第六十六射目
伝説級加護《大精霊の加護》。
他の加護と違い、魔法属性や錬金等が付いていない。
その為、昔から加護無しと言われている加護でもある。
しかしその実、全くの別物である事が判明した。
他の属性加護は、その属性の【妖精】・【精霊】・【大精霊】から魔力を対価に力を貸してもらい、魔法を行使する。
しかしフランの加護はそれらと直接契約を行い、使役が可能になる。
下級は存在せず、他の加護に合わせると上級以上になる。
昔は沢山いたみたいだが、今ではその存在自体伝説級に匹敵する程珍しい。
「そうだよ。年明けて直ぐに契約出来たんだ!」
「おめでとう……ございます…………」
「何でルナが泣くのー?私まで涙が出てきたー」
ルナは人の為に泣ける優しい子なんだな。
きっとフランが悩んでいるのをずっと側で見ていた分、感動もひとしおなんだろう。
付き合いがとても長い二人。
小さい頃から仲が良かったって聞いたし、僕にはそんな相手はいないから少し羨ましい。
「……なんて言ったらケティが怒るかな?」
「誰?ケティって?」
「うわぁっ!」
感慨に浸っていたら、心配しまフランの顔がめちゃくちゃ近くにあって思わず吃驚してしまった。
「ユウリが気付かないなんて珍しいー。加護は発動しなかったの?」
「普段は使ってないって言ったでしょ?それに勝手に発動する時は何かしら危険な時だからね」
「じゃあ私が近付いても危険じゃないって加護も理解してくれてるんだ。偉いねー」
「ふふ。フラン、学園の時より幼くなりましたね。いや、年相応になったんですかね?」
「ん?どういう事?」
「フランは子どもの頃―――」
「あぁーーー!終わり!この話は終わり!ユウリは女の子の秘密を探らない!ルナも簡単に人の過去を話したりしない!」
「「はーい」」
「本当に分かってるのかな?この二人は」
「ルナ、誰にも聴こえない程度の小声で語ってくれれば僕だけは聴き取れるから」
「あら?じゃあそうしましょうか」
「全っ然分かってないよねー?」
僕とルナでフランを誂う。
フランも口調では怒ったようにしているが、満更でもなさそうだ。
「話が逸れたけど、訓練を始めようか。フラン」
「うん。いつも通りで良い?」
「そのつもり。ただ、ルナがいるからは気を付けてね」
「ルナを?大丈夫だよ」
「そうなの?」
「だってルナは英雄級加護《光の精霊の加護》持ちだよ?それに上級職種《杖術師》だから遠近どちらも中々だよ」
「フラン、私はそこまでではありません」
「またまたー。入学からずっと座学も実技も一位だったくせにー」
「それは皆様がまだ発展途上だったからです。その後も鍛錬を続けてる方々にはもう差を付けられてしまってるでしょう」
「そんな謙遜ばっかりー」
ルナはそんなに強いのか。
でもそれなら安心出来る。
「よし、じゃあやろうか」
「うん、今日も宜しくね」
「こちらこそ。じゃあいくよ。《五感強化・臨戦》」
「お願い!マリン!《水の群槍》」
フランの放った水属性中級魔法《水の群槍》を《臨戦》と、僕がほぼ普段使いしている《練魔術》を使って避ける。
「こうなったら質より量!マリン、《水の雨弓》」
フランは威力より手数を増やす為に、初級魔法に切り替えてきた。
「聞き逃しただけかと思いましたけど……。フラン、貴女……。詠唱破棄まで…………」
そう、フランは詠唱を必要としない。
精霊との契約により本来莫大な年月が掛かる高等技術を契約直後から行使に出来るようになっていた。
更に初級魔法と言えど、精霊の力で威力も中級魔法と遜色無い程まで上がっている。
当たったら普通に死ぬんだよね、これ。
「だいぶ魔力の無駄が無くなってきたね。でもっ!」
避けるのに集中していた意識を切り替えてきた文字通り雨のような弾幕を掻い潜り、フランに近付く。
「今だ!いけっ!」
フランまであとは数歩のところで地面から水の柱が現れる。
魔力を感知した瞬間に後ろに飛び退くが、そちらに意識を割かれて水の雨が僕の肩を掠めた。
「あっ……」
「今当たったよね!?やった!初めてユウリに当てたー」
「おめでとう。でも油断大敵だよ」
「あたっ」
僕に一撃を当てて喜び、攻撃を辞めたフランの目の前まで急接近しておでこを小突く。
「掠った位で喜んだら駄目でしょう?相手を倒した訳じゃないんだから」
「分かってるよ〜……。でも初めて当てたんだよ。どうだった?」
「あの攻撃の合間に無詠唱を使うとは予想出来なかったよ。合格だね」
「ふへへ」
「えっ……と。今フランは何をしたのですか?……?」
「「え?無詠唱魔法だよ?」」
「あれ?可笑しいのは私ですか?」
先程の無詠唱魔法による《水の柱》の発動を見て目を白黒させるルナ。
