第八十九射目
「うわぁ。凄い事になったね……」
「予定通り敵の半数は削れましたね。これでとりあえずは数の有利が取れるでしょう」
これで少なくとも実力が一定以下の者達はもう戦闘への参加は不可能だろう。
なるべく威力も加減したけど、誰も殺したくないと甘えを持つわけにもいかないだろう…………。
なるべく少ない方が嬉しいのは間違いないが…………。
「そうも言ってられないか……。リックさん引き続き全体の敵を間引きたいんですが、クロは大丈夫ですか?」
「まだ問題無いよ。何処から行く?」
「そうですね……。裏門は大分盛り返してるので、正門の方をメインで援護しましょう」
「了解」
全体を視渡した限り、やはり一番苦戦しているのは第二騎士団に攻められている正門だった。
第一騎士団が応戦しているとは言え、貴族の騎士団の主戦力も集中している為、どうしても競り負けている。
「行きましょう!」
「おう!」
【第一騎士団と第二騎士団side〜三人称視点〜】
「流石陛下が認めた【流星】。これで一気に楽になったな」
「第二騎士団はほぼ無傷みたいですが……」
「そこまで望むのは贅沢だよ、レディオン。ここからは私達の仕事だ」
王城の正門を守る第一騎士団の戦闘に立つのは騎士団長【天剣】ミトス=ユリアスと副団長レディオン=ミュリアムだった。
この王国でも指折りの騎士二人が先頭に立って防衛に努めているが、状況は芳しくない。
何せ相手は方舟第二騎士団、相手の団長・副団長も二人と並び立つ豪傑だ。
しかし、ユウリの策で状況はこちらに傾いた。
これ以上被害を拡げない為にも、剣を交える手を休める事無く相手の長に話しかける。
「ゴリアテ!今のを見ただろう!?そちらは半数が戦闘不能になっている!いい加減諦めろ!」
第二騎士団団長【天戟】ゴリアテ=ボルトンはその呼びかけに応じないままユリアスの剣を自分の獲物で弾き、そのまま距離を取る。
その気になったのか、兜の下の表情は分からないがこの好機を逃すまいとユリアスが続ける。
「相変わらずそれを着込んだら話さないんだな。それに手を止めたって事はこっちの要求を聞く気になったって事かい?」
「……………………」
またもユリアスの呼びかけに応えないボルトン。
しかし、上空を一瞥して動き出した。
手近に落ちている槍を拾い上げ、投擲の姿勢を取る。
こちらの話を聞いてくれるかもしれない。と僅かに隙を生んでしまったユリアスは急いで迎撃体勢を取るが、狙いはそちらでは無かった。
ボルトンが狙っていたのは上空を飛ぶ黒い影。
ユリアスは狙いに気付き、止めに駆け出すものの時既に遅く、全力で投げられた槍は一直線に空に向けて飛んでいく。
自分達の上空を飛ぶ、黒い飛竜目掛けて。
【ユウリside〜ユウリ視点〜】
「っ!?槍が来ます!急いで回避をっ!」
「くそっ!間に合わないっ!」
正門前の敵の数を減らしている時、第二騎士団長が拾った槍をこちらへ投擲するのが視えた。
直ぐにリックさんに指示を出したが、その間にこちらまで届いた。
直撃は避けたものの、左の翼膜を貫かれたクロは滞空姿勢が安定しなくなり、徐々に高度を落し始める。
「リックさん!クロを安全な所まで飛ばして休ませて下さい!その後は隙を見て別の個体でリックさんも離脱を!」
「ユウリはどうするんだ!?」
「どうやらお相手さんは僕に用があるみたいなので、ちょっと行ってきます」
「行ってきます。って、相手はあの第二騎士団だ!考え直せ!」
「大丈夫です。僕はまだ死ぬ訳にはいきませんので」
「ちょっ!?ユウ―――」
リックさんの返事を待たずにクロから飛び降りる。
まだ地上との距離はあったが、高度が下がっていたので充分着地可能な距離だ。
落下の間も僕に向けて矢が放たれ、魔法が飛んでくる。
その全てを避け、時には弓で弾きながら無事に着地成功した。
「ホークアイ卿!大丈夫か!?」
「僕は問題ありませんよ、第一騎士団長さん」
「ミトスで良い!そんな事よりどうしてここに?」
「僕の仲間の従者を傷付けた犯人が視えたので、少しお仕置きに来ました」
「お仕置きって君は……。相手はあのゴリアテだぞ?」
「勿論、知っていますよ。【天戟】ゴリアテ=ボルトン第二騎士団長ですよね。お初にお目にかかります、ユウリ=ホークアイ名誉侯爵です」
「……………………」
「いきなりで申し訳ありませんが、少し頭に来ているので手加減は出来ませんよ?」
「…………!?」
僕は飛び降りる際に隼から古代樹の短弓に持ち替えてある。
竜との一戦以降、この弓では軽過ぎると感じていたが、一番長く使っていたこれはやっぱり手に馴染む。
そこから緑爪と変わらない速度で矢を連射し、瞬く間にボルトンの周りにいる騎士達を戦闘不能にする。
「今のが見えましたか?もし見えなかったのであれば降伏をお勧めします」
