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第十一射目

 爺ちゃんと出会って、新たにユウリとしての人生を始めてから半年が経ち、だいぶ生活にも慣れてきた。

 生活自体に慣れてきたんだけど……。


「あぁーっ!!全然駄目だーっ!」

 

 僕が何をしているかの話だか、ここに住むようになるので何かしらを手伝うと言っとった時の事。




「食料調達はお前じゃ命がいくつあっても足りないし、魔導具造りはお前には無理だ。家事全般したことは?」

「無いです……」

「だよな。じゃあ出来る事はないな」

「……はい」


 ただ、いずれ狩りの手伝いたいと伝えたら、


「じゃあこれの練習しろ」

「弓?」

「この弓で古代樹に穴を開けられるようになればひとまず合格だ」

「……え?」


 そうして練習の日々が始まったが、結果は最初の通りで穴が開くどころか刺さらず弾かれる状態。

 コツコツやれと言われているが現在完全におんぶに抱っこ。

 何とか家事の手伝いはさせてくれるようになったけども。


 

 

 それから練習と家事の手伝いをひたすら続けていたある日、爺ちゃんが珍しくお酒を飲んでいて昔の話をしてくれた。

 

 元々は北のアルザ帝国で魔導具師をしていたらしい。

 爺ちゃんの師匠はウィルが話していた伝説級《錬金の大精霊の加護》を持ち、僕の魔空庫の指輪(ストレージリング)造ったその人だ。

 指輪を見せた時に何処から手に入れたのかとかを根掘り葉掘り聞かれて、更に吃驚された。

 そして、僕も吃驚した。

 なんと、この指輪を用意してくれた祖母上は爺ちゃんの子どもだった。

 つまりは爺ちゃんは僕の本当に爺ちゃん、正確には曾祖父だった。

 正真正銘血が繋がっている親類関係に、オスリア大森林で出会う事になるなんて夢でも見ているかのようだった。

 爺ちゃんは本当の曾孫と分かってから更に優しく、時に厳しく接してくれるようになって、絆がまた一つ深まった気がした。




 「お?サボりか?」


 現実逃避気味に思い出に浸っていた僕の背後から声が掛った。


「休憩中なだけだよ」

「まぁ、毎日毎日こんだけやってれば充分か。……むしろ異常だ」

「普通にやってるだけなんだけどね」

「お前の普通が世の中の普通だったら、大半の人間はほぼやってない事になる」

「それは言い過ぎでしょ」

「そんな事はない。矢筒から矢を取り出し、番えて、弓を引き絞り、狙いをつけて、放つ。この動作にどれだけ時間がかかると思ってるんだ。それを午前中だけでこの量だ。矢と弓を作るこっちの身になれ」

「そうは言われてもまだ刺さりもしないからちゃんとやらなきゃいけないし……。目標達成の為にやれるだけやるのは当然でしょ」

「それはそうだがやっぱり異常だ」

「そんな異常異常言わなくても」

「俺が剣を振って、それが普通だって言われたらどうする?」

「爺ちゃんとうとうボケたのかって……っいってぇぇぇ!」

「全く、半年でだいぶ可愛げがなくなったな。馬鹿なこと言ってないで飯にするぞ」

「だからって叩かなくてもいいじゃん」

「だったら避けろ」

「無茶言わないでよ」

「ほら、行くぞ」


 爺ちゃんが剣狼を斬った時の剣速は視覚強化していても見えない程だった。

 てっきり英雄級の職種だと思ったらただの《剣使い》で、僕と同じ下級職種だった。

 つまりは、努力次第であの領域まで昇れるんだ!と爺ちゃんに直接伝えたら、「達人への道は登るもんじゃない、ただその道の深淵に落ちるだけだ」ってなんか凄く格好良い事を言っていた。

 でも、こんなに身近に目標となる人がいるのは励みになる。

 そんな爺ちゃんの背中を追って、家の中へ向かった。




 昼食を食べながら、更に訓練の話を続ける。


「加護の方はどうだ?」

「だいぶ使用と解除、制御もそこそこ出来るようになったよ。ただ、視覚強化の複数視点はまだ酔ったりするからそこはまだまだ」

「そればっかりは慣れだな。実践経験を積んだら自ずと出来るだろ」

「実践経験積むまでに出来るようになりたいんだけどなぁ」



 この半年の訓練で《五感超強化》の力をだいぶコントロール出来るようになった。

 聴覚と嗅覚は自分の聴きたいものと匂いを知りたいものだけを拾うことと細かい聞き分け、嗅ぎ分けが出来るようになった。

 視覚に関しては現在の視界に加えて、目に映る範囲内の遠くも近くも複数箇所同時に視ることが出来るようにはなったものの、歩く程度までは良いが走ったり激しく動いたりするとどうしても不安定になってしまう。

 予想外に色々と出来るようになったのは触覚で、初めて発動した時の感覚はそのまま向上してより正確になり、筋肉の動きまで感じられるのでどう動けば最小限で最大の力を出せるかとか最速で動くにはどうすれば良いかが分かるようになってきた。

 触覚の域を超えてる気もするけど、今後もまだまだ色々可能性を探っていくつもり。

 因みに寒さ・暑さ・痛みを遮断出来る事も確認したけど、それらは危険信号だからよっぽどじゃない限り使うなと言われても普段は使っていない。

 味覚に関しては・・・コップの水に塩が何粒入ってるかを感じられる為、料理の味付けだけは多分プロ級だと思うくらいかな?飲食物に入ってる毒とかを見極められそうだけど、今のところ予定はない。



「やっぱり身体操作系とはいえ、伝説級の加護は卑怯なくらいの性能してるな」

「英雄級の加護と下級の職種で化け物みたいな強さをしてる爺ちゃんに言われても」


 出会った次の日に剣狼素材の回収とついでに僕の無くした弓を探しに行ってくれたけど、弓は結局見つからず、その代わりに危険度準一級の魔獣を数体狩ってきた上、その日のうちにそれらの素材で大量の魔導具を造っていた人だ。


「これでも帝国一と言われてたからな。伊達に歳を取っておらん、経験が違う」

「仰る通りで」



 兎にも角にも、このめちゃくちゃ遠くて物凄い高い壁に辿り着ける様にひたすら努力し続けるしかないんだ。

 幸いにも、単純作業を繰り返し続けるのはキツいけど楽しいとも思うタイプだし。

 



「さて、食べ終わったしそろそろ再開しようかなー」

「その前に食器は洗えよ?」

「……はい」

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