逃亡者とそれぞれの戦い。
「ぐおっ!!」
南東門の戦闘員は全て大地に沈んだ。漫画だったら二コマで落ち並の速さである。
普通の人間でも、レベルの低い能力者を倒せると言う証明。桂二はそれが出来る数少ない陰陽術を使う『儀式使い』だ。
その力は多岐にわたっており、呪詛を打ったり払ったり、鎮魂や魂振りなどを行える。その最たるモノが狩衣姿の桂二の周囲にいる、顔のない人形の様な存在『式』だ。
式神とは色々な物がある、一つ鬼や土地神などを使役した式神。二つ術者の思念を一部切り離し式神にする。三つ、これが風文から伝授され桂二の使用頻度が高い、人形や型紙を使う式神。
この式神は古くから伝わる式神ではない。古くからの式神と最新科学技術をふんだんにつぎ込んだ特殊な式神だ。
「攻勢式神・開発コード『前鬼』、思ったよりも使える…。」
「ぐっぐぅ、何者だお前ら。」
「…死んでないか。自衛隊が開発した対能力者用鎮圧閃光弾『シャイニングフラッド』…失敗作とは言え使い方次第だ。」
対能力者用に作られた閃光弾。能力者の一般的な特徴と言えば、途轍もない頑丈さが上げられる。その強さは大体が深度で表されるが、これは励起法が乗数計算で強化される事にあるからだ。何故乗数かと聞かれたら、それは励起法を調べた人間が励起法の強化方法が自身のエネルギーと体内の『賢者の石』が共振する事により指数関数的にエネルギーが爆増していたのを見つけたからだ。
能力者はそのエネルギーを身体に巡らせ身体を増強させるのだ。
エネルギーを身体に流せば筋力は増加し体表面は鋼より硬くしなやかになる。そう身体全てが強化されるのだ。
それ故、眼球や鼓膜なども強化されるのだ。
その為に能力者にはあまり閃光弾はあまり効果がない。(これは能力者には効く事はあるが短時間効果しかないと言うことである。以前東哉が手作りで使ったのも短時間しか効かなったのと粗悪品だった為、粉塵が目に影響を与えていたため。)
そんな頑丈な能力者に制圧する為に作られた閃光弾は、普通の閃光弾の10倍以上の衝撃波と音を出す。これは確かに能力者に効いたが、一つ欠陥があった。使う人間が、能力者じゃなく普通の人間の割合が多いのだ。間違って足元に落とそうものならば、近くにいた人間の鼓膜は破れ、衝撃波で体全体を揺らされ内臓がグチャグチャになってしまう。
とんだ欠陥兵器だ。
だが桂二は『シャイニングフラッド』面白い運用を思いつく。
自分は遠くにいた状態で、自分の式を操り相手の前で式神ごとワザと爆発させたのだ。普通の人間であれば爆発で死んでいるが、式神なら問題なく使えるという事だ。ちなみに式神は粉々になるが、桂二は式を打つための符を様々な種類を100枚単位で用意している。
最新の印刷技術って凄いって話である。
「まあ、死ななかったのは良かった。これから使うであろう兵器のモニターをやってもらえるからな…。」
「ひっ‼」
感覚器官がやられた男達は励起法でもなかなか戻らない中で、妙な空気と威圧感に押され尻を付けたまま後退る。
「お前らは様々な罪を犯し、人の道を知らず何も見ないまま踏み外した。」
桂二は目の前の男達の過去の犯罪歴を調べていた。窃盗・傷害・暴行・詐欺、それら諸々の犯罪を能力を使い、警察の捜査を振り切り疑いだけで逃げていた奴らだった。この男達に泣かされ、苦しめられ、絶望の下で命を奪われた者は多い。
桂二は許すつもりはない。
「我々の大本は別名『復讐部隊』と呼ばれててな、貴様らのような奴を始末するべくうちの大隊長が集めた集団だ。…特に、桃山に恨みのある隊員が多い。そんな所に所属する貴様らを許す奴がいる訳がない。」
淡々と話した後、桂二が踵を返すと同時に式神達が動き出す。
その手には様々な機械や兵器を持って。
「…報いを受けろ。我々は第三者の恨みを晴らす部隊だ。」
多くの式神の群れに押しつぶされるように消える男達、その断末魔は自分たちが仕掛けた消音の儀式道具で聞こえなかった。
北口は一番の激戦区となっていた。
ゆっくりと歩いて現れた誠一。それに襲い掛かるかと思っていた誠一だったが、この場所にいた人員は誠一の姿を見た途端警戒し距離を取って攻撃していたのだ。どうも怪力を持つトンファー使いの情報が回っていらしく、誠一がジロリと周りを見れば周りの人間が輪になって距離を取っていたのだ。
間合いギリギリはずれている、攻撃が通らないから良いがこっちの攻撃も上手く入らないなと誠一は仮面の下で唇を歪める。このままでは作戦に障る、早速カードを切らなければならないか?と思っていると包囲網の一部が開き、黒を基調としたホスト風の男が現れる。特徴的なのは体中にジャラジャラと大小何本もの鎖が巻き付いている事だ。
「よお、お前か世界を救う仕事を邪魔してるって奴は。」
「お前は何を言っているんだ?」
「なにをって、俺等の世界を救う崇高な使命をお前が邪魔してるって話だ。」
話が全然かみ合わないどころか日本語を話しているのに何言っているのか解らない、誠一としては突然宇宙人が目の前に現れた気分だ。
「…世界を救う?」
「ああ、そうだ。俺等は今世界を救うために動いてるんだ。この世界は皆迷っているし苦しんでいる。何故だか解るか? 力が無いからだ!!」
大仰な身振り手振りを付けてしゃべる男、その動きはさながら弁舌を振るう政治家の様だ。
「そう、力がない。体力がないからやる気が出ない。考える力がないから物事を上手く進めない。話す力がないからコミュニケーションが出来ない。力・力・力、そう人にはエネルギーがないから人は自分の進む道が解らず迷い、苦しむ!!」
「…。」
「だが私達にはそれを何とかする為に、神からの啓示を受けたのです。能力者を研究しその身体から迸るエネルギーを万人に与えなさいと!!」
「だから能力者の命を使って実験すると?」
「致し方ない犠牲なのです!!」
吐き気がする、もう良いと誠一はトンファーの柄を怒り共に握りしめ構える。
「世界はいつだって犠牲なくしては進みません。考えたことがありませんか?私達がこうやって生きるのも何千何万の命の犠牲によって成り立っているのだと!!」
「それは解る。人はいつだって命の上に立っている。誰かの犠牲の上にもあるかもしれない…。」
「そうでしょう、そうでしょう!!」
「でもなっ!! それは無理やり強いるもんじゃない!! 同じ人間が人を実験動物の様にあつかうんじゃねーよ!!」
「ひひっ!!」
嗤う男に誠一はたった一歩で殴り掛かる。活歩と呼ばれる平面の足場の時に使える、水平移動の様に見える移動方法で男の目の前に来るとトンファーを振りかぶって叩きつける。
だが、その攻撃は意外にも受け止められた。
幾本もの鎖が蜘蛛の巣の様に動き、振るわれた力を分散させるように動き受け止められたのだ。
「ひひひひっ!! あなたも能力者、捕まえて世界の明日の為の糧にしてあげましょう!!」
「お断りだ!! 貴様を沈めたら土に埋めておいてやる!! 安心して土に返れ!!」
蛇や雲の様に動く鎖を前に誠一の戦いの火蓋は切って落とされた。




