第九十二射目
ガルシア=ローレライとアメリア=ローレライと同じ姓が二人出てくるので、分かりやすい様にそれぞれ名前で呼んでおります。
『本当の目的はイース公国の軍をシンフォニア王国の守りの要、アリアに引き入れる事だったのよ』
ボルトンの言葉を聞いて、僕は応接室を飛び出した。
冷静でない事は自分自身が一番分かっている。
それでもそうせずにはいられなかった。
リックさんは北の監視をしている第三騎士団との連絡役として王都を出ており、いつ戻るかも分からない。
念の為、戻り次第アリアへ向かってほしい。と伝言を残しているが、少なくとも明日の朝までは戻らないだろう。
第二騎士団がいないとなれば騎竜隊もいない。
そうなると馬での移動になるが、それだと馬を乗り継ぎながら休み無く走ったとしても七日は掛かってしまう。
しかもその都度馬を補給し、走った馬は潰れてしまうので現実的では無い。
それならどうするか?
僕に残された手段は二つ。
まずは腕輪に呼びかけて、ウンディーネ様にアリアを守ってもらおうとしたが、呼びかけには応えてくれなかった。
人間の呼びかけに一々応えていられないならまだ良いが、応えられない状況になっていたのなら話は変わってくる。
そうなると手段は残り一つ、《練魔術》を使い、全力でアリアへ走る事だった。
この方法なら騎竜程では無いにしろ、馬よりは早く走る事が出来る。
消費された魔力や体力も回復錠で回復し続ければ問題無い。
急げ……急げ…………。
加護を使ってもまだまだ視えない、いつもより遠く感じるアリアを目指して、僕は休む事無く全力で走り続けた。
【アリアside(ユウリとボルトンが会話を始めた頃)〜三人称視点〜】
「クレア!貴女はお父様の元へ行き、情報の共有を!ウィル!クルト!二人は屋敷の皆に知らせて防衛体制取らせて!」
「「「はっ!」」」
「なんでユウリが居ない時にっ!」
防衛拠点としてアリアに建てられたホークアイ侯爵邸は自体の把握と対応に追われていた。
世界が夜の帳に包まれた頃、監視をしていた従者の一人がフランの元へと慌てた様子で現れた。
『イース公国の旗印を掲げた船が数十隻、アリアの北東十キリルの位置に突如現れ、こちらを目指して侵攻している』と。
いくら領土内では無いとはいえ、あまりにも港に近過ぎる。
しかも唐突に現れ、こちらからの呼びかけには応える様子も無く、どんどん近付いてくる。
十キリルといえば、今日の朝までいた無人島とほぼ変わらない距離。
アリアへの到達までそんなに時間も無い。
フランは急いで防衛体制を敷かせて、何かあった際の対応が出来るようにしていた。
「フラン様!辺境伯閣下に伝えて参りました。港には不沈艦を配備し、もしもの際に備えるとの事でした。住民の避難についても既に開始しております」
「分かった。私達は入江に入るまで注意勧告を続けて、侵入してきたらそのまま迎撃を開始しましょう。弩砲部隊の準備はどう?」
「先程、クルトが指示を出しておりましたので、間もなく完了すると思われます」
「ウィリアム並びにクルト、只今戻りました。各員、戦闘準備完了。非戦闘員は全て地下施設に身を隠しております」
「ありがとう。さぁ、皆!ユウリが居なくても私達がこの街を守ってみせよう!」
「「「はいっ!」」」
【ガルシアside〜三人称視点】
「団長!住民の避難とディーセス邸の防衛をしている第一部隊を除く、全団員の港への配置、完了しました!」
「御苦労。後は相手の動きがあるまで待機だ」
「はっ!」
ディーセス辺境伯家騎士団、不沈艦団長ガルシア=ローレライは最前線になるであろう、アリア港にいた。
相手がどんな攻撃をしてこようと、全てを彼が防ぐ為。
