第四射目
今回、会話が多くて文字が詰まってしまいました。
読み辛くて申し訳ありません。
昼前になる頃、馬車は屋敷に到着し各々身支度をしたら食堂に集まった。
使用人は執事長のウィリアムを除き、全て退出させてしまっているので、和気あいあいと昼食を。という雰囲気ではない。
当たり前だ、僕が《五感超強化》と《弓使い》の加護と職種を授かったせいだ。
重々しい雰囲気の中、父上が口を開いた。
「今日ユリウスが授かった加護と職種については口外することは許さない。勿論、ここにいるウィリアム以外の使用人についても同様だ。」
「しかし父上、ユリウスがこの屋敷に居れば遅かれ早かれ、皆にバレてしまうのではないですか?」
「カリウスの言う通りだ。だから、ユリウス。お前には…………」
「死んでもらう事にした」
重かった雰囲気がより一層重くなるのが分かった。
勘当でもなく、奴隷落ちでもなく、【死】。
父上は迷うこと無くそれを選んだ。いや、神殿で信託を受けてから屋敷に着くまで。
もしかしたら、自分の子を授かり神託の儀を受け、ブルーローズ公爵家に相応しくない神託を受けたら。とずっと前から考えてたのかもしれないし、そう教わってきたのかもしれない。
馬車の中で楽観的に考えていた僕は本当に馬鹿だったのだと痛感した。
よくよく考えれば当たり前だ。
勘当にしろ、奴隷落ちにしろ、僕がどこの誰かなんてすぐに分かってしまうし、それが公爵家の次男となれば噂は瞬く間に拡がってしまい、ただでさえ現在奉公公爵として立場が悪いブルーローズ公爵家にとっては、泣きっ面に蜂だ。
「お父様!流石に死ねというのは言い過ぎではありませんか?勘当するなり、奴隷落ちするなりして、屋敷から追放するだけでも充分ではありませんか?」
「リシリア、お前は馬鹿なのか?追放しただけでは、下等な人間がこの家のに居たことがすぐに分かてしまうだろう」
「お兄様は黙っていて下さい!お父様!職種はともかく加護は伝説級です!これは我が国のみならず、歴史上でも稀有な存在です!」
「確かに伝説級となれば歴史に名を刻む事になるだろう。だが、それがどうした?人より五感が優れていたところでなんの使い道がある?仮にまだ、加護が水魔法系統の上級加護であればまだ良かったが、お前の言った通りユリウスの加護は下級。こればかりは擁護出来ん。」
「しかし……!」
「よくよく考えてみろリシリア。伝説級は先程言った様に歴史上数少ない。だが、記す必要のないものも存在するだろう。ユリウスの様に身体操作系統は一部は使い道があるだろうが、その殆どは伝説級といえど使い道があるとは思えん」
「それでしたら独自で探し出して有用性を証明すれば良いではないですか!そうすれば歴史上類を見ない伝説級の身体操作系統の有用性を発見したとして、父上も歴史に名を残す事が出来ます!それこそ名誉なことではないですか!?」
「もしそれが見つかれば。な。そもそも話は身体操作系統がどうこうの話ではない。我がブルーローズ公爵家に生まれながら水魔法系統ですらないのが問題だ。現にお前とカリウスはしっかりと授かっている」
「それでもっ!」
「しつこいぞ、リシリア!これはブルーローズ公爵家当主、シリウス=ブルーローズとしての決定だ!覆ることは決してない!今後今回の件に対して物言いがあるものはそれ相応の覚悟を持って物申せ!分かったな!」
「…………はい、お父様。出過ぎた真似をして申し訳ございません」
「全く、リシリアは頭は良いくせにこんな事も分からないのかよ。俺とお前の弟がこんな下等生物だと俺たちもなんて言われるか分かったもんじゃない」
「カリウスも、これ以上この件を口に出す事は禁ずる。良いか?」
「分かりましたよ、父上」
