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いつもの日々に  作者: ルウ
混迷の林間学校
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潮騒の残響

この町は異常なまでに神社が多い。

高見原の地図に神社の場所を書き込むと解るが、一キロ間隔に神社が最低でも一つある。

市内の神社の数を正確に数えた訳では無いが、この町を探索するサークル『森歩き』の話に寄ると大きな神社から小さな祠と大小合わせて約800。

明らかに、この数は異常。この町が高見原市になる寒村の時代より以前からあると言われるこの神社群は何かを封じているかのような……。

まあ今回の話には一切関係ないので、追い追い話すと言う事で割愛させていただく。

兎も角こんな町なので、この町は不思議な話に事欠かない。

今回のお話も、そんな感じ。




高見原市海見区、海岸公園。


平日の昼。

向こうに見える一際大きな観覧車が立っている。森が途切れた場所にポツンと立って見えるその様は、ここから寂しそうに男には見えた。

遠くから聞こえる遊園地のスピーカーの割れた音と、人も疎らな公園に吹く強い風が拍車をかけて寂しそうに聞こえているのだろう。

白い石畳の公園と交じり合う白い砂浜、海岸公園と言うだけあって砂浜と連なって白い石畳と一体化している。

そんな公園の波打ち際に近いベンチで、男が海を見ながら黄昏れていた。

日も暮れても無いのに。


「ハア・・・。」


見るからに落ち込んでいる。肩は落ち、首は項垂れ、視線はピントが合ってない。顔色は土気色で死体の方が健康な顔色だ

まあ、それはしょうがないと言える。

男はここ数日不幸が連続で起こっていた。最初は大学の課題がいきなり期限が早まって、数日やや徹夜気味。バイト先の同僚がシフトなのに、いきなり行けないと言い出してチーフマネージャーに拝み倒されて代わりに出勤。その途中で自転車が壊れ修理に二万。さらに店長が発注を一桁間違えて溢れかえった缶詰を何とかするため配置換えで腰を痛める。とどめが癒して貰いたいと思って行った彼女の家で彼女の浮気が発覚、よりにもよって6股。


「この世は地獄かよ。」


しかも浮気相手が大集合、どうやら彼女は時間調整をミスってブッキングやらかしたらしい。不幸中の幸いは体の関係になってなかった事、明らかに二・三人かなり遊んでいる男がいたからだ。


「性病もってそうな奴だったなぁ。そういや、あの遊園地に今度行こうって…」


自己嫌悪、というかただただ辛い。

更に言うなら付き合いは二か月ぐらいだが、とても楽しい付き合いだったので、突然の裏切りで余計苦しい。


「俺そんなに、あいつの事好きだったんだなぁ」


連続する苦労でとどめの心労で精魂尽き果てていた。そんな男に海岸公園の目玉と言えるオブジェが目に入った。


「あんな悲惨な終わり方じゃなくて、あんな場所でスパッと振られたら、まだきれいな結末だったのになぁ」


未練たらたらの自分の女々しさを感じつつ、男は思わず溜息交じりに愚痴をこぼしてしまう。彼の視線の先は海にせり出した人工地盤を利用した海洋発電と風力発電を行う実験場だ。海岸線に重なる様な大きなひし形の施設で、水中には巨大な海洋発電施設が、ひし形の辺には幾本もの振動型風力発電機が等間隔に建てられている。

その中心ではその風力発電機を利用した芸術作品が建てられている。そのオブジェは巷で噂の『カップルの墓場』と言われるモノだった。

本当の名前は有名建築士と共同で依頼して作って貰った『海からの別離』と呼ばれるオブジェなのだが、ここで仲を拗らせたり険悪にしたりとするカップルが多い為に、実際の名前より、そう呼ばれている。

