第七十射目
ウィル達が現れてから一夜が明けた。
僕が聞き出した話をノイ様やガルシア団長達に報告して、不沈艦の団員達が、やってきた人々から無作為に選び出して同じく話を聞いていった。
皆知っている情報の差はあれど、大半は同じ理由で賛同し、亡命を決めたという事だ。
「今回の件は私の一存で決める事は難しいね。イース公国が国民を返せと言うなら強制的に送還するしかない。ユウリはどう思う?」
「多分言わないと思います」
「根拠は?」
「加護も職種も下級だからです。ご存知の通りあの国は六属性の加護を極めて重要視しています。今回船でやってきた方々には上級以上は殆どおらず、六属性は下級のみです。強いて言うならウィルとケティはブルーローズ家が返せと言いそうですが」
「そこは君の生家だったね」
「はい、そうです。特にウィルはとても優秀な人材です。ブルーローズにとっては陛下のセバスチャンさんやノイ様のベリックさんと同等の扱いです」
「彼の加護と職種は知っているかな?」
「上級加護《風の妖精の加護》、上級職種《短剣術師》です」
「成る程。両方上級なら有り得るね。もう一人のケティさんとやらはどうなんだい?」
「ケティに関してはどちらも下級ですが、僕の、ユリウスの追放の経緯を知っている人物なのでそれがバレない様にしたいと思います」
「ふむ。とりあえず今、大急ぎで陛下へ確認を取りに向かっているところだから、今日の夜か明日の朝には返事が来ると思うよ」
イース公国の事だから、多分毒にも薬にもならない民草は切り捨てるだろう。
しかし、二人に関しては能力があり、秘密を知り過ぎている。
特にウィルは僕が知らない事も知っているだろうから、どうしてもという時には暗殺も考えられる。
ところで、大急ぎで確認しに行っているのはリックさんだよね、帰還の早さ的に。
最近大忙しだな、あの人。
今度会った時に何か贈り物でもしようかな。
「仮に亡命が認められたとして、ユウリはどうしたい?」
「どうしたいと言われますと?」
「縁のある二人がやってきたんだ。君が引き取るかい?」
「可能なんですか?」
「自分の地位を考えてご覧?多少強引な手が必要になるかもしれないけど、多分あっさり希望は通るよ」
「あ。今回は魔獣戦線に関わるから有事の扱いなんですね」
「そういう事。だから、そのせいでこちらに来た者達は君がどうにでも出来るんだよ。先程言った通り少し強引だけどね」
「……素直に認めてもらえれば、うちに来てもらいましょう」
「使いたがらないね、その短剣」
「昨日使いましたけどね、尋問の時に」
「それは正しい使い方だね」
皆になんと言われても、僕自身の力では無い二つ名や短剣はあまり使いたくない。
必要に迫られれば使うけど、基本はそうならない様に未然に防げればそれが一番だと思っている。
「ところでノイ様。もう一つの話をお聞きしたいのですが……」
「あぁ。君を呼んだのもその話についてだ。ベリックとガルシア以外の皆は下がって良いよ」
ここからが本題。
魔獣戦線を起こした人物達についてだ。
「ガルシア、彼等に聞いた話はまとまっているかい?」
「はっ。ユウリがウィリアム殿から聞いた話を元に、亡命者の中である程度の地位を持っていた者達に、儂が直接話を聞きました。直接的な証拠になる情報は無かったものの、ここ数年明らかにイース公国の物では無い馬車や人物が度々ブルーローズ公爵家を訪れていたと」
「その人物の特定は?」
「そこまでは……。ただ、立ち振舞で貴族かそれに準ずる者、或いはその従者である事は間違いないそうです」
「ウィルが言っていた通り……」
「あぁ。おそらく北の辺境伯、ローリアル家に関わりがある者だろう」
「それでもまだ推測の域は出ない。か……」
「そうなりますな」
「ベリック、何か情報は?」
「申し訳ございません。証拠と呼ばれるものは何も……。ただ、一つ気になる情報を入手しました」
