第七十六射目
やりたい事を一話に詰め込んだら思ったよりも長くなってしまいました。
でも、悔いは無いっ!
あれから来る日も来る日もひたすら書類仕事に追われ、とうとう僕は才能に目覚めてしまった。
部屋の中央に立ち、積み重なった書類を空中に放り投げる。
空中に漂っている書類の中身に視覚強化で目を通し、そこに触覚強化と《練魔術》でひたすら印を押すか署名をする。
勿論、紙が汚れたり、破れたりしない様に細心の注意を払い、最後に元の順番へ床に落ちるまでに拾い上げて完了。
これぞ、五感超強化を惜しげなく活用した《ホークアイ式書類作成術》だ。
この話を夕食の時間に皆へと話したら、何故かその日の夜から凄く優しくされた。
解せぬ。
結局、屋敷に移ってから一ヶ月半が過ぎてようやく披露会の日程が決まり、今では準備も殆ど終わっている。
普通は叙爵されて、屋敷を手に入れて、披露会する迄に半年は掛かる気がするけど、勘違いだったんだろう、もう深くは考えない。
披露会の日はある理由で秋の五日目を選んだ。
本当は駄目なのかもしれないけど、今回は披露会の他に色々な事を同時に行いたい画策し、マロさんとノイさん、そして陛下にも了承を得ている。
とうとう本番当日。
会場になる食堂には招いたお客様達が談笑しながら待っている。
最後に国王陛下代理として、ルナが会場に到着したところで僕は拡声の魔道具を使って、話を始める。
「皆様、高い所から失礼致します。本日は私の様な若輩者の為にお集まりいただき誠にありがとうございます。本日は屋敷の完成披露会の催しとしてこの様な場を設けさせていただけました事を―――」
貴族の決まり文句で会の始まりの挨拶を述べる。
そして最後にグラスを掲げて、一言。
「では、乾杯っ!」
「「「「「「乾杯っ!」」」」」」
今回は食堂の広さに合わせたのと、招待客の交流を考えて立食形式とした。
僕よりも身分の高いルナとノイさんにも了承を得て、多少の無礼は目を瞑ってもらえる。
勿論、元々その様な事で一々目くじらを立てる二人では無いのは承知の上だが、一応ね。
主催の僕も挨拶に来るのを待つ事はせずに、自ら各人の所に足を運んで挨拶回りをするようにした。
本来、貴族の複雑な関係性を考慮して招待客を選ぶのだが、今回は僕がシンフォニア王国に来てから知り合った方々を呼び、今後関わりがありそうな人達にはウィルに頼んで挨拶の手紙を送ってもらっている。
招きたい人達の一覧をウィルに見せたところ、『国の高いところから数えた方が早い方々と一般の方々を同じ様に扱うとは…………。流石はユウリ様です』と暗に常識が無い。と目で言われた気がするが、些細な事だ。
挨拶をする順番は最初から決まっていた。
まず、最初にお世話になったトルネネの人達とつい最近またお世話になったモイ商会の皆さん。
トルネネの面々は『こんな場所に私達は場違いな気がする』と言っていたが、周りを見渡してもらい、別け隔てなく話してる姿を見て少し安心してくれたみたいだ。
モイ商会の面々はむしろ商魂逞しい程。
マロさんとの最後の催しについての最終確認も忘れない。
その後もアリアや王都のギルドの方々、宿でお世話になった人達・奴隷であったポンにも順に挨拶していく。
本当に暇なんじゃないかと疑いたくなるクランベイン団長と二人の副団長は屋敷の護衛も引き連れてやってきてくれた。
護衛の人達にもケティに頼んで料理の一部を運んでもらっている。
最後ディーセス辺境伯家の人達と不沈艦の皆。
こちらは日頃から顔を合わせるので、軽い雑談程度。
「ユウリ様、そろそろ……」
「うん、ありがとう」
一通り挨拶が終わり、ウィルに声を掛けられたところでもう一度最初の場所に戻る。
「ここからは少し言葉を崩させていただきます。夜もふけてきて、宴も酣となりましたが、あと少し私事にお付き合いいただきたく思います」
拡声の魔道具を使った僕の声に、何も知らない人達は何だ何だとこちらを向く。
「ありがとうございます。では、王女殿下、こちらへお願い致します。ウィル、ここに」
「はい」
「私も……ですか……?」
「そうだよ、早く」
「はっ」
既に話を通してある王女殿下と対象的に、唐突に名前を呼ばれたウィルが困惑しながら僕の隣に立つ。
「それでは殿下、お願いします」
「はい、分かりました。本日、陛下より書状を預かってきたので、代読させていただきます。
『ホークアイ名誉侯爵。
本日のこのめでたい日に出向く事が出来ず、申し訳なく思う。
余の代理として、祝いの品を持たせたルナマリアをそちらに向かわせるので、それを余からの祝いとしてもらいたい。
先の件での褒美として、貴殿の申し出を了承する。
ユウリ=ホークアイ侯爵の従者長ウィリアム。
貴殿をこの書状をもってホークアイ侯爵の義父とし、これが読まれた時より、ウィリアム=ホークアイと名乗る事をここに記す。
以降はホークアイ侯爵家当主の義父兼相談役として、精進せよ』
以上となります」
「わ……私が……ユウリ様の……義父……?」
「はい、陛下からの命令でございます。お断りなどしませんよね?」
「ウィル……いや、義父上。どうか了承もらえないかな?」
