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いつもの日々に  作者: ルウ
異郷の逃亡者
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逃亡者と圧倒する龍

形意拳とは元々が槍の攻撃を身体で行う事から始まった武術と言われている。その攻撃方法は全身を使った勁(ここでは動いたエネルギーを指す)で攻撃する事だ。誠一はその中で動物の動きを真似て、爆発的な攻撃を行う型を見せる。

それは架空の動物『龍』だ。

普通は架空の動物であるから動かしずらいが、そこはイメージで補完し動きを作っていモノだ。普通だった一寸ぎこちなく使い辛い所もあるが誠一は違う、この半月で能力を併用して使い発展させたのだ。

能力者の固有能力は成長する事がある。とは言っても、飛躍的な成長ではなく使い方を学ぶと言った意味での成長だ。風を操る能力を持った能力者が、自分の理解を深める事で支配領域の拡大や、能力の使い方の種類を圧縮してぶつけたり圧力差を作ったりと手を増やす事を言う。

更に例えを言えば土を操作する能力者が地質学を学ぶことで理解力を増やし、土の中にある元素を指定し動かすことも可能になる。他にも能力者の神域を広げたり、励起法の深度を上げたり瞬間的に倍増させたりする。

今回、誠一が行ったのもそれと同じだ。夏休みを利用して能力の成長を行った事により、出来る事が二つ増えた。一つは極端に狭かった神域の領域を皮膚から数センチから6センチまで伸ばすことが出来た。

そしてもう一つは、誠一の身体の周りを鎧の様に覆う水だ。


「な、なんだそれはっ!?」


誠一に放たれる、鉄板でもぶち抜く威力の鎖が弾かれる。いや鎖だけではなく、四方八方から飛んでくる銃弾もだ。流動的に動く水の鎧、首回りや腕と足回りは細かく鱗の様に波立っている。その姿は見る者が見ればそれは、人の形をした龍のようであった。


「教えるはずがないだろう?」


彼の能力は『水系の理』、水分子を操作し身体の中にある水を利用し身体能力を強化する力だった。

誠一は此処で勘違いしていたのだ。

勘違いしたのは、体内の水だけだと思っていた事。本当は水分子操作、それは身体の体内体外で分けるモノではなかったのだ。

正確には神域内の水分子の支配と操作。


「喝っ」


型としての掌打、それだけで掌からは衝撃波が飛び動かした身体からも風が吹く。攻撃で衝撃波を出すのは普通の技でも誠一は出来る。(51話・囮の奮闘で火球を衝撃波で吹き飛ばしている。)

ただ、身体の挙動だけで周囲に風が動くのは明らかに異常ともいえる膂力。


「ハッ!!」


その力を存分に使った踏み込みは先ほどの踏み込みとは違い、アスファルトは放射状にひび割れ小石が宙に浮かぶ。

同時に男の目前まで踏み込んだ誠一の龍の爪を模した三指が上下に振るわれる。


「ひっ。」


男はたまらず鎖で防御するも、それは恐ろしい事に誠一の指が通り過ぎた場所がゴッソリと削り取られた様に切断されていた。

誠一の神域が拡大され体外の水分を介し、空気中の水分を吸い上げ身体に纏ったのだ。そしてさらに誠一の固有能力はこれで留まらない。水を圧縮し線維化、更にそれを編み込み外装を龍の面に合わせる為に鱗鎧スケイルメイルの様にしているのだ。

線維化した上に編み込んだその鎧は、外付けのパワーアシストの様に作用しておりただでさえ励起法と固有能力で引き上がっている攻撃力をさらに引き上げる事となっている。

更にその防御力も水で出来ているとは言え、能力によって圧縮されている為に普通の金属鎧を上回る硬性と弾性を誇る。

そしてその成長した能力と異常なまでに上昇した膂力は、恐ろしい威力になっていた。


「ひっひぃっ!!」


先程とは違い銃弾を気にせず襲い掛かってくる誠一に、男は鎖を使いながら後ろへ下がる。

今までの誠一の攻撃でも恐ろしい威力だったが、さらに磨きがかかって普通の攻撃が必殺の一撃となっていた。さらに強靭さが上がった指先は龍の爪のごとく、鎖を断ち切りコンクリートやアスファルトを生クリームを指でなぞったかの様に線を描いている。

打たれても爪に当たっても必殺、一線を画したその力は恐怖でしかない。

そして何よりも恐ろしいのは、誠一の技には相手を殺す事を厭わない意思が籠っていた事だ。

男は必死に逃げるしかない、そして逃げながらある事に気付く。

視界の端で走る、何かを抱えて走る青年。


「いっ居たぞ。そいつだ、そいつを捕まえろ!!」


入り口近くの生垣の陰に潜んでいたイスマールが能力を使い飛び出したのだ。

ピンボールの球の様に飛び出して、跳ねるように走るが抱えている布に包まれた何かの所為で動きが遅い。

男は布の中身があの子供だと解り、抱えて逃げているという事は恐らくスレイブジーンが発動したと察し、これはチャンスだと口角を吊り上げた。


「回り込め、男はいい白い布に包まれたものを取り上げるんだ!!」


拳銃を撃っていた能力者達はその指示に従い、イスマールを出口に逃がすまいと回り込む。動きが遅いながらもイスマールは直線と減速、フェイントをかけながら追手の手から逃れようとする。しか多勢に無勢、囲まれ取り押さえられそうになる。


「ぐっ…ここまでか?」

「諦めるな。」


手が届く直前、砲弾の様に上から落ちてきた誠一が手を弾く。


「あんたは?」

「ここで君達を護る様に依頼された…ここは任せろ、隙が見えたらさっきみたいに移動して逃げる。」


実はイスマールは誠一が現れた最初から戦いを見ていた。異様なまでの膂力、相手が怯むほどの圧力、あまりにも圧倒的な戦闘、自分とは違う強い能力者。その姿に、その背中に安心を覚えていた。


「頼んでいいか?」

「任せろ。」


手は前に龍爪の型、ズンと震脚を起こし、腰を落とす。

誠一はイスマールに背を向け、護る為の防御を主とした体勢を取った。


「すまん。」

「謝罪はいい、今は脱出する事だけ考えろ。」


誠一は再び励起法を最大深度で使う。その姿を天子が見たら懐かしむだろう、以前と同じ護る人だと。


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