第二射目
2023/7/5一部変更
三十分後→準備が出来次第に変更しました。
誕生日当日の朝。
日が昇る前から目は覚めているけど中々起き上がれずにいた。
「んん~。とうとうこの日が来ちゃった……。どうしよう、不安しか無い」
そんな事を考えながらベッドでゴロゴロしながら一大イベントに頭を悩ませていると、コンッコンッ、とノックが聞こえ「失礼致します」と僕付きのメイドであるケティが入ってきた。
「ユリウス様、もうすぐ朝食の準備が終わります」
「分かった、着替えたらすぐ向かうよ。ありがとう」
「いえいえ。では、失礼致します」
そう言って扉を閉めた音を確認し、ベッドから降りて着替える準備をしようとしていると背後から、
「そういえば、本日の朝食は皆様ご一緒でのお食事となります」
「うぇ!?いつの間に!?って、やっぱりそうなるよね?」
「勿論。本日はユリウス様の特別な日ですから」
「特別な日ねぇ……」
「大丈夫ですよ!ユリウス様ならきっと大丈夫です!」
「あ、ありがとう。ケティ」
いつの間にか後ろに立っていたケティに驚いたが、根拠あるはずはないのに何故だが自信満々の大丈夫発言で呆れながらも、屈託のない満面の笑みを向けられて、気恥ずかしくなり顔を背けてしまう。
ケティは僕が五歳の時に父が購入してきた奴隷で、父親の借金を返す為に当時十歳であるにも関わらず、自ら借金返済の為に奴隷になることを申し出たという。
最初の頃はもう一人の姉が出来たと無邪気に喜んでいたが、年齢を重ねると幼かった顔立ちが可愛さを残しながらも大人っぽくなり、身長は小さいながらも出るとこは出て、否が応でも異性として意識をしてしまい、それ以来ふとした時に恥ずかしさで頬を染めてしまったり、目を背けてしまったりしてしまう。
そんな僕の気持ちは見透かされているのか、僕の方に近付いてきて
「ふふふ〜。着替えをお手伝い致しましょうか?ユリウス坊ちゃま?」
「じ、自分でするから大丈夫!それに坊ちゃまはやめてって言ってるでしょ!」
「え〜?私にとっては、まだまだ可愛い弟みたいなもんですよ〜?」
「すぐに抱き付くのも駄目だってばー!」
僕を誂いながら後ろから抱き着くと、年齢にそぐわない豊満な胸が僕の背中に押し当てられる。
可愛い弟と言われるのは悪い気はしないけど、こんな事を恥ずかしげもなくされると異性として見られてないと再認識してしまうのでなんとも複雑な気分だ。
「と、とりあえず、着替えるから早く部屋を出ていってよ!」
「は〜い。ではでは、食堂にてお待ちしております」
パタパタと小走りに扉に向かっていき今度こそ部屋から出て扉を閉めたのを目視で確認した後に着替え始めた。
「父上に母上、兄上と姉上……。普段は皆で揃って食事を摂るのはいつ以来だっけ?」
最後に皆で食卓を囲んだのがいつだったか、考えながらも着替えが終わり、部屋を出ようと扉に向かっているとまたもやノックの音が鳴った。
「はーい……。ち、父上!?どうされたのですか!?」
またケティが呼びに来たのかと軽い気持ちで返事をしながら扉を開けると、そこにいたのは父であるシリウス=ブルーローズだった。
父は三十八歳、やがて四十になるというのに、二十代後半と言われても納得できる若々しい見た目に透き通るような金色々の髪に琥珀色の瞳。
まるで物語の英雄みたいだ。
それに比べて僕は、僕が生まれる前に亡くなった祖母譲りの黒髪に黒目であり、父とは逆に悪役と言われても言い返せない。
「今日はユリウスにとってもブルーローズ家にとっても大切な日だ。偶には食堂までの間だが、親子水入らずで向かおうと思ってな」
「ありがとうございます、父上」
「あぁ。では向かおうか」
「はい」
普段父は奉公貴族の指名で全国各地を飛び回っており、会うこと出来るのは月に一回程度、食卓を共にするとなると年に数回くらいだ。
そんな父と廊下を歩き一家全員揃って食事をするのは記憶の中では初めてだと思う。
特に会話もないまま食堂に到着しメイド達に促されるまま中に入ると、既に他の三人は席についていた。
「遅くなって申し訳ありません」
「良いのよ。今日の主役はユリウスなんだから」
そう言って笑顔出迎えてくれるのは僕の母、カラミア=ブルーローズ。
水色の軽くウェーブがかかった長い髪と髪と同じ水色の瞳を持ち、父に負けず劣らず若々しく、老若男女問わず羨ましと感じるスタイルと美貌の持ち主だ。
「だからと言って、当主である父上と一緒に来るのはどうなのかな?ユリウス」
「カリウス、私が勝手にユリウスの部屋に向かっただけだ。ユリウスに非はない」
「で、ですが父上。家族とはいえ、序列というものが……」
「しつこいぞ。ユリウスには悪くないと言っているだろう」
「ぐっ……。申し訳ありません父上」
僕に食ってかかろうとしたところを父に咎められ、こちらを睨みながらも大人しく席につくのが次期当主であり長男、カリウス=ブルーローズ。
父にの若い頃にそっくりと言われる容姿端麗な美青年だが、何かに付けて僕を目の敵にしてくるので、少し……いや、大分苦手だ。
「お兄様、そんなに狭い器量じゃ当主になんてなれませんよ?」
「なんだと!?お前にそんな事を言われる筋合いはない!」
「ほらまたー。ねー?ユリウスもそう思うよねー?」
「いや、僕に言われても……」
上から目線の兄を適当にあしらいながら、僕を誂って楽しんでいるのは長女、リシリア=ブルーローズ。
母そっくりの見た目で、ウェーブがかったミディアムヘアをポニテールしており、のんびり屋の母とは真逆で活発で好奇心旺盛だ。
胸の大きさだけは誰に似たのだか、かなり寂しくはあるが……。
「ユ〜リ〜ウ〜ス〜?何を考えているのかな〜?」
「い、いや、特に何も」
「本当に〜?」
「はいはい、そろそろお食事を始めましょうか」
「「は〜い」」
パチンッと胸の前で手を叩き、話を遮ってくれた母に感謝しつつ、朝食を摂る。
他愛も無い話をしながら、あっという間に食事の時間は終わり、この後の予定の確認へと移る。
「さて、今日は皆が知っての通りユリウスの十歳の誕生日だ。これから神殿に向かい、神託の儀を受けてもらう。それから私とユリウスはその足で五大公爵の方々への挨拶に行く。では、皆の準備が出来次第出発するので各々準備をしてくれ」
その声で、皆一礼した後各自の部屋に戻り、宮殿へ向かう準備をする。
準備といっても僕が何かをするわけではないので、ササッと身支度を終わらせ門の馬車へと向かう。
「さぁ、覚悟を決めなきゃね!」
そう独り呟きながら、僕は玄関へと向かった。