「あ……あり……、有り難き、幸せにござい……ます」
「泣かないでよ、僕まで涙が出てきちゃうよ……」
「この度、ユウリ侯爵が陛下に直接お願いして実現しました。ウィリアム様には自分の本当の父親になってほしいと。たとえ血が繋がっていなくても」
「はっ。これからも誠心誠意、ユウリ様とお側に居る事を誓います」
「それじゃあ、今までと一緒じゃん…………」
涙を流しながら、少しズレた決意で僕の義父となる事を了承してくれた義父上に、同じく涙を流しながら突っ込む僕。
幼い頃から父親の様に僕に接してくれた大切な人を血が繋がらなくても家族になってほしくて今回の件に至った。
王国も養子を引き取る事はあっても養父を引き取る事は前代未聞だったので、陛下の判断が下る迄に少し時間が掛かってしまった。
しかし、これで本当に親子となれた。
少し強引だったけど今の義父上を見て、僕の判断はきっと間違っていなかったと思えた。
二人が落ち着いたところで、次の話を切り出す。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。続いてですが、本日秋の五日目で私は十六歳となりました。不思議とめでたい事は重なるもので、もうお一方、本日誕生日を迎える方がこの場にいらっしゃいます」
何も知らない人達は周りを見回して、誰だろう?と考えている。
「その方にもこちらに来てもらいましょう。ディーセス辺境伯家、フラン=ディーセス様!どうぞこちらにお越し下さい」
「えぇっ!?」
予想外の展開だと言わんばかりの声を上げて驚くフランをノイさんが背中を押して、こちらに向かわせる。
ウィルの時と同じく隣に来てもらい、拡声の魔道具を渡す。
「えっと……。いきなりだったので驚きましたが、ユウリ……ホークアイ名誉侯爵と同じ日に誕生日を迎えて十六歳となりました、フラン=ディーセスです」
会場中から拍手が上がる。
拍手が収まり、静かになったところで、今度はルナが話を始める。
「そんなフラン様へユウリ侯爵から誕生日プレゼントがあるそうです」
「え?そうなの……?」
「うん……」
僕は騎士の誓いをした時の様に片膝を着き、頭を下げる。
あの時と違うのは、捧げるのは弓使いでは無い事だ。
頭を上げて話を始める。
「この場ではいつも通りに話させてもらうね。フラン、十六歳誕生日おめでとう」
「ユウリも……おめでとう」
「僕から少し話しがあるんだけど、良いかな?」
「うん、いくらでも聞くよ」
「ありがとう。じゃあ……。えっと……、僕がこの国に来て初めて会った内の一人がフランだった。好奇心旺盛で、貴族らしくない可愛い女の子。それが僕の第一印象。その後、なんやかんやで道中一緒に行動して、アリアでの生活が始まって……。そしていつの間にか【鷹の目】になって【流星】と呼ばれて、今は名誉侯爵になってこんな屋敷に住む事になっちゃった」
「そうだね。私もまさかこんな事になるなんて思ってなかったよ」
「それもこれも、魔獣に襲われてるフランを助けて、攫わられたフランを救出して、フランに仕える騎士になって、フランが偶然居合わせた王都の魔獣戦線で竜種を討伐した。全部フランが関わっている事をきっかけに僕は今この地位に就く事になったんだ。予定では自由に国を巡るつもりだったんだけどね」
「うぅ……。それは……ごめんなさい」
「謝らないで。でも、そのおかげでやっと言う事が出来るようになったんだ。
フラン…………。僕は君が好きだ。僕と結婚を前提に、これからの人生を共に歩んでいってほしい」
「っ……!?」
僕は指輪から一つの箱を取り出して、フランへと掲げる。
フランがそれを受け取り、恐る恐る箱を開けた。
「こ、これは……?」
「僕が生まれ故郷の国を追い出される直前にお義父さんから貰った大切な指輪、異空庫の指輪だよ」
「そんな大切な物、貰えないよ……」
「いや、どうかフランに貰ってほしい。お義父さんもその事は快諾してくれてる」
「わ、私で良いの…………?こんな私で…………」
「君じゃなきゃ駄目なんだ。返事を……貰えるかな…………?」
一斉一代の愛の告白。
加護なんか使わなくても分かるくらいに僕の心臓の鼓動は早くなり、顔は火が出そうな程熱い。
こんな公衆の面前で断られたら不名誉侯爵として語り継がれそうだ。
会場も静まり返っている。
フランの一言をただただ待っているんだろう。
突如、まだかまだかと待ってる僕の手が引かれ立ち上がらされた。
「わ、わた……私も!ユウリが好きっ!大好きっ!」
返事の言葉と共にフランが僕の胸へと飛び込んでくる。
「私も、ユウリが良い……。一生にいたい……。だから、私と結婚してください!」
「何で逆告白になってるの……?でも……喜んでっ!」
フランを強く抱きしめる。
直後に会場が割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
こうして、様々な事を詰め込むに詰め込んだ屋敷の披露会は幕を閉じた。
余談だけど、後々披露会で公開告白した名誉侯爵として、振られなくても面白可笑しく語り継がれてしまい、度々弄られる事を今の僕は知る由も無い。
リア充、爆発しろっ!




