第九十一射目
次の展開の関係上、一話で終わらせたくて少々長く、会話メインの文章となりました。
読みにくかったら申し訳ありません。
二人の言葉を待っていると、ケイロンが先に口を開いた。
「ホークアイ侯爵閣下。まずは約束通り、負傷者の治療に団長の腕を繋げる為の回復薬まで提供していただきありがとうです。まさか本当に助けてくれるとは思わなかったのです」
「そういう約束でしたから。もう既に亡くなられた方々には申し訳無いですが……」
「その点は気にしないでほしいのです。元々死ぬ覚悟で今回の件に賛同したのです」
「そこについてです。何故王国が誇る方舟の第二騎士団の貴方方が反乱軍に手を貸したのですか?」
「それは団長から説明をするのです。ほら、団長。早く話すのです」
「…………良いのか?」
「陛下から『お前は騎士団長として口を開くな』と言われたのをまだ守っているのですか?もう私達は騎士団では無いのです。律儀に守らなくても良いですよ」
「もしどうしてもと言うのであれば、僕が陛下に代わってこの短剣を使って、許可を出しますが…………」
「その必要は無いのです。ただ…………」
「ただ?」
「あまり驚かないでくれると助かるのです」
「驚かない……?分かりました。元々貴族の出ではありませんから、あまり気にしないですよ」
「そうではないのですが…………。でもそれでも有り難いです。ほら団長!」
陛下から禁止される程だから、余程口が悪いのか?
申し訳無いけど、加担した理由よりも、むしろそっちの方が気になってきた。
「じゃあ、話すわねん。アタシはゴリアテ=ボルトン。第二騎士団長よん。あ!今はもう元第二騎士団長ねん!よろしく、ユウリちゃん」
「あぁ、そういう事……」
「はいなのです。元々実力も人望も申し分無いのですが、この話し方だけは陛下が幾ら言っても治らなかったのです……」
「もう!ケイロンちゃんったら酷いわねん!アタシはどんな立場になろうとア・タ・シよん!」
「はいはいなのです……」
ケイロンさん、苦労してるんですね……。
まぁ確かに、二メリル程ある長身と筋骨隆々の身体付きに加え、髭を蓄えて頭を剃り上げている男がこの口調だと威厳が無い。
いや、異常な迄の威圧感と言うか危機感と言うか、恐怖は感じるけどね。
そのせいで騎士団に命令を下すのは基本ケイロンさん、ボルトンさんと直接会話した事あるのは極少数みたいだ。
「それで?アタシ達が反乱軍に加担した理由だったかしら?」
「そうです。それと貴方達の目的はなんですか?」
「その前にアタシから一つ質問があるわ」
「一応この場での主導権は僕にある筈ですが……。まぁ良いでしょう」
「あら見た目に違わぬ優男ねん。アタシが聞きたいのは『何故アタシを殺さなかったのか?』よ」
「え?」
「だってそうでしょう?敵の実質的な戦力の頂点であるアタシ。それを殺せばもっと簡単にこちらの戦力を削れたわ。ユウリちゃんならそれが出来た筈よ」
「確かに。ボルトンさんの言う通り、一度退避して遠くから矢を射れば多分殺せたと思います」
「では何故?まさか出来れば殺したくないとか言わないでしょうね?」
「勿論それもあります。好き好んで人の命を奪う程落ちぶれたつもりはありませんから。それとは別に理由が一つ。貴方達が誰も殺してなかったからです」
「…………続けて頂戴」
そう、それが敢えて遠くからの狙撃を選ばず、圧倒的に不利な近接戦闘を挑んだ理由。
「僕の加護はご存知ですよね?僕はこれを使って戦闘が始まってから先程までの間、常に王都全体を視渡していました。流石に一人一人の動向を完璧に把握迄はしていませんが…………。ただ、二騎士団を含む、明らかに実力が高い方達は他よりも意識を割いていたので、そちらは把握していました。僕の知る限り、貴方方は直接的には誰も殺していませんでした。その傷が原因で死んだ方はいるんでしょうけど」
「…………」
「今回、貴方達がやった事を許すつもりはありません。いずれ陛下直々に処罰を下すでしょう。長年国を守ってきた騎士団を、この国に来て一年と少しの僕が殺めるのは少々荷が勝ち過ぎる。そんな重大な事はお上に丸投げするのが一番でしょう?」
