1、貧民少女がとある異世界の公主になる
<序章 貧民少女がとある異世界に転生する>
私は今日も空腹なまま村をうろついている。食べ物を探すために。もう何日もろくな食事をしていない。
だけどこの暮らしはずっと前から変わらない。今後も変わらないだろう。
齢15の私は、学校どころか家もない。親すら、5年前に他界した。
元々片親だった私は、5年前から天涯孤独。どうにか飢え死にを回避してきた。
学校や飲食店のゴミを漁り、道を通る人達に頭を下げて食べ物をもらい、どうにか生きてきた。
「やぁ君か、リッカ。また儂に食べ物をねだるのかい?他人に分け与えるほどの量はないぞ。すまないが、他をあたってくれ」
(ちっ。この爺が唯一私の話をまともに聞いてくれるというのに。他をあたってみれば逃げられるか暴力振られるか、だもんなぁ)
今日の飯はなしだ。毎週月曜日と金曜日はゴミの回収日であるため、漁るゴミがない。そしてあの爺もだめときたら、アウト。
(今日は飯なし、か…)
そしてさらに、回収日の前日までゴミは置かれない。今日は月曜日。木曜日まであと3日またなければならない。
「この生活があと3日続くのか…。さすがにきつい。この調子だとあの爺しばらくはくれねぇな。飢え死にしそうだ」
数日後。
案の定、予想は当たる。土曜日と日曜日は学校がない。しかも、最近は多くの飲食店が都会に移っている。そのため、漁れるゴミがなく、飢えていた。
―――だめだな。もう死ぬ。天に行ったら母ちゃんに謝んねぇとな。結局まともな人生を生きれなかった。
(次生まれ変わったら豪華な家に住みてぇなぁ)
そう、叶いもしなさそうな願いをしながら私は目を閉じた。
―――(ここはどこだ?天国…、いや違う。まさか生まれ変わったのか?でもそんなわけないよな…)
「おめでとうございます、蓮花様。可愛らしい公主様のご誕生です」
(………。あ゙ぁ゙?!どういうことだ?私が赤ん坊だと?!いやまて、いま誰かが公主って言わなかったか??)
いったいどういうことなのだろうか。
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<1章>
周りを見回してみても、違和感しかない。
ここはどっかの宮廷らしいし、あきらかに私がいた国ではない。
というより、あきらかに体が小さい。さっきの侍女らしき女が言っていたことはどうやら本当らしい。
(なぜ私が赤ん坊になったんだ?さっき死んだばっかりじゃなかったか?!まさか、生まれ変わった?)
―――本来の私→15歳の貧民、親無しの天涯孤独
今の私→生まれたばかりのとある国の公主
周りの者に尋ねたいが、赤ん坊である以上、喋るわけにはいかない。
どうやって現状を理解したらいいのだろう。
でも、これだけは分かる。私は『さっき死んだ、前世の記憶があるまま生まれ変わった』ということ。
転生したのだ。
(それにしても、よりによって公主とは…。貧民だった私に公主なんかが務まるのか?)
今は子供だからいいけどいずれお偉方との面会や政治に関わることもしなければならないだろう。
そういう時に転生前の素が出てしまったら困る。
だがこれは逆に、貧民だった私が生前願っていた『豪華な家に住むこと』が叶ったことになる。
さらに、毎日美味しいものが腹いっぱい食える。
これを(赤ん坊であるため、生活が不自由であることを除いて)最高以外何と言えばいいのだろうか。
それにしても、ここは明らかに私が住んでいた国とは違う。
窓から見える景色も、周りの者が着ている服も。
(都か?)
貧民だったため、村からでて都に行ったことなどないが低い建物が多く、都に近かったため、知っていた。
都に住んでいるであろう者に会ったこともある。
だが、窓から見える景色は、私が知っている景色ではなかった。なぜか、見たこともない鳥がたくさん飛んでいたのだ。
(異世界かもしれないな。生き物に詳しい私が知らないわけがない)
(女しか居ねぇということは、ここは後宮か?この妃が私の母親、ねぇ…)
「公主様のお名前はいかが致しますか?」
そういえば転生前の記憶があったとしても名前は変わるんだ。混乱する。
だけどさっきあの侍女は妃のこと蓮花とか言っていた。いかにも他の国の人の名前じゃないか。
「そうねぇ〜。『麗怜』にしようかしら。可愛らしくっていいじゃない?」
「はい、とても可愛らしくていい名前ですね。流石です、蓮花様」
「ふふふ」
こうして私の名前は決まったのだった、『麗怜』に。正直リッカのままでいい。
まぁ、転生してしまったのだからしかたない。諦めるとしよう。
「蓮花妃、ごきげんよう。公主のご誕生だと?体調は大丈夫か?」
「あら、ごきげんよう。そうよ、可愛い娘が生まれて良かった。まぁ、東宮の方が良かったのかもしれないけれど。体調もそれほど悪くはないわ」
東宮、つまり皇太子だ。まぁこの私の母親とやらには男の方が都合が良かったはず。女で申し訳ない。
「それなら良かった。しかし、別に気にすることはない。いずれ男子を産めば、安泰だ。他の妃が先かもしれぬが」
「そうね。でも、帝はそのためだけにいらっしゃったわけではなくて?」
「相変わらず鋭いな。ならば話すとしよう」
なるほど、この男が帝。並に愛想がいい。あの髭長の鬼面じゃなければ尚いいのだが。失礼だが、笑ってる姿が少し不気味だ。
「この頃後宮では嫌に妃の侍女や女官達がとある武官に心酔しているのだ。何故かはまだ調査中だが。ただその状態ならいいのだが、そのせいで仕事が疎かになっているのでは困る」
(やたら顔がいいのか、金持ちか……。後宮は怪しい者がいるもんだな)
大体、女に群がられている男はそういう奴だ。経験上、よく知っている。
「なるほど〜。今のところ、分かりませんね。調査が終わり次第でいいかしら?」
「そうだな。話を持ちかけたのが早かったようだ。辰宇、徹底的に調べてくれ」
「承知致しました、帝。関わった者も調べ上げますか?」
帝の部下、辰宇と呼ばれた男は素直で忠誠心のある者のようだ。
「そうだな。頼む」
「御意。ではお先に失礼致します」
さらに礼儀正しいことも分かった。いい夫になれそうだ。
「ちなみに、名は何と言う?」
「『麗怜』よ」
(そういや、さっきあの侍女に同じようなことを聞かれていたな。名前ってそんなに重要か?)
察してはいたが、やはり他の国だ。
「いい名だな。蓮花妃のように美しく、賢い公主になるかもしれぬ」
「ふふふっ。どうかしら?」
前世の私を知ってから言ってくれ、としか思えない。賢いも何も、私は元貧民なのだ。後宮や政治の知識はほぼ無いに等しい。
覚える気も満更ない。興味もない。
「では、後日また」
「ええ」
(私はこれからどうすればいいのか)
とはいえ、暇だ。後宮内を見て回りたいが、この姿で出歩いたら大問題なのだ。自由がない。
(とりあえず、寝るか)
私は動き回れないため、仕方なく寝ることにした。




