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いつもの日々に  作者: ルウ
異郷の逃亡者
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その後の逃亡者 後始末

学園都市内 薬師寺総合病院 ICU(集中治療室)区画前待合室。


ガラス窓の向こう側では少し褐色の肌をした少女が点滴を受けて眠っていた。彼女の身体のいたるところには、色々な配線が伸びて機械に繋がっていた。見た目ではキツそうな表情をしており、そのガラス越しに眺めるアジズはとても辛い顔をしていた。

そんな時、横から来た少女がいた。


「こんばんは、大丈夫です?」

「ん? ああ、大丈夫だ。」


よほど酷い顔をしていたのだろう、心配されてアジズはガラスに映る憔悴した自分の顔に気付いた。

高見原から脱出し三時間、あれから空間を広げられたコンテナ内の検査室で重金浄と呼ばれる男に様々な検査を受けた。結果は桂二の予想通り遺伝子に仕込まれた『スレイブジーン』だった、しかも東哉と誠一の同世代に埋め込まれたもの。浄が言うには、発現率が低い初期型とは違いバージョンアップされているモノらしい。

人の持つ遺伝子(20000~23000個)のどこにどんな風に仕込まれたかが解らない為、今は一時的にその症状は止められているだけで眠ったままで小康状態だ。

これからの治療方針は、父親のアジズと母親の遺伝子を参考に弄られた遺伝情報を見つけ正常な状態まで持っていく予定らしい。


「娘、娘がな…ちょっと難しい状態らしいんだ…出来るだけ治すって言われて…。」

「言われたけど心配って所か…辛いね。」

「ああ、辛い。」


アジズはつい思わず本音を零してしまう。


「結晶だったのね?」

「…ああ、娘は俺の宝だ。戦乱で両親を亡くして居場所も奪われまだ若かった俺は何もかもをなくした…。」


アジズはその後に色々な事をして生きた。幸い自分には能力があったので、他の同じ境遇の奴らに比べればよかった方なのだろう。でも、それからの血にまみれた命の奪い合いで生きた人生はとても殺伐として生きる事だけで精一杯で…言われるまま戦う自分の人生ではなかった。

それからある日、ある町で親に甘える子供をみて唐突に思い出した。子供の頃の自分と、両親の事。とても暖かったあの日々、何も恐れる事は無かった純粋に明日を希望する幸せの日々を。

それからアジズは思い立ったかのように戻った、自分が産まれたあの町に。


「愛した人との、貴方の居場所の結晶。幸せの証。」

「もう一人の娘も養子だがしっかり娘だと思っているが、俺が出会って愛した女との結晶だ。ああそうだ、あいつは俺の希望なんだ…。」


同情と見捨てる事が出来なかったという理由で引き取ったリュシオールとは違い、アマルは同じ故郷で滅茶苦茶になった故郷を立て直しながら生きた妻との間にできた子供だ。


「辛いわね…、でもあなたこれからどうするの?」

「これから? それは…娘にこんな目に合わせた奴らを…。」


そこまで言われてアジズは無意識に考えていた事に気付く。自分の考えが『目には目を』の方向に行っていた事に。


「娘さんを放っておいて?」

「いいや、違う。俺は娘を放って行かない…俺は。」

「落ち着いて、貴方はそんな人じゃない。娘さんを置いて行かない、ちゃんと娘さんを護る人だわ。だから今あなたはやらなけらば行けない事は、ちゃんと娘さんを見る事だよ。」


そこまでの会話をしている内にアジズは気付いていなかった事だが、会話そしている内に段々意識が朦朧としていた。しかも身体に力が入らないのにも気づいていなかった。


「眠い? 身体が重い…。」

「気が抜けたんだよ今まであなたはずっと気を張り詰めてた。自分の娘を取り返す為、幸せの証を取り返す為に。娘さんは助けられた、だから今少し休んでいいんだ。」

「休んで…いい…のか…。」


最後はほとんど言葉にならなかった、アジズの身体から力が完全に抜けて言ってたからだ。そのまま備え付けの三人掛けのソファに体を預けて沈む彼、そこに三人目の声がかかる。


「彩さん、もう良いのかな?」

「ああ、いいわよ。」


曲がり角から顔を出すのは少女、彩と同じぐらいの年の少女。


「ごめんね、話の途中で。急ぎの依頼で状況が状況だったからね?」

「そんなに切羽詰まってたの?」

「話を聞く限りだと、娘さんの安否が解ったら飛び出して復讐戦に行きそうだったみたいだからね?」


彩は実際、心の声を聞いてからこれはマズいなと確信していた。今回の依頼は桂二からで、イスラム圏の人間なら復讐しかねないから時間稼ぎをしてくれと。

しかし来てみれば結構ギリギリのタイミングだったらしく、長期間の緊張とストレスで正常な判断が出来ない状態だった。


「まあ、身体の力が抜ければ何とかなると思ってたから。考えた以上に上手く出来たけど。」


そう言ってソファに横たわるアジズを見る彩。彼女がやったのは心を読んで彼が欲しい言葉を与えただけだ。


「でもそんな事でこんなになるの?」

「元から身体に疲労が溜まって限界に近い時に、心が緩むと身体が緩んじゃうのよ。」

「そんなもの?」

「そんなものよ、でも本当に疲れてたみたいグッスリよ…。ま、このまま眠らせておきましょう。色々あって思考まで問題だったみたいだし目が覚めたら短絡的な思考が元に戻るでしょ。それより、改めて話の途中だったし自己紹介しましょ? 私の名前は折紙彩。あなたは?」

「私は、私の名前は菊理莉奈! よろしくね!!」


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