様に着せる服だから気にするな。あいつが言うには変な服を着られるよりはこっちが指定した服の方が何倍も良いらしい。」

「…うちの村で来てた服より数倍良いものだったから、気後れしたんだ。…ありがとう。」

「俺じゃなくて用意してくれた桂二に言ってくれ。俺は仲介しただけだ。」

「それでもだ、俺はあんたを含め今回の事に対してとても感謝してるんだ。」


イスマールに真摯な瞳で感謝を言われると、誠一は少し照れ臭くなる。仲間内じゃなく感謝されたのは初めてだからだ。

あの後、鎖使いが撤退した後に誠一達はこれ幸いと、見つからない様に同じく撤退した。それからは桂二の支持する通りに移動し、高見原にあるセーフハウスの一室で身支度を整えこの電車に乗り込んだ。

目的地は高見原の北にある巨大学園都市、サイファ学園都市だ。


「さっき来たメールによれば。えー、あんたが…。」

「イスマール・ムハンマド。イスマール、イスマとでも呼んでくれ。」

「ああ、イスマか。俺の名前は水上誠一だ。誠一と呼んでくれ。」

「セージ?…セーチ?」

「誠一だ…まあ、それでも良い。それでだ、イスマが守っていた女の子は無事に病院について峠を越えたらしい。」

「峠…?」

「ああ、えーと。大きな障害を越えたという事だ。つまりは命が助かったという事だ。」


そこまで言うとイスマールはホッとした顔をした後、少し疲れたような顔で笑った。彼もアジズ同様に捕まってからずっと警戒していて、緊張とストレスが溜まっていたのだ。自分が守りたいものを守れた事で、緊張の糸が切れて身体の力が抜けてしまっていた。


「おい、大丈夫か?」

「大丈夫だ…これでリュシオールに顔向けできる…。」


リュシオールとは会いに来た三人組の一人かと誠一は思い出す。たしかあの年が近い女性は、今から行く学園都市に先に行って入り筈だ。


「リュシオールって長いブロンド交じりの髪を編んで片方に垂らしている子か?」

「ああ、って何で知ってるんだ?」

「お前を助ける為の依頼していた時に俺もいたんだ。彼女達は凄いな、人に頼むんじゃなくて自分自身で助けに来るなんて。」

「そうだよな、俺も聞いてビックリした。アジズさんだけじゃなくってリュシオールまで来てるとは思わなかった。…強い、強いよな二人とも…。」


話している内にイスマールが異様に落ち込んでいた。いやこれは戦闘が終わってからずっと、このように落ち込んでいた。そしてこのような状態に誠一は思い当たりがあった。

おそらく今回の事件において自分が出来る事が少なかったからだろう。人の命を救うには手段とか自分が活躍とかはあまり要らない。いるのは救うだけの実力を持った人間だ。

とは言え今回イスマールが今回出来た事は。


「それに比べて俺と言ったら…。」

「おい、イスマ!!」

「えっ!? ああ、スマン。こんな遠い場所まで来て助けに来てくれたアジズさんと、戦う力のないリュシオールがここまで来たんだ…役には立たないけど俺だって…。」


記憶が戻る前、誠一は自分の思うままに願いに突き進んで無力感に悩ませられた時があった。同じ養護施設の子供たちが虐められた時に助けることが出来なかったり、力がなかった為に悔しい事が多々あった。


「なあ、イスマ。あんまり自分を卑下するもんじゃないぞ?」

「髭?」

「そっちじゃない。自分を貶めるとか、下に見るという意味だ。お前、自分が何もできなかったと思ってるだろう? でもそれは間違っている、イスマはちゃんと守っていたよ。」

「…。」


その誠一の言う通りだ。イスマは故郷からアマルが誘拐された時に一緒に捕らえられた。その時、実は一人で逃げられる状態だった。しかし彼はアマルを守るために一緒にいたのだ。

それによりアマルはとても怖い思いをし、苦しい思いもした。だがイスマールがいる事で、彼女に希望を与え、傍にいる事で不安を和らげ、いざと言う時にこうやって一緒に逃げ出す事も出来たのだ。


「少なくとも俺は、イスマがあの子を守っていたと思う。」

「だって、俺は…あの子が実験されるのを守れなかったんだ…今苦しんでいるのだって俺が…。」

「それでもだ…。彼女は死ぬ事はなかったし、心が壊れる事もなかった。だろう?」

「そう…なのか。」

「そうだ、だから彼女の目が覚めたら…あの子の姉と一緒にいてやれよ。」


イスマールは泣き崩れた。それは安堵の涙か、罪を見た涙か…それとも悔しさの涙かは解らない。少なくとも彼には、未来が残された。




サイファ学園都市 重金教室。


「新しいタイプだった。この結果からあいつらの遺伝子工学は確実に上がってる。」

「やはりか…、最近の偽神薬の蔓延と能力の発現率が高いのはそれだな。」

「世界的に誘拐犯罪は多いが、潰した人身売買ビジネスの帳簿を見て、こっちに流れてくるのは少なくなっているのを確認している。」


そこには四人の男が集っていた。一人はこの部屋の主、重金浄。二人目と三人目はローテーブルを挟んで座る、三剣風文と疾薙紫門。四人目は壁に背中を預け白いレインコートを羽織る男、霧島葵だ。


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