第十五射目
今回は新しい登場人物からの視点になります。
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〜時間は少し遡る〜
「馬車を守れっ!絶対に触れさせるなっ!」
「副隊長!俺も手伝います!」
「お前は馬が逃げないように宥めていろ!隙があればこの場から離脱するんだ!」
「しかし!」
「我々の使命を忘れるな!命に変えてもお嬢様を守るんだ!」
「……はいっ!」
シンフォニア王国の王都から東に向かい、道中村や町に寄りながら馬車で約一週間程の距離にある、ディーセス領の副都【カノン】。
王都からカノンの街に戻る道中によもや迷彩大蛇に遭遇するとは。
迷彩大蛇は危険度三級の魔獣だ。
全長七メリルの巨体を持つが戦闘力能力自体はもっと高い魔獣も多い。
特出するのはその能力で、迷彩の名の通り、周りの風景を自分の身体に移し、まるで視界から消えたように錯覚させる魔法《色覚迷彩》を使い獲物を襲う為、三級でも上位に位置する魔獣だ。
完全に消えるわけではないが、今回のように不意に遭遇したり、戦闘中いきなり使われると見失ってしまう。
同じ様に《色覚迷彩》を使おうにも、相手は特殊な器官で熱を探知して、正確にこちらを狙ってくる。
「気を抜くなっ!本当に消えているわけじゃない!」
「は、はいっ!」
今回はお忍びに近い移動である為、護衛は御者役を含めて三人おらず、念の為雇っておいた冒険者も迷彩大蛇に遭遇してすぐに逃げ出してしまった。
「水よ、我らを守る防壁を創り給え《水の防壁》」
「防壁を切らすな!張り続けろ!」
「はいっ!」
部下の一人は馬車を守るように常に防壁魔法を張り続けているので、戦えるのは私一人。
普段なら三級程度の魔獣に遅れを取ることはないが、今回は突然の襲来から馬車を守る際に右腕を負傷している。
《槍術師》の私にとっては致命傷に等しい。
せめて相打ちに持っていき、馬車を守り抜くにはどうするか考える。
「こうなったら。聞け!私があいつを引き付ける!その間に馬車を出来るだけ遠くに逃がせ!」
「しかし、それでは副隊長が!」
「これは命令だ!」
そう、これしか無い。
お嬢様を守るためには。
「ソーラ!」
後ろから私を呼ぶ声が聞こえる。
振り返ると馬車の窓から身を乗り出している人物。
守るべきお嬢様の姿が見えた。
「お嬢様!いけません!早く窓を閉めて馬車の中に!」
「ソーラ!貴女も早くこっちに!」
「それは出来ません!そうなれば大蛇は馬車を襲います!」
「じゃあ誰かが来てくれるまで……」
「そんな暇はありません!」
防壁を張り続けている部下も限界が近い、
破られそうになれば張り直しを繰り返して魔力が底を突きかけている。
何より自分が突破されれば馬車が襲われるプレッシャーと戦い続けている精神面が限界に近い。
「良いか!私が走り出したら馬車を出せ!」
「ソーラ!駄目ぇ!」
「副隊長!危ないっ!」
「えっ?」
油断していた。
前方を振り返れば、大きく口を開いた大蛇が目の前にいた。
「ここで終わりか……。呆気ないものだな……」
喰われるのを覚悟したその時、一瞬何かが大蛇の頭を通り抜けた。
我に返り、動きが一瞬鈍った隙にギリギリ躱すと、大蛇はそのまま倒れ込んで動かなくなった。
「副隊長!」
「ソーラ!」
お嬢様と部下が走って寄ってくる。
「良かった……。ソーラ、無茶はしないでよ……」
「お嬢様、それは約束出来ません。我々ほお嬢様を命をかけて守るのが使命なんですから」
「それでも、ソーラが死ぬのは嫌だよ……」
「……かしこまりました。善処します」
「それ絶対無理するやつじゃんか〜」
危機が去っての安堵からか、皆の気が緩んでいる。
「ところで何だったんですかね?こいつ、いきなり倒れましたけど」
「……これを見ろ」
「頭に穴が開いてますね……。矢……かな?」
「矢なんて何処から飛んできたんだ?周りに人なんて……」
「そうなんですよ。ここら辺は遮蔽物なんて無いから、魔法かな?」
「大蛇を貫いた瞬間に魔力は感じなかったから魔法にしては違和感があるな……」
「「う〜ん、分からん」」
「二人共、何かがこちらに近づいてきています!」
私と同じ騎士団の隊員、ロビンと一緒に大蛇の死因を推測していると、御者台の上から新人のリックが声を上げる。
「ロビン、戦闘準備。お嬢様は馬車の中に」
「う、うん……」
さっきは運良く命拾いしたが次はそうはいかないかもしれない。
それでも私は槍を握りしめ、向かってくる何かに視線を向けた。