第八十四射目
「あぁー!忘れてた!」
「え?」
『いきなりどうされたのですか?』
「フラン。大切な事を忘れてた」
「え?何を?」
「お昼に一度戻って報告するって話……」
「あ…………」
午前中は遺跡周りの調査だった。
しかし、昼に一度戻って改めて扉を探す予定だったが、ウンディーネ様に遭遇したた驚きで忘れてしまっていた。
『その事なら問題ありませんよ。私の眷属に頼んで今の状況は伝えてもらっていますか』
「え?どうやって……?」
『地上にいる三人の中に、他の生物と心を通わせる事が出来る者がおりましたので、眷属からその者に伝えてもらいました』
成る程、調教術師であるリックさんには伝わるから間違いないだろう。
『しかしながらもうすぐ日が沈みますね。短い時間でしたが、ここまでと致しましょう。お付き合いいただきありがとうございました』
「こちらこそありがとうございました。大精霊様とお話出来るとは夢にも思いませんでした」
「私も。またお会いできるのを楽しみにしています」
『それについてなのですが、フランさんとユウリさんに渡したい物がございます』
「「渡したい物?」」
『はい。まずはこちらです』
ウンディーネ様が何処からともなく取り出したのは首飾りと腕輪だった。
どちらも中央に水色の宝石の様な石が埋め込まれている。
『これは私の力の欠片。【水の大精霊結晶】とでも呼びましょうか。それを身に着けていただければ、私からの祝福を受ける事が出来ます』
「水の大精霊結晶……」
「ウンディーネ様。祝福とは何でしょう?」
『簡単に言えば精霊から与えられる加護の様なものです。それらに魔力を流せば、ここに来た時以上に様に水の中を自由に動く事が出来ますし、火属性の魔法や暑さの軽減も可能です。それと一番は、常にとはいきませんが、何かあった際に語りかけてもらえれば私が力を貸しましょう』
「ウンディーネ様が力を貸してくれるんですか……?」
『はい。本当であればマリンと同様、フランさんと契約出切れば良いのですが、私は水の妖精・精霊を司る大精霊。簡単に契約する訳にもいきません。それに―――』
「私では力不足なんですよね」
『…………はい。今はまだ難しいでしょう。仮に契約しても、私の力を使おうとしただけで命を脅かす可能性があります』
「今はまだ、って事ならいずれフランは契約が出来るんですか?」
『フランさんは《大精霊の加護》、つまり私達大精霊の力を扱うに相応しい力をお持ちです。いずれは可能です。私が保証しましょう』
「はいっ!必ず!ウンディーネ様と契約出来る実力を身に着けてみせます」
『ふふっ。その時を楽しみにしていますね。それを踏まえてもう一つ、フランさんにはこちらを渡しましょう』
ウンディーネ様が手を翳すと、台座には安置されていた三叉槍が現れ、それをフランへ差し出した。
「こ、こんな凄い物なんて受け取れません!私には扱えそうに無いですし……」
『いえ、これは貴女が使ってこそ真価を発揮します。《大精霊の加護》、私の祝福、そして《槍王》を持つ貴女だからこそ』
「フラン、有り難く受け取りなよ。それを十全使いこなせれば、きっとその時にはウンディーネ様と契約出来るだろうし」
「…………分かりました。有り難く受け取らせていただきます」
『ありがとうございます。その三叉槍は水の大精霊結晶とこの神殿にも使われている鉱石で造られています。必ず貴女のお役に立つでしょう』
「改めて見ても凄く綺麗……。これ、銘はあるんですか?」
『そういえば固有名はありませんでしたね。フランさんが付けられてはいかがでしょう?』
「わわわ、私がですか!?そんな、恐れ多くて…………。ユウリ?」
「へ?僕?」
『ではユウリさんに決めてもらいましょう』
「僕がいただく訳では無いのに付けてもよろしいんですか?ウンディーネ様が銘を付けたほうが間違い無いと思いますが……」
『私達精霊はその辺りにこだわりがありませんので苦手なのですよ。そうですね……。ならばこうしましょう』
「ん?」
なんか凄く嫌な予感…………。
『水の大精霊ウンディーネが命じる。人の子ユウリよ。我を司るその三叉槍に銘を与えよ』
「うわっ。それは狡い」
『ふふっ。長く生きてるとこういう悪知恵が付くのですよ』
大精霊の命とあれば例え国王でも断る事は許されないだろう。
文字通り頭を捻りながら考え抜いた銘は……。
「決まりました。この三叉槍に【水精三叉槍】と銘を与えます」
『承知しました。水精三叉槍よ。汝を持つ者を永遠に守り給え』
ウンディーネ様の言葉で水精三叉槍が光を放つ。
フランに渡されたそれは、先程よりも短くなり、フランの扱い易い長さに変化した。
『その三叉槍に認められたのでしょう。では、地上まで送りますね。また会える日を楽しみにしております』
「ありがとうございました。必ずウンディーネ様と契約出来るようになってみせます!」
「僕も。またゆっくりお話しましょう」
『えぇ、必ず…………』
水の球に包まれて神殿の外へ、そして三人が待っている無人島へと運ばれた僕とフラン。
ウンディーネ様の祝福のおかげなのか、行きと違って帰りは水中でも地上と同じ様に遠くの方まで視る事が出来た。
島に到着して、拠点を視ると何やら落ち着かない様子のソーラさんがいた。
多分心配してくれているのだろう。
フランにその事を伝えて急いで拠点に戻ると、僕達を見付けたソーラさんが駆け寄ってきた。
遅れてロビンさんとリックさんに声を掛けられた。
今日の出来事を一通り話して就寝時間。
フランが先に寝床に向かい、僕も向かう…………予定だった。
ソーラさんに捕まりその場に正座を命じられ、夜が明けるまで延々と報連相の大切さを教え込まれた。
それを笑いながら見ているリックさんと我関せずと周りの警戒をしてくれているロビンさん。
よくよく考えると、一応侯爵の僕を正座させて説教したり、面白がって笑ったりするのって色々と不味いんじゃないかな?
相手が相手なら処罰されてもおかしくない筈。
次の日、それとなく伝えたら『ユウリはそんな事しないから大丈夫』と言われた。
しないよ?しないけどね?
それでもなんか釈然としないんだよなぁ!
このままいけば毎日更新も夢じゃ無いかも……。
いや、無理して出来なくなったら嫌だからしませんけどね?