ユウリとの戦いから彼自身も鍛錬を怠る事は無かった。
元々自分に厳しい彼だったが、実質的にユウリに負けた事で自分を見直す機会となる。
あの少年の姿を見ていると自分は今の実力に満足し、胡座をかいていたのではないかと。
そして先の魔獣戦線では遅れて馳せ参じながらも、副団長にして自身の姪であるアメリア=ローレライと共に味方陣営の被害をごく僅かに留める活躍を見せた。
自分にはまだまだ伸び代がある事を実感出来たのだ。
そんな最中、今回のイース公国船団の襲来。
命を掛けて自分の使命を完遂する時だと心に決めている。
「ホークアイ家からの報告です!公国の船団は現在アリア港沖五百メリルの位置で停止中、今のところ動きはありません」
「少しでも不審な動きを見せたらあちらからも応戦する様にフラン嬢にも伝えてくれ」
「はっ!」
「一体何の目的なんでしょう?亡命してきた者を返せとは言い出さないと思いますが……」
「それならば先の会談で既に話があるだろう。あの船の数、明らかな敵対行為だ」
「でしょうな」
ローレライの隣に控える第三部隊長ジルク。
彼の加護は《魔力感知上強化》であり、相手側に何かしらの魔力操作があった場合即察知できる様、隣に控えさせている。
副団長であるアメリアは最右翼に展開し、ホークアイ家・ガルシアが居ない穴を埋めてもらっている。
「……っ!?敵先頭の船に凄まじい勢いで魔力が集まっています!これの魔力量は……。上級魔法です!」
「総員迎撃準備!初手は儂が防ぐ!顕現せよ!《不屈の盾・城壁》」
相手の動きを敏感に察知したジルクが伝えると、ガルシアが加護を発動させる。
《不屈の盾・城壁》はユウリと対峙した際に使ったものを、超広範囲に拡げる戦場用の障壁魔法。
本来範囲を拡げると脆くなるが、ローレライの障壁はそれには当て嵌る事は無い。
正確には脆くはなっているが、彼の技量と加護が相まって殆どそれを感じさせない。
凄まじい勢いで大量の水の矛が障壁とぶつかり、霧散していく。
全てを防ぎきり反撃しようとした矢先、ホークアイ家の屋敷とその崖から打ち出された大量の矢が相手船団へと雨の様に降り注ぐ。
弩砲から発射された矢と言うには巨大過ぎるそれは、本来五百メリルの距離を飛ばす事は叶わない。
しかし、ホークアイ家が開発した魔法弓隼の技術を転用し、風属性のみに絞った事で飛距離を伸ばしていた。
そんな鉄の楔が降って来ようものなら一溜まりもない。
現に船団の一部がみるみる内に沈没していくのが港からでも見えていた。
「凄まじいですな」
「あぁ。しかし、障壁で防いでる船もある」
「それが相手の主戦力が乗る船と見て良いでしょう」
「ユウリが居れば関係無く射抜けたかもしれんが、居ない者に頼る訳にもいかん。弓兵部隊と魔法部隊にホークアイ家の援護をさせろ!アレを実戦投入させる時だ。ジルク、お主が指揮を取れ」
「はっ!」
命じられたジルクが一礼をし、その場を去る。
魔法部隊に加えて、つい最近作った弓兵部隊。
そこにはホークアイ家直伝の弓矢、隼と隼の爪が配備されている。
主に飛距離を伸ばす緑爪と殲滅力の高い赤爪の二種類だ。
訓練段階で見せた驚くべき実力を見せたものを、こんなにも近い内に実戦投入されるとは夢にも思わなかったガルシアだが、今回ばかりはユウリの采配に感謝するばかりだった。
イース公国の船団の出現により、戦いの火蓋が切って落とされたアリア港。
国を守る為の戦いが王都から遥か東のここアリアでも今、始まる。
引き続き、第三視点でホークアイ家と不沈艦、それぞれの視点から進めていきます。
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