第六十八射目
あれからルナの滞在期間である一週間の間、僕も極力時間を合わせてルナの訓練時間に割いたり、フランも一緒の三人でアリアの街を散策したりした。
途中で第二王女だとバレたりもしたが、元々人に好かれるルナにとっては些細な事だった。
そして、本日はルナが王都に戻る日。
「ユウリ様、フラン。短い時間でしたが、とても有意義な時を過ごせました。今度は御二人が王都に遊びにいらしてください」
「はっ。お喜びいただき、誠に嬉しく思います。王都訪問の際は必ずルナマリア王女殿下にお伝えしてから参ります」
「道中お気をつけて、殿下」
周りに人目がある為、僕らは王女と辺境伯令嬢、伯爵相当の二つ名持ちそれぞれの立場とし手別れの挨拶をする。
「最後にユウリ様。少しお耳を……」
「はい?かしこまりました」
ルナは僕だけを近くに呼び、僕にしか聴こえない様な小さな声でそっと耳打ちをする。
『今は下着で矯正しておりますが、実は私の胸、フランよりも柔らかくて大きいですよ。今度是非お試し下さいね』
「なっ!?」
初日に冗談で言われて流していた爆弾発言をまさかここで投下されるとは……。
予想外過ぎて思わず声を漏らしてしまった。
「今回の滞在期間中、世話になった褒美です。今度お会いできる時を楽しみにしておりますね」
「……私には勿体無きお言葉、誠にありがとうございます。私もお会いできる日を心待ちにしております…………」
ルナは変わらず笑顔だが、先程までと違い、『どうだ!驚いただろ!』とドヤ顔が含まれている。
今度会ったら絶対やり返してやる。
変な意味じゃないからね?
こうして嵐の様に現れて嵐の様に去っていったこの国の第二王女を、見えなくなるまで見送った。
これでまたいつもの日常に戻…………
「ユ・ウ・リ?ルナから何を言われたのかなー?良かったら私にも教えてほしいなー?」
「さぁ?王女様からの秘密のお話だからねー」
「あぁー!ズルいー!」
「じゃあ僕は家に戻るよ、またね!」
「待てー!教えろユウリー!」
フランに問いただされる前に走って自宅に戻る僕。
あんな事誰にも言える訳ない。
……正直、僕も男だから……ね?
そこから更に二週間が経ち、そろそろ夏を迎える時期になる。
そんなある日、クレアとクルトからの相談があった。
「……確かに。クレアとクルトがそっちに専念出来るならその方が良いかもしれないね」
二人の相談とは、
『家に使用人を雇いませんか?』
と言う事だった。
現在は家事を三人で分担しており(分担と言っても僕は料理のみで、それ以外は二人がやってくれる)、三人での回復錠研究や素材回収に出る時間が中々取れない。
また、フランや不沈艦の指導の時間がある時はどちらかが家事をしており、もうどちらかのみで研究となる。
そうすると、確認作業や進めない工程が出てきてしまうので、どうしても作業が捗らない。
そこを少しでも効率良くする為に使用人を雇おうとの話だ。
「勿論、ユウリ様やフラン様の秘密がある以上誰でも雇えれば良いと言う訳ではございません」
「そうだね、そんなに広い家じゃないから、雇うとしても二人位いれば良いと思うけど、希望に合う人間を探すとなると中々に骨が折れそうだね」
「だから奴隷を購入するのは如何でしょう?」
「秘密を厳守出来て、能力があるならそうなるか……」
この姉弟と同じく奴隷の購入が一番有力なのは間違い無い。
僕自身、この国に来てから人と関わりを持っているし、良い人ばかりなので忘れそうになるが、本来はあまり関わりたくないのが本音でもある。
一種のトラウマ的な部分だ。
「じゃあ条件に合うか分からないけど、一度ルーデンスさんの所に行ってみようか。クレアはこの後時間はある?」
「時間はございますが、今からですか?」
「うん、善は急げって言うからね。二人に負担を掛けてた事を気付けなかったのも悪いと思うし」
「そんな事っ!負担ではございません。むしろ、良くしていただいております!」
「それは良かった。早速行こうか、クレア」
「はいっ!」
今日はこれから予定も無いし、フランは辺境伯家に帰っている。
なので、善は急げと奴隷商へ向かうが、街中がどうも騒がしい。
「何よりかあったんですか?」
「あぁ、【鷹の目】様。何やら港に他国の船が着いたみたいで不沈艦の方々が急いで出動してるみたいですよ」
「他国の船?」
ここで言う他国の船は貿易船では無い、別の船だろう。
何の目的かは定かで無いが、僕の加護が発動しないので、危険は無さそうだ。
しかし、少し気になる。
「クレア、少し視てみても良いかな?」
「勿論。奴隷の購入は急ぎてないので、良ければ直接見に行かれますか?ユウリ様なら必要無いと思いますが……」
「そうだね、そこまでしなくて良いよ。ここから事態の把握さえ出来れ…………っ!?」
「どうされました?」
「ごめん、クレア。やっぱり港に行こう。急ぐからちょっと失礼するよ」
「それは構いませんが……。えっ!?きゃあっ!」
クレアにまともな了承を得られぬまま、彼女を両腕に抱え(つまりお姫様抱っこ)して、最短距離を駆け抜けた。
「ガルシア団長!」
「ん?あぁ、ユウリか。どうした?そんなに急いで」
「先程、他国の船が現れてその乗組員を連行しているのを視て、急いできました」
「船と言っても、よくここまで辿り着いたなと驚く様なボロ船だがな」
「その乗組員に会わせてもらえませんか?」
「……理由を聞いても?」
「僕なら彼らがここに来た理由を聞き出す事が出来ます」
「そうか。……誰か、旦那様に今の状況報告と【鷹の目】が不法入国者に会う旨を伝えてくれ。儂が許可した。と一言添えてな」
「はっ!」
若い団員にそう伝え、言われた彼は急いで辺境伯邸に向かう。
「ユウリ、こっちだ。お前なら場所を知っているだろうが、形式上は儂が連れて行く。来い」
ガルシア団長に連れて行かれたのは、刑が執行されるまでの間罪人を閉じ込めておく地下牢だ。
脱獄対策に様々な魔道具でねずみ一匹入り込む隙間が無いほど厳重に守られている。
「ここの一角が船に乗っていた者達だ。護衛はいるか?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「入口にいる。用があれば呼んでくれ」
僕の纏った雰囲気を察して、一人にしてくれた。
ガルシア団長のこういった細かい心遣いが有り難い。
そんな事より、僕は目的の僕がよく知る人物達に会う為に地下牢の奥に向かう。
「久し振りだね……。ウィル、ケティ」
「ユリウス様…………?」
「坊ちゃま……?」
そこにいた二人はブルーローズ公爵家の執事長ウィリアムと僕専属メイドのケティだった。
予期せぬ幼少期の思い出の人物達との再開。
本来は嬉しい筈なのに、何故か僕は何とも言い表せない不安を感じていた。
幼少の頃お世話になった二人と再開したユウリ。
次回から話が動き出す!
事無く、まだシリアス2:日常8で参ります。