「貴方、随分陛下に対して不敬じゃない?侯爵様がそんな事言って良いのかしら?」
「不敬も何も、それを見抜けなかった陛下にも責任がありますから」
「…………面白い坊やね。アタシが後十年若ければお嫁に行きたかったわぁ」
「貴方みたいな方が味方になってくれれば心強いでしょうね」
「アタシの発言を躱しながら受け入れる頭の回転の早さ。坊やがこの国にいれば安泰でしょう」
「それです。ボルトン、貴方はこの国の事を心から大切に思っている。それなのに何故っ!?」
「この国が好きなのは嘘偽り無い事実よ。でも、私が真に忠誠を誓っているのは国そのものでは無いの」
「北の辺境伯……ですか?」
「そこまで分かっているのね。でもそれじゃあ満点はあげられないわ」
「他にもいるんですか?」
「えぇ。私が忠誠を誓うのはミージック=ローリアル現辺境伯。そしてシンフォニア王国現正妃マチルダ=フォン=シンフォニア様のお二人よ」
「…………」
「あら、少しは吃驚させられたみたいね」
「まさかの人物だったので……」
ボルトンは元々孤児だった。
餓死寸前のところを現ローリアル辺境伯に救われ、才能を見出されて記事となった。
そして、彼の推薦で現正妃の護衛に任命され、メキメキと頭角を表し現在の地位、方舟第二騎士団長にまで登り詰めた。
その際、一緒に守れる様にと最終的に子爵位まで与えられ、孤児の時代の仲間や全てとはいかないまでも自分の目に映る孤児達をボルトン家で引き取り必要な教育を施して、将来困る事の無い様に手助けをしていた。
その援助を辺境伯家と王妃自ら申し出る形で。
「アタシのこの性格と口調は誰にでも受け入れられるものではない。それでも関係無く命を救ってくださった辺境伯閣下、その道を示してくださった王妃様に忠誠を誓う事を決めたわ。それがたとえ……間違っているのだとしても…………」
「じゃあ兵を殺さなかったのは…………」
「アタシ達は決して国を殺したくは無かったのもの」
「…………るな」
正しい事を言っている様に思えた。
だけど、彼の言う事は間違っている。
「え?」
「ふざけるな!忠誠を誓った相手が間違っていたのなら止めるのが本当の忠臣じゃないんですか!?直接手を下して無くても、結局は貴方達が加盟した反乱軍がこの国の民を殺したのは変わり無い!自分達は殺していないのんて戯言でしかないでしょう!」
「坊や、あんまり舐めないでくれるかしら?騎士とは忠誠を誓った相手となら地獄まで共に生きる者よ。例えそれが茨の道であってもね」
僕は自分の感情を隠そうとせず、怒りをそのまま、言葉をぶつける。
しかしボルトンは声を荒げる事も無く極めて冷静に、静かな声色で返した。
しかしその発言には重さがある。
騎士という生き物はそうである。と、否が応にも分からされる程の。
沸騰してしまった頭を冷まして冷静さを取り戻し、話を続ける。
「そうですか。貴方達の加担の理由は分かりました。では、北の辺境伯と王妃様並びに第二王子の目的はなんですか?」
「アタシ達の主を教えたわ。それ以上の事を教える義理は無くてよ。既にバレている情報の答えを与えたとしても、それ以上の必要は無いわ」
「……分かりました。貴方がその様な覚悟でこの戦いに臨んだのであれば、僕がこれ以上貴方を責める事はありません。ただし…………」
ボルトンの心を折るには僕の言葉では足りない、このまま話を続けていても話は平行線のままだ。
それならば、僕も手段を選ぶ訳にはいかない。
「扉の外にいる騎士さん!……と、ミトス騎士団長。居るんでしょう?入ってきて下さい」
「ははっ。流石にバレているか」
話の途中から扉の前で聞き耳を立てていたミトス団長。
苦笑いしながら部屋に入って来たが、その目は悲しみに暮れている様に見えた。
「まさかこんな形でお前と話すとは思わなかったよ、ゴリアテ」
「あら?そうなの?貴方なら薄々勘付いていたと思ったのだけど」
「そうだとしても、そうじゃない事を願うのが同じ志を抱いた仲間だろう?」
「あらあら、ここには甘ちゃんしかいないのかしら?」
この二人に敵対の意思は既に無いみたいだ。