それに対しての僕とフランは『当たり前だけど?何言ってるの?』との意味を含めて返すが、ルナは困惑している。
「だって無詠唱ですよ?詠唱破棄ですら並々ならぬ努力が必要なのに無詠唱……、しかもあの規模なんて……」
「それは私がマリンと契約してるからね。契約したら詠唱破棄が使えるなら、努力したら無詠唱ぐらい使えるでしょ。ってユウリが言ってた」
「ユウリさん?」
「だってそうでしょ?本来なら一部しか使えない詠唱破棄を直ぐに使えるようになる精霊との契約。それならそこから更に努力を続ければ、無詠唱も必ず使えるようになるのは当たり前だよ」
「……百歩譲って使えるのは良しとしましょう。でも私が言いたいのはそこじゃなく、その習得の早さです。王都からこちらに帰還して、やっと本格的に加護を使った訓練をしているのでしょう?精霊との契約も含めると一ヶ月前後の筈です」
「そうだね、それ位の期間だった」
「では何故!?」
「ルナ、それは僕よりも君が良く知っている筈だよ?フランは加護を授かってから、その強大な力を使いこなせる様ずっと自分なりに訓練を続けてきた。誰にも教えを乞えず、たった独りで。使いこなせるかも分からない、そんな力を」
「あっ……」
「そんな私に色々教えてくれたのがユウリなの。加護の詳細を知らないのにも関わらず、『じゃあ極秘の特訓ですね』と嫌な顔一つせずに。最初の頃は何でこんなのを今更って事ばっかりだったよ?でも、私の加護を伝える事が出来たらその意味が分かった。そこから契約も使役もすんなり出来て今ではほんのちょっとだけど、無詠唱魔法も使えるようになった」
「一般的には基礎を知っただけで次の工程に進んでしまう。基礎を極めようとはしないんだ。だから、本格的な訓練に入る前、フランには文字通り一から基礎を叩き込んだんだよ。極めるまではいかなくても、基礎を固めに固めてから実践的な訓練に入れれば、他の人より最初は遅れていてもその成長速度は他の人の何倍にもなるからね」
「そう……、そうですよね。ずっと頑張ってましたもんね。それを気付く事が出来ないなんて……。ごめん……なさい…………」
「でもルナは私とずっと仲良くしてくれてた。勿論、今も。良ければこれからも仲良くしてほしいな。だから、今の私の成長具合を見てほしかったんだよ。お陰でユウリに勝てた」
「いや、あれで勝ちなの?」
「良いじゃん!今まで私が見てきた中で誰もユウリに攻撃当てた人いなかったから、実質私の勝ち!」
「はいはい」
「も〜!ユウリー!」
「ふふ、あははははっ!」
『自分は何も分かっていなかった』そう言ったルナは涙を流しながらフランには謝っていた。
でも、フランはただ側にいてくれただけで心強いと思っていたのだろう。
今は僕とフランの言い合いを見て、まだ乾いていない涙を拭いながら大声を出して笑うルナ。
『王女様が口を開けて大声で笑うなんてはしたない!』なんて無粋な事を言う人間はここにはいない。
今ここにいる三人だけの秘密だ。
二つ名持ちでも、王女様でも、辺境伯令嬢でも無い。
まだ成人したての子どもが三人いるだけ。
笑って、泣いて、時には怒って。
ここにいる間だけでも、それを邪魔したくない。と心からそう思った。
某王女「―――って事なので、私は天然なんかではございません!」
え?まだ話してたの?
某王女「それは勿論。大切ですから」
……では、前回の続きで質問をしても?
某王女「はい、どうぞ」
じゃあ、気を取り直して。
Q1.詠唱破棄や無詠唱って何で難しいの?
某王女「魔法を行使するには、その魔法のイメージを具体的に固めて、魔力を流す時間を必要とします。詠唱破棄はその過程を飛ばす、無詠唱に関してはその過程が存在しません。他の物で考えると分かり易いでしょうか?例えば家造り。詳しい事は分かりませんが、
普通の詠唱有りの魔法=自分で設計図を思い出しながら材料を用意して組み立てていき、完成
詠唱破棄魔法=組み立てるだけで完成
無詠唱=いきなり完成品が出現
って感じでしょうか?人によって感覚の違いはありますが、概ねその様な感じです。
話が少し逸れましたが、無詠唱は最初から自分の中に必要魔力の量・魔法イメージを完璧に用意して、それを一瞬で行使しなければいけませんから、何となく難しさは分かるでしょうか?詠唱破棄はそれよりも簡単ですけど、それでもイメージは完璧でないと行使出来ませんね。拙い説明ですが、よろしいでしょうか?」
はい、ファンタジー好きの方なら何となく分かると思いますので問題ないと思います、ありがとうございました。
某王女「ふぁんたじー?」
いえ、こちらの話です。
では、教えて!王女様!はこれにて終了になります!




