逃亡者と救出ターン
アイドリングの音。エンジンが軽快な振動を出す中で、誠一は暗い車内の中で最終確認をしていた。車の運転席には、先ほど相談してきた三人の一人アジズがリクライニングを倒してハンチング帽で顔を隠して寝ていた。
そんな中、車のオーディオに偽装された通信機から桂二の声が上がる
「概要を伝える。今回の作戦は救出任務だ。フェイズ1、まずは三か所の出入り口に同時に仕掛ける。南東門は俺がやる、南西門はフローレンス、あんたがやってくれ。」
「まかせなさい。病院騎士として務めを果たします。」
「解った、頼みます。北門は誠一頼む、出来るか?」
「任せろ。」
「続いてフェイズ2、奴らの使っていると思われる忌避の鐘もしくは増幅装置を破壊。」
ここに来る前のブリーフィングで見せられた鐘を思い出す。見つけ次第壊さなければいけないなと誠一は、高見原タワーでの一軒を思い出しながら決意をする。この鐘がある限り、奴らは犯罪を繰り返す。見逃すわけはいかない。
「それと同時に対象が逃げてくる、それを救出するのがフェイズ3。それが終わり次第、撤退だ。注意事項は伝えた通り、捕まるなよ?今は救出できないからな。では、諸君の健闘を祈る。」
それきり声は聞こえなくなる。
車内は静かになるが、アジズはリクライニングをそっと戻し、シートベルトを締めるとフットブレーキを解除する。ハンチング帽を被りなおし、シフトレバーをドライブにするとアクセルペダルをそっと押し込んだ。
「準備はいいか?」
「はい。お願いします。」
誠一は龍を模した面をかぶり、顔を隠すと同時に車が加速する。
「あいつは、イスマールは俺の娘を狙う馬鹿野郎だがよ…俺の故郷の奴なんだ。助けてやってくれ。」
「解ってるアジズさん。今回の俺はディフェンドだ、守ってみせるよ。」
車のスピードが上がり、時速80kmを超えた。時間は10時過ぎ、車はスピードを落とさずに駐車場へと猛スピードで入っていった。
ハウンド。猟犬部隊と呼ばれる桃山財閥お抱えの戦闘部隊。それのほとんどは能力者で構成されており、部隊と言う物は存在せず命令は数人の上級能力者と呼ばれる戦闘力が高い能力者を中心として六人から八人の蜘蛛の巣の様な繋がりとなっている。
今回の作戦は、級能力者の中でも三人のリーダー格である鎖使いと呼ばれる男、佐瀬幸太郎の主導で行われる捕縛作戦だ。
小泉寛治は佐瀬幸太郎に呼ばれて来てこの作戦に参加した。同じように参加しているのは自分を入れて八人、北門の幸太郎を合わせて九人だ。
寛治は昔から粗暴で落ち着きが無い子と言われ、勉強も嫌いだった。家族から疎まれて、悪い仲間とつるんでと言う解りやすい転落人生だった。
しかし彼は、ある日能力に覚醒してから変わった。
能力の名前は『天狗礫』、石を自在に操りぶつける事が出来ると言ういたってシンプルかつ強力な能力だ。
石と言えども侮れない、日本では昔から石投げは一つの攻撃手段で平安時代では『石合戦』戦国時代では『印地打ち』と言う技名で通るくらいだ。
その威力も強く、当たった場所にもよるが骨折や失明と言った怪我から当たり所が悪ければ最悪死に至る恐ろしいモノだ。
しかも寛治の天狗礫はもっと厄介で、手で投げるのではなく能力で投げる為に投げるモーションもなければスピードも自由自在な上に正確に打ち抜くことが出来るのだ。
材質や石の形にもよるが、少し早い拳銃弾位の速さにもなる為かなりの脅威になる…筈だった。
それは一台のライトバンが走り込んできてからだ。高見原中央公園の南西門の駐車場に車が猛スピードで走り込んで、ドリフトでグルリと回って後部を見せた状態で止まった。
人払いの儀式具『忌避の鐘』を使用している時点で、車が入ってくる時点で異常事態なのだが、もっとおかしいのはドリフトの勢いで後部の観音開きのドアが開き中から飛び出るように出てきた人物が問題だ。
街灯で照らされた薄暗い駐車場にボウと浮き上がる蛍の様に光り輝く西洋甲冑、顔を隠す様な作られた兜で顔は見えないが大きさと甲冑の意匠が曲線と柔らかな女性を思わせる。
寛治は先手必勝とばかりにあらかじめ用意していた凝灰岩で出来た硬い石を打ち出した。甲冑であれば貫く事は出来なくとも、凹ませるか最悪弾かれる。それによって相手の防御力と対応を見る一手だったが、結果はそのどれとも違っていた。
消えたのだ。
「なんだそりゃっ!?」
思わず寛治は叫んでしまった。いや消えたと言うのは些か言い過ぎだ、正確には当たる直前に溶け落ちたのだ。
何が起きたか解らない寛治と同じように集められた仲間は今まで起こらなかった現象に慌てふためき動くことが出来ない。
しかしその行動はからくも正解だった。基本石などが溶ける温度は物にもよるが約1000℃前後、しかも今回のような現象が起きるという事は恐らくあの甲冑が放つ温度が1000℃以上と言う可能性があるのだ。ましては甲冑が放つ光の色は白、あれが蛍光やLEDの光でなければ恐らく約6000℃の熱の光の可能性が高い。
甲冑の腕が立てに長い杯の様なものを持ち、両手を胸まであげそれを騎士の様に持つ。
それは寛治たちには解らないが病院騎士達の戦いの所作だ。
次の瞬間、倒れるように前かがみになるとロケットの様に飛び込んでくる。
「野郎っ、お前ら迎え撃て!!」
突っ込んでくる騎士甲冑、寛治たちは思い思いの手段で迎え撃つ。寛治は石礫をマシンガンの様に打ち出し、他の者たちはよくある能力『パーツ』と呼ばれる自分の能力にそった武器で打ちかかる。
しかしその全ては薙ぎ払われる。
「なっ何っ!?」
騎士甲冑が握っていた杯の液体を受ける場所から、光の剣が伸びていた。それは熱を帯び光の尾を引き、石礫を刀を警棒を投げナイフを全てを…一撃で薙ぎ払っていた。
「我は蛍火の騎士、人に仇なす輩を許す訳にはいきません。人の苦しみ・嘆き・無念・絶望、その一欠片でもその身に受けなさい。」
一際光り輝く剣は大剣となり、騎士はその剣を真横に振りぬいた。
「フローライトハロー!!」
剣から噴き出した熱と衝撃波を伴う光が、駐車場を包み込んだ。




