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いつもの日々に  作者: ルウ
異郷の逃亡者
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逃亡者と前線に立つ意味

能力者達が遠巻きに囲む中心で誠一と鎖を使う男が対峙する。最初の一撃は驚くべき事に誠一の一撃を見事に受け止めたのだ。蜘蛛の巣の様なその鎖の網を引き裂かんとばかりに腕を引き絞ろうとするが、網の目から複数の分銅が飛んでくる。

鎖分銅。厄介な武器の上に能力を使って動かしているから、更に厄介になっていると誠一は跳んでくる分銅をトンファーで弾き返して防御する。

鎖分銅とは暗器に属する武器だ。普通は1m程の鎖の両端に分銅が付いた物で、折り畳めば手の中にスッポリ入るくらいの物で携帯性に優れている。使い方は色々あり片方を掴み居合の様に打ち出す事により短距離・長距離との打撃に、両手で持ち防御や絞め技にも出来たり投げても使える強力な武器だ。

それを踏まえて今の状況を見れば、完全に使い方が違う。目の前の男は多分導士系統の能力者、使う固有能力はおそらく金属操作か磁力操作だ。

顔の横を掠める分銅が蛇の様に軌道を変えて誠一の身体を縛る様に動く予想できない動きに防戦一方だ。


「やっかいな。」


少しでも隙を見せると鎖に絡めとられてしまう。鎖が縦横無尽に誠一を襲う。

誠一は突然腰を落とす、頭のあった位置にナイフが通り過ぎたのだ。


「ふふふ、一対一じゃないんだ卑怯とは言うまいね?」

「…。」


誠一は南進で罵倒しながら攻撃のスキを見極める為、鎖と周りからの攻撃を避けていく。ギリギリの極限状態、削られていく精神。その限界が来たのか、誠一の背中に銃弾が当たる。


「ぐっ。」


普通なら貫通し重症になるのだが能力者の上、特殊な固有能力を持つ誠一には傷一つ付かない。とは言え衝撃は身体を抜ける為、痛みとしては感じていた。


「なるほど、君は頑丈だ。神から当たられたその身体、その力…やはり我々と共に…。」

「ふざけるなよ、断るに決まってるだろうが!!」


励起法を全開にして銃弾を耐え、鎖を捌く。誠一がこの場所で不利な戦いを行っているのは訳がある。実はこの北側の入り口は一番広く、こう派手に戦っていると目が引けるのだ。

要するに誠一は囮、相手の視線を引き付け遮る防壁でもあるのだ。

流石の防御力に定評がある誠一とは言え、この猛攻は少しキツクなってきた。励起法と固有能力でしのいでいるが、どちらかが少しでも断続的になろうものなら捕まり倒される可能性がある。


『桂二、合図はまだか?』


痛みに耐えながら、誠一は歯を食いしばり捌き続ける。

しかし、一瞬。刹那と言える一瞬、励起法が揺らいだ。


「しまっ!?」


励起法は『歌』である。と言う主張する人間が多い。人間にはバイオリズムと言う物がある。これは生理状態と感情の起伏や知性によって変わるバイオリズムだ。しかし能力者の場合は身体の生理状態とそれを動かすエネルギーのリズムだ。励起法はそれに合わせて共振させ、エネルギーを増幅させる。

その共振が『歌』に聞こえる能力者が多いらしいのだ。そして歌と言う事は途中で揺らいだという事は、歌の途中で詰まったりどもったりして歌が中断またはおかしくなったという事だ。

それはどういう事と言えば、励起法の出力が一時的に下がってしまうのである。そしてそれは、能力者戦闘において致命的な隙になるのだ。


「くひひ。」


男が気持ち悪い含み笑いをすると、弾くはずの鎖が弾けず腕に絡まっていた。


「しまっ!!」


腕がとられ思わず意識を逸らしてしまった、その隙を逃す男ではない。腕を引き鎖を振りほどこうとしたら、左足に鎖が絡まっていた。


「なんだっ?」


チラと見れば足元のアスファルトを突き破って、地面から鎖が飛び出して足に絡まっている。男をよく見れば足元から鎖が伸びてアスファルトに穴が開いている。

銃弾に耐えるのに集中して見落としていたのを悔しく思うが、それどころではない。

銃弾がひっきりなしに打ち込まれる為、防御を抜かれないように体を固めた。


「くふふ、能力者は傾向がある。識者同士は相手の隙や粗を狙う。導士同士は状況により使用ソースの奪い合いか潰し合い。伝説の法師は陣取りゲーム。でもな、お前みたいな励起法頼りの識者・・は導士の私には勝てないんだよ!!」


同じ系統の有利不利の説明は、大体男の言う通りだ。

そして識者・導士・法師の能力者の系統は、一般的には三竦みの関係にある。

導士は識者に制圧する。これは識者の感知範囲に飽和攻撃で圧倒出来る事が多いという事から来ている言葉だ。

法師は導士を跪かせる。これは識者の能力は支配力に関係するのだが、支配力と言う意味では法師の出力は導士とは桁違いの為に能力が阻害されてしまう。

識者は法師の力を掻い潜る。法師の特徴は神域の異常なまでの広さと支配力の出力の高さだ。しかし、その力は粗がある為それを読み切ることが出来る識者は、その支配を掻い潜ることが出来るのだ。

それを踏まえて先ほどの発言を聞くと、少し勘違いをしている事に気付くだろう。

誠一は面の下でニヤリと笑うと、この休みに教えて貰った事と自分の固有能力を合わせた新技を使う。


バチン。


腕と足に巻き付いて、更には胴や首にも巻き付いた鎖が弾け飛んだ。


「なあっ!? 何故だ。俺の能力『冶金』は金属分子操作。金属を単に操作するだけじゃなく、金属の結合も操作して強さも強靭さも硬さも変化させる!! 簡単に外れるものじゃない!!」


男の能力はかなり強い能力だ。普通の金属操作能力であれば金属を操作するだけなのだが、男の能力は分子の結合や硬さなども操作出来る強力なものだ。しかし、それは誠一の固有能力によって覆された。


「お前…その姿は一体なんだっ?」


鎖が弾け飛んだ後、誠一の見た目が少し変わっていた。

彼の身体の上を、薄い透明な膜が浮いていた。その膜は流動的に動き、誠一の呼吸に合わせ鱗の様に動いていた。

その姿は誠一の被る龍の面と合わせて、龍の様に見えていた。


「お前が知る必要はないさ、貴様らには此処で潰れてもらう。」


誠一の構えが変わる、片足を前に出し後ろに引いた膝を曲げ、両手を上下に構えた形意拳の龍の構え。


「龍の爪、思う存分味わえ。」


その手は三本の指を使い、龍の爪を表していた。


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