逃亡者と援軍
「突然でスマン。」
そう言って頭を下げる桂二に誠一は気にするなと手を上げ、やりかけの装備を整える。誠一の装備は今までで一番、力が入っているなと桂二は思い疑問を口にした。
「凄い装備だな。」
「解るか?」
「そりゃあな、装備に惜しむと死ぬからそこら辺は詳しくなったんだ。とは言え知らないモノも多いけどな。」
誠一の身体は、ほとんど儀式服と呼ばれる儀式を施した特殊な服で包まれていた。軍用ブーツを基にした軽量化と伸縮性と強靭性を持った靴、薄い布に衝撃吸収機構を組み込んだパンツ、黒いインナーも同じ素材だ。上に羽織るのは長袖丈長の長袍と呼ばれる中華服。
「先生が色々と贈ってくれたんだ。」
「…良かったな。」
少し照れたようにはにかむ誠一に、桂二は素直に良かったなと伝える。桂二は天子から話を聞いて彼の境遇は知っていた、彼の師匠の思惟にも年の離れた姉弟や家族のように接している彼女の思いも聞いている。だからこそ今は殺伐としているが少しでも幸せそうで安堵する。
とは言え、本気出し過ぎだろうと桂二は思う。
「過保護? いや戦いに出すのは過保護じゃねーし、こういう時はどうなんだ?」
「どうした桂二?」
「いや何でもないさ。それより準備しながら今回の作戦内容を聞いてくれ。」
「あいよ、あと小手とレガースを付ければ終わりだ。気にせず言ってくれ。」
ああ、と頷き桂二は今回の事を一から語り始めた。
今回の始まりは外部からの依頼と俺等の友人の一人『香住屋斎』の救出だ。依頼人の話によれば以前俺らが調査していた研究所に依頼人の娘と、もう一人の娘の友達が誘拐され連れ込まれたらしい。その証拠に二日前の研究所周りの警戒度の段階が跳ね上がっていると確認された。間違いなくその二人が逃げ出したのが解る。二人が逃げだしたのが確定したのは、中央区楼閣町の監視カメラに写っているのが確認されたからだ。
更にその監視カメラの動画から行き先を洗ったら、友人の香住屋斎も関係している可能性が高い。彼の兄から聞いた所によると今日の午前中はその兄の喫茶店でアルバイトをした後、昼過ぎてから図書館へ行ったという事が解ってる。
「図書館って、中央公園の横のか?」
「そうだ、あのバカでかい公園の横な。それでだ、この二つの動線を重ね合わすと公園の中でかち合ってる可能性がる。」
「しかし、それは可能性だろう? 合わなかった可能性は?」
「いや、会うとか会わないとかじゃなく彼女の性格と最近の事情から考えるとかち合ってる可能性が高いと思う。」
「あー、まあ…。」
誠一も聞いていたが、元々東哉の問題の相談に来たのは彼女らしい。そして彼女は東哉が能力者の事を聞いて色々知っている上に、前回の生徒会室の一件にも別側面から調査していきついたと言う。
「むしろ、自分から面倒ごとに頭を突っ込んでいっている気がするな?」
「だろ?」
面倒見もよく、目の前の不正や不当な事に立ち向かわずにはいられないタイプか、と誠一が考えると自分から面倒ごとに突っ込んでいっている気もする。だがそう考えると、出会っている可能性がある。
「と言う訳で、今調査中だがもし合流していた場合は一緒に保護する。」
「了解。俺の役目はボディーガードでいいんだな?」
「ああ、基本的にはな。そこの所は臨機応変に…話してくれれば俺が何とか対応する。」
「頼りにしてる。」
「任せろ、俺ら第三部隊の信条は臨機応変、柔軟な対応でその場で最適な行動を取るだ。」
そう言って二人は拳を合わせる。香住屋斎の居場所と現状が解ったのはその20分後だった。
「と言う訳で助けに来た。」
「どう言う訳だ!!」
カラスのスピーカーから聞こえた声に、斎は思わず言い返した。
「いやいや、こっちの事情だ。ともかく無事でよかった。」