「…………」
「ゴリアテ!今ならまだ間に合う!降伏しろ!」
僕の降伏勧告に加えて、ミトス団長もそれを促す。
一時静止していたボルトンはいきなり大声を出して笑った。
そして、彼の大きい身長の倍はあるであろう巨大な戟を構え、こちらに走り出した。
走り出したと言えば生温く感じるが、実際は十の距離が一瞬で無くなる超加速。
僕目掛けて振り下ろされた戟を弓の弦で受け止めはしたが、衝撃で身体中が軋み、思わず受け流した。
「なっ!?」
しかし相手からすれば自分より小さい者が全力で振り下ろした武器を受け止め、受け流したのは驚愕に値したらしい。
その有るか無いかの隙を逃す訳にはいかない。
受け流した反動そのままに、短弓から長弓に持ち替えて、弓と矢を使った超近接戦闘に持ち込む。
「ミトス団長!ボルトンは僕が引き受けます!その間に他の方を援護して下さい!」
「しかしっ!」
「まだ劣勢なのに変わりはありません!貴方が行けばそれを変えられます!だから!」
「…………分かった!絶対に死ぬなよ!」
苦渋の決断でミトス団長が他へ走っていくのが視えた。
ここ以外の憂いが消えた今、僕は一人に集中出来る。
この戦い、相手と比べれば遥かに小柄な僕の身体と向こうの超重量武器の取り回しの不利でこちらに分が有る。と思っていたが、やはり騎士団長を勤める相手の実力は並ではない。
長大な戟を短く持ち、手数を増やしてこちらの攻撃を防ぎ続ける。
僕が少しでも下がろうとすればすかさず致命の一撃が襲いかかってくる。
正に一進一退の攻防と呼べるだろう。
もう既に何合交えたのか分からない。
活路を見出だせないまま、時間が経つに連れ徐々に押し込まれる。
隙を見せないならば作り出すしか無い、最初の様に相手の虚を突く一手を。
意識をせずとも集中力が高まっていくのを感じる。
いつの間にか《五感強化・臨戦》と同様、いやそれ以上に感覚が研ぎ澄まされていた。
あぁ、ここまで死に間近に迫る戦いはいつ以来だろう。
この国に来てからはこんな事はあっただろうか?
竜との戦い?クランベイン団長との戦い?ガルシア団長との戦い?フランを攫った暗殺者との戦い?いや、そのどれも違った。
オスリア大森林に捨てられてからの大剣狼との戦いから始まり、爺ちゃんとの稽古や食料調達の為の狩り…………。
あの頃はそのどれもが死と隣り合わせだった。
そうか……。
森を出てから僕はかなりのぬるま湯に浸かっていたらしい。
あの頃の気持ちを思い出せ。
ホークアイ侯爵でも【流星】でも【鷹の目】でも無い。
今を生き抜くのに必死な一人の少年、ユウリだったあの頃を。
生きる為の後退では無く、生きる為に前へと踏み出せ!
「うおぉぉぉ!」
「しまっ…………!」
今迄後ろに引くか横に躱していた攻撃に対して、敢えて前へ踏み出して回避と同時に攻撃に移る。
振り下ろされた腕へと向けて、この眼とこの肌が教えてくれた僅かな隙間、鎧と鎧の繋ぎ目である関節部分に弦を滑り込ませ、力の限り振り抜く。
弧を描いて飛んでいくボルトンの右腕。
片腕を斬った際に僅かにズレたのか、鎧に阻まれて斬り落とす迄はいかなかった左腕も無事では無いのが血の匂いで分かる。
たった一手、一瞬の攻防で勝負はついた。
一度距離を取って弓に矢を番えて相手の心臓に狙いを定める。
「これで決着です。幾ら早く動こうとも、僕の矢は必ず貴方の心臓を貫きます。今直ぐ武器を捨てて、部下達に降伏を宣言して下さい」
「…………嫌だと言ったら?」
この状況でも時間を稼ごうとするボルトンの両膝を、僕は容赦無く射る。
「くっ……」
「これはお願いではありません。命令です。もう一度言います。今直ぐ降伏を宣言して下さい」
「…………」
「それが貴方の答えですか。では…………さよう―――」
「お待ち下さいです!ホークアイ侯爵閣下!」
何も答えないボルトンへ最後の一射を放つ直前、ボルトンの背後にいた彼と同じ甲冑姿で前に出てきた。
「貴方は?」
「私はケイロンです。方舟第二騎士団副団長の任に就いてるです。団長に代わり某が第二騎士団の降伏を宣言するです」
「…………分かりました。では、それを第二騎士団の人達だけでも良いので伝えて下さい。それと、僕の権限で負傷者は治療を約束します。とも」
「分かりましたです」
こうして、反乱軍の主力である第二騎士団との戦闘は終わった。
まだ全てが終わった訳では無いが、第一騎士団が自由に動ける様になった今、そう時間が掛かる事無く敵軍は降伏してくれるだろう。
勿論、降伏したとしてもその殆どは…………。
僕はそこ迄考えたところで考える事を放棄した。
ここまで来て初のまともなガッツリ戦闘シーン。
とは言え、表現方法が上手く思い付かず、分かりにくい文章かと思いますが、そこは皆様の想像力でなんか、こう、ね?




