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第十射目

 ただひたすらに泣いた後、僕はいつの間にか寝てしまっていた。

 色んな事を喚き散らしていた気もするが、思い出そうと恥ずかしくなってきたので忘れたことにしよう、そうしよう。

 ベッドから立ち上がりカーテンを開け、窓の外を見ると……、まだ薄暗いから外の様子分からないじゃん……。

 

「ユリウス!起き……てるな」

「いきなり入って来ないでくださいよ!ビックリしたじゃないですか!」

「ここは儂の家だぞ、勝手にして何が悪い」

「……仰る通りです」


遠慮なく豪快に扉を開けて僕の命の恩人が入ってきたが、正直心臓に悪いからやめてほしい。


「朝飯が出来たから食うぞ」

「え?僕も良いんですか?」

「話を聞くに昨日の朝からまともに食ってないんだろ?腹減ってないのか?」


 翌々考えて見ると昨日の朝食後、この森で干し肉を齧って以来水くらいしか口にしていない。

 それらも全部森の栄養にしちゃったし……。


「でも、良いんですか?助けてもらった上にご飯まで……」

「子どもが一々そんな事気にするな。子どもは食べて、騒いで、寝る。じゃないと大きくなれないぞ?」

「ふふっ。ありがとうございます」

「じゃあさっさと来い」


 話し方は乱暴だが、根は凄く優しい人なんだろうな。

 

 朝食はパンと肉や野菜が入ったスープと果実水。

 貴族の頃と比べると質素であるが、素材の旨味が違うし鮮度が良い。

 何より違うのが……。


「パンがふわふわで甘い……」

「そりゃ蜂蜜が入ってるからな」

「蜂蜜!?そんな高い物を使って良いんですか?」

「値段はもう忘れたが、ここではタダで採れるからな」


 「ガハハッ」とそう言ってまた豪快に笑う。

 他にも料理に関して質問すると、嬉しそうに笑いながら全部答えてくれる。

 家族団欒ってこんな感じなのかな?手を止めて、身振り手振りを交えて話しても叱られることなく、こっちを見てしっかり話を聞いてくれる。

 こんな人がお祖父さんならどんなに嬉しかったか


「あ」

「いきなりどうした?」

「名前をまだ聞いてない……」

「ガハハッ!今更かよ?」

「すみません。昨日はもうそんな余裕なくて……」

「別に怒ってる訳じゃない。しかし困ったなぁ」

「困った?」

「国を出て、ここに住むと決めた時にもう昔の名前は捨てたんだ。ここなら名前なんぞ要らないからな」

「確かに。人が来るなんて有り得ないですもんね」

「そんな中お前はここに居るがな」


 お互いに顔を見て笑い合う。

 「好きに呼べ」と言われたので、「爺ちゃん」と呼ばせてもらうと言うと、目を丸くされたので嫌だったかと尋ねると、


「嫌なわけじゃない。ただ、この年になって子どもが……いや、歳的には孫が出来ると思ってもみなかったから少し吃驚しただけだ。あと、孫になるつもりならその子どもらしくない敬語もやめろ」

「分かりま……分かった」

「よしっ!」


 大きなゴツゴツした手で頭をガシガシと撫でられる。

 若干雑な気もするが、とても心地良い。


「それともう一つ。お前が嫌じゃなければだが……」

「何?」

「この森に来て魔獣に襲われた時、お前は一度死んだようなもんだ」


 確かにそうだった。

 もし爺ちゃんが来てくれなかったら確実に死んでいただろう。


「そう、【ユリウス】は死んだんだ。だから今日から別の名前を名乗ったらどうだ?それで新しい人生を楽しもうじゃないか。どうだ?」


 ブルーローズ公爵家のユリウス=ブルーローズは死んだ。

 そして今日から新しい自分として生きていく。良い考えかもしれない。

 向こうは僕が生きていると困るし、僕も生きている子どもがバレたら今度こそ命を狙われてしまうかもしれない。

 それならいっその事、違う人間になれば良い。


「あ、でも黒髪黒目が珍しいから結局バレちゃいそう……」

「そんなもん、珍しいが全く居ない訳じゃないんだ、どうとでもなる。もし気になるなら髪でも伸ばすか?」

「それも良いかも。あとは今すぐ街に出ると服装は違ってもバレちゃうかもだし、成人するくらいまでは何処かに隠れて生活するしかないかな。爺ちゃん何処か良い場所知らない?」

「何を言ってるんだ?ここに住めば良いだろ?」

「え?良いの?」

「拾ったもんは最後まで面倒見ないとな」

「いやいや、犬や猫じゃないんだから」

「犬猫の方が変な事情なくて楽なくらいだ」

「確かに、それはそうかも」


 また二人で笑う。

 こんなに人との会話がこんなに楽しいなんて知らなかった。


 それにしても名前か……。

 当たり前だけど、長年呼ばれている名前以外は検討もつかない。


「爺ちゃん、僕の名前つけてよ」

「儂がか?自分で考えろよ、それくらい」

「だって、孫に名前をつける場合もあるでしょ?だからだよ」

「そうきたか。んー……、そうだ!【ユウリ】はどうだ!?元の名前と違いすぎると違和感があるだろうが、同じ音を使えばそれを無くせるだろう?」

「ユウリ……か。そっか」

「何だ?気に入らないか?」

「ううん、凄く良い名前だよ。今日から僕はユウリなんだなぁって思っただけ」

「やっぱり元の名前に未練があるか?」

「未練というより少しだけ寂しいのかな?よく分からないや。でも僕は今日からユウリ、ただのユウリだ!」

「おう、ユウリ!これから宜しくな!」




 今日の今、この時から僕はユウリとしての人生を歩み始める事になる。

 ユリウスとして、認めてもらいたい気持ちも無くはない。

 だけどそれ以上にこれからの生活が楽しみだ。

 どうせ死ぬ予定だったんだ。

 楽しまなきゃ損だよねっ!

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