旧友との会話を楽しんでいる様にすら見える。
「それで?侯爵閣下は何の為に俺をお呼びに?」
「実質的に第二騎士団を無力化した僕に、その処遇を決める権利があるんでしたよね?」
「そうだね。陛下からもそう言われているし、有事の際の君の権限でそれは可能だ」
「では、今回の件に加担した第二騎士団は解散。そして、第二騎士団長ゴリアテ=ボルトン以外全員を国家反逆罪として晒し首にして下さい」
「…………っ!?」
「待ちなさいっ!坊や!!貴方、自分が何を言っているのか分かっているの!?」
「分かっていますよ?国家に対する反逆は極刑と決まっているのはご存知でしょう?」
「それならアタシ一人で充分よ!アタシが勝手に決めた事に彼女達は付いてきてくれただけなのよ!」
「言ったでしょう?自分の忠誠の誓った者が間違っていたら止めるのが忠臣の役割だと。ミトス様、僕は間違っていますか?」
「…………いや、ユウリ君の言う通りだ」
「それでも何故アタシだけ生かすのよ!?」
「そうした方が貴方が苦しむでしょう?」
「貴方…………」
「自分の義理を優先して道を踏み外し、それに部下を巻き込んだ。その罪の重さを知ってもらう為に貴方にはこれからも生きてもらいます」
「最低ね……」
「貴方がした事に比べれば可愛いですよ」
「くっ……」
「待ってくれ!」
僕の話を聞いていたミトス団長が、ボルトンを庇うように前に出る。
「ユウリ君の言っている事は間違っていない。ただ、考え直してくれないか?ゴリアテが国を大切に思っているのも、自分の命を救ってくれた二人への恩義も俺は知っている。だからこそ、恩を返す為に今回の反乱に加担した。しかし、国への忠義を持っているから兵を殺さなかった。馬鹿な事を言っているのは分かっている!それでももう一度、考え直してはもらえないだろうか?」
「僕の今の発言は陛下の発言と同義です。それでも逆らうと言うのですか?」
「それでも、だ」
「そうですか……。例え、それが反逆罪と取られても?」
「あぁ。そう捉えてくれて構わない」
「だ、そうですよ。どうしますか?」
ミトス団長の必死の説得を踏まえた上でもう一度ボルトンに視線を移す。
「分かったわ……。部下の命を犠牲にして自分だけ生き残り、ミトスにそこまで言われてそれでも考えを変えない馬鹿じゃないつもりよ。誠意を示す為とは違うかもしれないけれど、あの方々の目的を話すわ」
「ゴリアテ…………」
部下の命に加え、もしミトス団長迄失えばこの国にも大きな損失になる事を分かっていたんだろう。
頭が理解していても心が追いついていない、ボルトンと対峙して最初に抱いた印象が正にそれだった。
僕がボルトンの立場なら、ディーセス家と国のどちらかを選べと言われたら僕も彼と同じ様にディーセス家を選んだかもしれない。
勿論、僕には国に対しての忠義があまり無かったのもあるが、彼はそうじゃなかった。
きっと、戦う前から今の今までずっと揺れ動いていたのだろう。
「北の辺境伯の目的は第二王子を次代の王にし、その影で国を牛耳ろうとしていたのよ。勿論王妃もそれに加担しているわ」
「…………」
「あの男……その様な馬鹿げた事を…………」
「それを成そうとしても、流石に分が悪い。だから魔獣戦線に加えて先日の暗殺を企てたけど、失敗。結局今回、第二王子派に所属する貴族を使って王都を制圧する強硬策に出た。…………様に見せかけたのよ」
「見せかけた…………?」
「急ぎなさい、坊や。今回の反乱は周りの目を王都に向ける為。本当の目的は―――」
ボルトンの話を聞いた僕は周りの静止を振り切って、応接室を飛び出した。
『本当の目的はイース公国の軍をシンフォニア王国の守りの要、アリアに引き入れる事だったのよ』
とうとう話が大きく動き始めましたね。
ここまで書いていて、ユウリがここまで怒りの感情を強く出すのは初めてだった気がします。
少し感情ジェットコースター過ぎな気もしましたが……。
こういった心理を文字で表すのって凄く難しいですね、他の方々を改めて尊敬しました。
次話からは色んな時間軸から話を進めていきます。
それを踏まえて、同じ話内でも視点の変更が多くなります。