「気になる情報?」
「はい、ローリアル辺境伯家とブルーローズ公爵家が手を結んだと思われる時期と同じ頃から、ローリアル家は定期的に大量の奴隷を購入、その後死亡、或いは行方不明となっております」
「どういう事だ?」
「表向きにはオスリア大森林からの魔獣討伐の際に戦死や調査の際に行方が分からなくなった。とされていますが、真偽は不明です」
「大量の奴隷か……。ユウリとガルシアは何か思い当たる事は無い?」
証拠が揃っておらず、半分は妄想の話になっているが、ウィルが言っていたのが嘘なんて事は無いだろう。
しかし、奴隷の購入か……。
何か忘れている気がする、大切な何かを…………。
「っ!?そうだ!ノイ様、あの軍勢は何処から現れたか、詳しい情報は入りましたか?」
「うん?あれ等が何処からか?確か、情報によると何も無いから突如現れたとその近隣の村から見ていた者たちが証言しているよ」
「突如現れたとしたら考えられるのは……。ノイ様、犯人達は召喚の魔法陣を使ったのかもしれません」
「召喚の魔法陣?そんな失われた魔法が使われていたなんて、実際に有り得るのかい?」
「以前お話した通り、僕はブルーローズ家の屋敷から大森林に転移させられました。あれは転移の魔法陣ですが、それがまだ世に残っているのであれば、召喚の魔法陣があってもおかしくはないと思います」
「もし仮にそうであったとして、それと奴隷がどう関係するんだい?」
「…奴隷の血を……命を使って陣を描き、起動させたとしたら?」
「確かにそれであれば、大量の奴隷を購入してその全てが死亡ないし行方不明なのは辻褄が合う。しかし、儂が知る限りその様なものは見た事も聞いた事も無いぞ」
「……ブルーローズ家です。先程と重複しますが、あの屋敷の地下には転移の魔法陣があります。多分同じ様に召喚の魔法陣の情報もある筈です」
「可能性はあるが確認のしようが無いね……。お相手さんに聞いても知らぬ存ぜぬだろうし」
「ノイ様、お願いがあります」
「何だい?」
「彼を……。ウィルを牢から出してここに連れてきても良いですか?」
「理由を聞いても良いかな?」
「執事長だったウィルは代々の当主以外で唯一、あの転移の魔法陣存在や我が家の表に出せない風習を知らされていました。ならば他にも僕が知らない事を知っている筈です」
「確かにその可能性もあるね。ただ、この地を管理する辺境伯として、逃亡の恐れがある者を牢から出す事は許可出来ない」
「ですが、ノイ様!」
「ただ、私では逆らえない力を君は持っているだろう。先程も言った筈だよ。多少強引な手も必要だって」
ノイ様は分かっていたのだろう。
僕がそれを使いたくないのを。
でも時には必要な事だと、それを使うべき時を見誤るなと教えてくれている。
ついさっき必要に迫られたら使うと考えておきながら、また尻込みをしてしまっていた。
「……分かりました。この短剣を持ってディーセス辺境伯に命ずる。亡命者筆頭、ウィリアムを牢から出し、この場に連れてこい」
「はっ。【流星】の仰せのままに」
ノイ様は陛下に対してと同じく片膝をついて頭を下げる。
同様にガルシア団長とベリックさんもだ。
僕はそのままベリックさんにウィルを連れてくるように命じ、二人にはここに待機してもらっている。
「お待たせしました。亡命者筆頭、ウィリアムを連れて参りました」
「ありがとう。では、ウィリアム。昨日の事も含め、もう一度話を聞かせてほしい」
「はっ。ユウリ様の仰せのままに」
僕は王印付きの短剣を出したまま、改めてウィルから情報を聞き出す。
こうして、魔獣戦線の真相に迫る情報の確認と精査は夜が更けるまで行われた。
あ、あれ?ほのぼの日常書くつもりがずっとシリアスなんだけど?
何で?
因みにですが、ケティはどんな加護・職種を持っているかはまだ分かりませんが、豊満な双丘を持っているのは判明しています。(第二射目より)