「無事なもんか。お前もこの状況が解っていると思うが、追い詰められてる。」
少しも動揺していない、桂二の声に斎は苛立つ。そんな二人の会話にイスマールが入ってくる。
「あんた、魔術師と知り合いなのか?」
「ん? マジシャン?」
「中東の人間における、俺みたいな奴の呼称さ。手品師とは違うぞ?」
「解ってるよ!!」
何となく考えていた桂二の正体が解る。恐らく彼はイスマールが言ってた超常的な力を使う魔術師、もしくはそれに連なる人間だと。とまあ自分の欲求が満たされた所で、斎はズレた話を戻す。
「それでこんな状態でどうするんだ? なんか人払いを引き起こす魔法みたいな道具を使っていたらしいぞ。」
「大丈夫だ。対外的な話は公園に爆発物が仕掛けられたと言う事で封鎖されていると言うカバーストーリーが流れてる。」
「全然大丈夫じゃない!!」
話によれば、昼過ぎこの公園に爆発物を仕掛けたと言う脅迫メールが届いたらしい。最初は悪戯電話かと思いきや、公園の一番端にある自販機のゴミ箱から本物の爆弾が見つかり、現在捜索中らしい。
「まあ、ある意味爆弾みたいなのは確かにあるみたいだがな。」
そう言ってカラスが目を向けるのは、隅で横たわる少女。
「…まだフェイズ1か。」
「どういう事だ?」
「確認だ、そこの二人は北区近くの研究所から逃げてきたので間違いないか?」
「ああ、彼らはこの町の人間じゃないから良く解らなかったみたいだが。話を聞いたら、この間の話から間違いないと思う。」
「…この状態になってどれくらいだ?」
「3時間程だ。」
カラスからの声が押し黙る。気味が悪い程の静寂が、不安を呼ぶ。あれだけ苦しんでいた少女がピクリと動かなくなって3時間だ、心配にならない筈がない。ましては彼ら二人は実験台にされていたのだ、この3時間は不安が募る一方だった。
しかしこれが打開できる方が良いと思っていたが、事態はマズい方向に行っていた。
「残り時間がない。早くしないとその子が危ない。」
「おい、どういう事だ!!」
カラスに飛びかかりそうなイスマールを斎は慌てて押し止める。外との連絡手段を誤って潰されたらマズイのと、残り時間がないならむしろ落ち着くべきだからだ。
「落ち着け!!」
「…スマン。」
「言葉が悪かった。君の気持ちを考えてなかった、すまない。だけど、時間がないのは本当だ。」
桂二によればそれは遺伝子改良薬に仕掛けられた罠みたいなものらしい。
『スレイブジーン』と呼ばれる遺伝子に仕掛けられたモノで、一定期間特別な物質を摂取していないと身体に異常が出るようになるらしい。
それは全部で3段階、第一段階は吐き気やめまい・頭痛・耳鳴り・しびれなどが起きる。そして第二段階が意識混濁からの昏睡状態になり、最終的には第三段階の死に至ると言う物だ。
「…っどうすればいい!!」
「一応対抗策はあるが、それがある場所が少し遠いんだ。ここから急いでも一時間どの先の施設に行くんだ。そこでは最新の遺伝子解析機で遺伝子を解析して体に合わせた薬を作るんだが…解析に1時間、投与してから効き目が出るまで30分かかる…という事は…。」
「30分以内で此処を出なきゃならないのか。」
「そういう事だ。」
余りの時間のなさに斎はした唇を噛んだ。
「やるしかない。」
「待て待て、あと5分で準備が整う。だから早まるな!!」
外に飛び出しそうになる身体を桂二が言葉で押し止める。
イスマールも飛び出しそうになったが、桂二の言葉に止まった。
「そんな部の悪い覚悟は無しだ。それより俺の作戦に乗らないか?」
イスマールはその何となく信用してしまいそうになるその声が、悪魔めいた何かに感じた。
後に聞いた話だが、この時の会話を聞かせるとあの師匠にあの弟子ありだなと誰もが笑ったらしい。