男は何もする事が無いのと、いつまでもウジウジしているのも嫌だったので取り敢えず近付く事にした。


「ま、気分転換と今度の課題のヒントでもなるだろうさ…、なるといいなぁ」


美大生の男の興味を引いたのだが、そのオブジェは人の心を和ませる様なモノでは無かった。

白い壁。

言い表すとそうだ、元々は風力発電機の発電力の増幅を目的に作られていたのを利用する様に作られたらしい。。

大小合わせて数十の白い壁が、思い思いの方向を見るように立ち並んでいる。

大きさは大きいモノは縦5メートル四方の正方形の壁から、小さいモノは家のドアの大きさの長方形。

大きさ故か、形状故か、それは妙な圧迫感を与えてくる。


「スゲー」


近付くと解る、白い壁は何の装飾もされていない唯の一枚の厚いコンクリートの壁だ。

かといって感想は語彙力をなくしているが、他に何もない訳では無い。

その白さが潔癖を表し、大きさが荘厳を醸し出し何とも言えない雰囲気を出している。

いやそれだけじゃあ無い、男にはそれが解った。

少し離れるとそれが良く解る。

壁に日が当たり陰を作る、その陰が他のオブジェにかかり全体を見る事により白と黒のコントラストを作っていた。

離れて見る男には、その光景に驚きを感じていた。

あのオブジェのある空間は非現実的な空間になっている、無造作に乱立しているのでは無く、まさに計算され尽くされた創られた異界。


「俺も、こんな作品造れるかな。」


美大でインテリアを勉強する男にとって、オブジェは強烈な印象を与えたのだろう、感嘆の声が溜息交じりとなっていた。


「あんたはこんな悪意に満ちた物を作りたいのか?」

「うおっ!!!」


いつの間にかに男の傍に青年が居た。

時代遅れの上にワンサイズ大き目の灰色のトレンチコートを着た青年。

彼は無造作に整えられた髪の毛をオールバックにして、現れた目を眠そうに細めて男を見ていた。


「あんた、何時からそこに!?」

「? 最初から居たよ、あんたがぶつぶつ言いながら後ろ向きに歩いて来たのには驚いたけど、もしかして気付いてなかったかい?」

「あ~。」


男は全然気付いてなかった。


「はは、ゴメンな。俺、集中すると周りが見えなくて」

「いいよ、スケッチしているときに一寸邪魔になったけど…そんなに迷惑はしていないから。それよりあんた、あんな悪意の塊みたいなモノを本当に作りたいの?」

「へ?」


どういう事か男には今一良く解らなかった。


「むう、感受性が強い人間だったら解ると思ったんだけどなぁ」


更に不可解な話を続ける彼は、どうも自分の感性に沿って話す為に相手に理解を求めてないような喋り方だ。

だが解る事もある、目の前の青年は明らかに自分の事を馬鹿にしていると。

この作品の事を言っているのだろう、『その作品の本質を解らないぐらいの貧相な感覚しかないのか?』と言われている。

そう男は思った。

だから男はここ数日で溜まった鬱憤と悲しみを怒りがない交ぜになったのか、青年の胸倉を乱暴に掴んだ。


「本当に困ったな。気付いてないのではなく、あんた残響に憑かれているみたいだ。」

「ああ、何だってよ!!」

「今聞かせてあげるよ、潮騒に隠れた悪意の残響を。」


青年は男の両耳を両手で優しく塞いだ。

ゆっくり見開かれる男の目、その耳には潮騒が聞こえていた、そしてそれに隠れる様な囁く声で何十何百何千もの人間が囁くかのような潮騒が聞こえる。


総てがお前を馬鹿にしている。

怒れと。


総てがお前を傷付けようとしている。

恐れろと。


総てがお前を否定している。

哀しめ。


総てがお前が劣っていると言っている。

憐れ。


総てがお前は何も出来無いと。

苦しめと。



「うっっっうわわわあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」



なぜか聞こえた、男は青年の手を狂ったように振りほどきその場にへたり込む。


「聞こえた?」


男は直感で確信した、これが噂の原因だと。

青年を見上げながら、男は聞いた。

呆然と掠れた声で。


「何だよ、これ」

「悪意の残響」


少年は言った。



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