逃亡者脱出 前篇
「くそっ!! やられた!!」
鎖を使う男は白い布に包まれた『人形』を投げ捨てると励起法で強化された足でこの顎名になるまで踏みつぶす。誠一の隙を突いて、伸ばした鎖を使い布にくるまれた少女を捕まえたまでは良かった。
最初は動かない小さな体は最初おかしいなと考えていたが、特に年若い実験体に投与される『スレイブジーン』の効果と思って捕まえてみたが、それは罠だったらしい。
今思い出せばあの苛烈な攻撃をしてくる奴が、解りやすい隙を見せるのがそもそもおかしい。あれが演技だったと考えれば、辻褄があう。実際のところ本命は誠一達ではなく、桂二に自分の能力を教え自分が行くと主張したアジズだ。
作戦開始前に彼の能力『カーテンハイド』で隠れている斎達の場所まで行って、身代わりのイスマールに人形を渡して、娘を抱いた斎と共に桂二の待つ場所まで脱出したのだ。
「どうしますか?」
「完全にやられた!!だが、まだだ!!」
部下に聞かれた男は電話をかける。
「ガンドックを出せ!! 奴らまだ近くにいるはずだ。虱潰しに探して追い詰めるんだ!!」
高見原の都市高速は観光地でもある。
特徴は森林都市と呼ばれる高見原をグルリと囲み、樹海の上を走る特殊な景観となる。
そこは『樹海の路』と呼ばれており、大体が日の高い時間帯が見ものだ。特に明け方の海がきれいと噂で、明け方場所によっては海の方を向けば樹海から昇る日の出が見えるだろう。
とは言え今は午後11時、街の明かりは樹海に沈んで見えるのは高速を照らす街灯とぼうと浮き上がる道のみだ。
この道は夜、この気味悪さと見通しが悪い道の為人気が全然ない。その所為で夜は全然車があまり通っていない。
「と聞いたが、明らかにおかしいだろうが!!」
「どうしました、アジズさん?」
「車がなさすぎる!! 誘いこまれたんじゃないのか?」
アジズの言う通り、周りを見れば車のテールランプどころか後部からくる車のヘッドライトすらも見えない。
桂二が腕時計を見ると午後11時40分、この時間は夜間料金になる為に県外に出る長距離のトラックが増える時間なのにと携帯の画面を見ると電波が県外となっていた。
「まずっ、香住屋しっかりシートベルトを締め直して隣の子に負担がかからないように!!アジズさん、電波妨害されているスピードをもっとあげてくれ!!」
「マックスだよ!!」
「今、制限を解除します。…ハンドル横にあるレバーを引いて左に回してください。」
「…これか?」
するとライトバンがゆっくりと変形していく。高かった天井が少し低くなり、それに合わせてドアも変形していく。後部の屋根からはウイングが出てダウンフォースを作り出す。
「うおお、これなんだ車が変形してる? 車の強度大丈夫なのか?」
「ナノマシンを使った特殊素材性のバンだ。見た目は不審に思われない様に安っぽいが、本体価格は戦車が買える特別製だ。それに見合った強度と防護性がある。」
「マジか、戦車って億とかだぞ。」
そうこうしている内に体が後ろに引かれた。加速度のGがかかっている。それと同時に、後ろから猛スピードで数台の車が迫ってきた。
「ちっ、ガンドックか!!」
「おい、ガンドックってなんだ!?」
「桃山お抱えの対能力者戦闘部隊『ハウンド』の一つ、『ガンドック』だ。やつらの特徴は鳥を狩猟する為に銃を使う意味の通り…。」
桂二が言い終わる前にその答えは車に着弾する。音に驚いて後ろを見れば、無数のひび割れを起こしたリアウインドウがあった。
「うわわ!! あいつら銃を打ったぞ!!」
「だからガンドックなんだ。安心しろ、儀式を使用した特殊積層ポリカーボネートガラスを使ってる、アンチマテリアルライフルの直撃すらも防ぎきるぞ。車体も同じように鉄板に儀式特殊カーボンコートで砲弾も防ぎきる。」
「もしかしてこれトンデモ車か?」
「まあな。だが絶対じゃない頭低くしておけ」
そう言われて斎はアマルを覆い隠す様に頭を低くした。
段々スピードが上がっていく、時速が200kmにも迫る勢いだが後ろの車はピッタリとくっついてくる上に銃を乱射してくる。
「くそっスピードを上げてるのにまだついて来てやがる。下に降りて撒くか?どうにかならんのか?」
「追いつかれて終わりです。なによりこの子が間に合いません、手は打っていますが…ちょっと耐えてください。」
「耐えろと言うが…マズいぞ!!」
タイヤが高速で走る音とエンジン以外の低音の音が聞こえる。車に浴びせられる強力なサーチライトが遮光ガラス越しに車内を照らす。
「軍用ヘリ!! ちっ、ここまでやるか!!」
ガラス越しに見れば軍用ヘリが並走する様に、車の上を飛んでサーチライトで車を照らしていた。桂二は憎々しげに言う。
軍用ヘリは軍用と言うだけあって、その所為のは普通のヘリコプターと違い性能は段違いだ。普通のヘリでは大体平均で時速200から250km位だが、軍用ヘリだと時速250から300km程。いくら高性能の車だと言えども逃げ切れない、
何よりマズいのは、この車がどこに行くのかを見られてしまうのが不味い。
「おい、このままで大丈夫なのか!?」
「…軍用のチェーンガンでも耐えきる…しかし、速度が落ちるかもしれない…もう少しだ間に合うか?」
次々に来る追手に斎が狼狽して桂二に聞くが、桂二も焦燥感に唇を噛んでいた。手は打ってもうそろそろの筈だが、まだかと焦るばかりだ。
そんな桂二の願いが届いたのか、追手の車の向こうから重低音の大きなホーン音が響いた。
「間に合った!! アジズさん後ろから来るトラックの後ろにつけて下さい!!」
アジズがサイドミラー越しに後ろを見れば、巨大なコンテナを積んだ大きなトラックが入って来ていた。そして、そのトラックの上には膝立ちで座る、白いレインコートを着た男がいた。