「最後に。立ちなさい、ユリウス。この場を解散して以降は、お前はブルーローズ公爵家ではなくなる。家族としての【最後】の会話だ。多少の無礼は許す。何か言いたい事があればこの場で話すと良い」
自分の事なのにまるで他人毎の様に話を聞いていた僕は、父上の呼びかけにすぐ反応出来ずにいた。
慌てて言われたままに立ち上がるが、何も言葉が出てこない。
不思議と恐怖や絶望感はなく、先程も考えていた通り、ただただ自分の考えが甘かったのだと思うばかりだ。
しかし、これが最後の機会だ。
回らない頭をフル回転させて言葉を絞り出す。
「え、えっと……、まずは十年間の短い間でしたが高名なブルーローズ公爵家の次男として生まれ、家族の一員として接していただけたことを大変誇りに思います。それなのにこの様な結果になってしまい、本当に申し訳ありません」
言葉遣いが正しいのか間違ってるのかも分からないまま、言葉を続ける。
「まずは、父上。いつもお忙しいのに、屋敷にいる間は僕の文武の指導をしていて感謝しています。そうは言っても、弓以外はまともに使えず、いつも困らせてばかりでしたが」
「あぁ、そうだな」
「次に母上。産んでくれてありがとうございます。育ててくれてありがとうございます。結果的にはこうなってしまいましたが、母上の子どもとして生を受ける事が出来て、幸せでした」
「こちらこそ、私の子に産まれてきてくれてあ、あり、ありがとう……」
父上はいつも通り冷静ながらも目を伏せながら、母上は途中からまた涙を流しながら答えてくれた。
もう最後なんだ、言いたいことを言おう。
「兄上はいつも何かあればすぐに突っかかってきて、正直子ども相手に何張り合ってるんだろう?と、不思議に思ってましたが、今思えば次期当主としての座を奪われるかもと心配してたのかなとも思います。まぁ、そんな事はありませんでしたが」
「そんな心配、したこともない。俺にとってはお前はただのゴミだ。むしろそこまで思い上がれるお花畑の頭が羨ましい限りだ」
「褒め言葉として受け取っておきますね。そして姉上。いつもこうやって兄上に絡まれているところを助けていただいてましたね。それ以上に、悪巧みに付き合わされて怒られた記憶が多い気もしますが楽しかったです」
「……っ、うっ……う、ん……そう、だったね…………」
兄上は相変わらずだが、始めて僕からの嫌味を言われ苦虫を噛み潰したような表情。
姉上は返事をするのも精一杯なくらい泣いてくれている。
「最後にウィル。使用人を代表してお礼をしておくね。こんな出来損ないの僕の相手をしてくれてありがとう。ケティにも伝えられる時が来たら伝えておいてくれない?」
「畏まりました。その時が来ましたら必ずやお伝え致します。ユリウス坊ちゃま、いつも私達使用人にも優しく接してくれました。お礼を言うのはこちらの方です。本当にありがとうございました」
「だから坊ちゃまは辞めてってケティにも一言ったんだけどなぁ」
「ふふっ。私達使用人にとってはいつまでも坊ちゃまは坊ちゃまですよ」
僕を気遣ってかいつも通りの優しい笑顔で答えてくれたウィル。
忙しくてあまり家にいない父上や数える程しか会ったことのない祖父上の代わりに色んな事を教えてくれた、第二の父上だ。
「父上、ありがとうございました。僕からはもう何も言う事はございません」
「そうか。では解散とする。ウィル」
「はっ」
「ユリウスを【あの部屋】に連れて行け」
「畏まりました。ユリウス坊ちゃま、私共にこちらへ」
「う、うん。では、失礼します」
何か後ろで話し声が話し声が聞こえたが僕には関係なので、気にせずウィルの後を付いていく。
さて、これから僕は一体何処に連れて行かれるのだろうか?
どうせ後は死ぬだけだし、気にするだけ無駄だよね。