第一射目
僕の生まれた国【イース公国】は他国とは違い王が存在せず、【五大公爵】と呼ばれる貴族によって統治されている。
基本四属性を司る
炎の【レッドローズ】
水の【ブルーローズ】
風の【グリーンローズ】
地の【イエローローズ】
に加え、
光の【ホワイトローズ】
闇の【ブラックローズ】
がある。
この六家は十年に一度五大公爵の地位を掛け、現在五大公爵でない家の当主が選定した代表者と指名された他家の代表者との一対一で決闘を行い、その戦いを制した家がその後十年間の間、五大公爵に加わることになる。
その際に負けたもう一方は五大公爵の地位を外され、最低限の地位や発言権は有しつつも、他の公爵家を支える役割を担う【奉公公爵】として陰ながら国を支えている……。と言えば聞こえは良いが、実際の扱いは更に酷いもので、一部では奴隷公爵とまで呼ばれる始末。
現在、奉公公爵に位置するのが父を当主とするブルーローズ家であり、この僕ユリウス=ブルーローズの生家。
先代の当主であった祖父が前回の決闘の際に次期当主、父の兄であり僕の叔父を代表として選び地位を守ろうと意気揚々と決闘に望むも、結果は敗北。
叔父は奉公公爵の家の当主なぞやってられるかと次期当主の座を自ら辞し、祖父も自身が長年の間五大公爵家であった栄光が捨てきれず、建国以来、ブルーローズ家が奉公公爵になった事がなく、その期間当主をしているのは恥だと当主の座を父に譲り、奉公公爵としての責任を逃れている。
普段は助言も援助も一切行わないにも関わらず、来年行われる決闘に対しては「今年こそ負けは許されない」「再び五大公爵へと返り咲くのが当主の使命だ」等などと自分達のことは棚に上げてあれこれ口を出してくる始末。
そんな重圧がかかる父の矛先は僕らに向けられ、物心付く前から武術を文字通り血反吐を吐くまで訓練させられ、一般教養や政治等多岐にわたる勉強も妥協なくやらされ続けている。
因みに父には僕を含めた三人の子どもがいる。
今年十八歳になった次期当主であり、武術と魔法の才は十歳の頃から大人顔負けの実力を見せる神童と呼ばれ、今では【最優】と呼ばれる長男。
女である為、当主にはなれないが、成人(この世界では十五歳で成人を迎える)を迎える前から内務においての手腕を惜しみなく発揮し、【美才女】という言葉がピッタリな長女。
そんな二人の弟として生まれた僕は、二人程の秀でた才能はなく、強いて言うなら弓の扱いだけが兄には劣るものの幼少期から大人に勝るとも劣らない才能があり、ただひたすら一つのことを飽きもせず、地道に延々と続ける事が出来る才能?がある程度。現在九歳で、明日とうとう十歳の誕生日を迎える。
この世界での十歳は成人以上に特別な意味を持つ。
十歳の誕生日の日にはそれぞれの国や地域にある教会もしくは神殿で、女神ミリアムよる【神託の儀】を受け、それぞれに《加護》と《職種》を授かる。
加護と職種はそれぞれ
《下級》八割の人族はこれに該当する
《上級》下級の上位互換で強力
《英雄級》世界的にも数が少ない
《伝説級》歴史上でも数える程しかいない
の4つが存在し、上位になればなるほど希少で強力になる。
どんな加護と職種を授かるかによって、今後の人生が変わると言っても過言ではない。
他の国ではもしかしたらどんなものを授かっても大丈夫なのかもしれないが、少なくともイース公国、更には我が家にとって神託の内容は今後の進退に関わる死活問題となってくる。
ブルーローズ家としては来年の決闘で勝利を収め、五大公爵に返り咲かなければ、また十年もの間奉公公爵となり、他家の言いなりにならなければならない。
特に兄上は五大公爵から奉公公爵への転換期を覚えているので、僕ら兄弟の中で最も五大公爵へのこだわりを見せている。
反対に物心付く前から今の状態の僕にとっては、父と母が大変そうだなとは感じつつも、それ以上の感情を抱いたことがない。
因みに姉上その事について話すことがないのでよくわからない。
話を戻すと、まず前提として僕達ブルーローズ家は水魔法を司る家であるため、水魔法関連の加護で最低でもレア以上が求められる。
婚約相手を探す際もブルーローズ家の一員となるのであれば、男女問わず水魔法の加護が必要となる。
勿論、父上も母上も英雄級の《水の精霊の加護》をもつ。
そんな二人から生まれた兄上は英雄級加護《水の精霊の加護》、姉は上級加護《水の妖精の加護》授かっている。
更に職種に至っては二人共英雄級で、兄上は《槍王》、姉上は《治癒王》。
必然的に僕には両方が英雄級か少なくとも片方は英雄を求められていた
正直、そんな才能がある気がしないので考えるだけで胃が痛くなってくる。
次期当主の座は兄であることが有力視されているが、当主でなくともブルーローズ家の者として恥ずかしくない加護と職種でないといけない。
そうでもなければ家名に泥を塗ることになるからだ。
全く別の加護を持つ者が生まれることは無いと聞かされているので、そこだけは安心しているが、下級となればどの様な扱いをされるか分からない。
「明日が来れば全てが分かる。もしかしたら、もう二度とこのベッドで寝れなくなるかもしれない……ってそんなわけないか。よし、明日に備えて寝よう」
そう呟きながら、僕は眠りについた。
自分の運命が大きく思いもよらぬ方向に変わっていくとも知らずに。