【二】
聖女は、その身に宿した力の大きさ故に短命であった。
今国に在る女神は、十四歳の少女である。
四十に届かぬ若さで死んだ母に変わり、少女はその女神の化身たる力で国を守る。
だが――。
少女に守護を託された十一の歳を迎えたそのときから、国には徐々に異変の兆候が表れ始めていた。
国土が赤の死に呑まれ始めていたのだ。
土色の健全が、徐々に、年数センチという僅かをもって、犯され始めたのだ。
そしてそれは地球儀の一転、時を経ると共に、数センチ、また数センチと浸食の禍を増していき、状況は悪化の一途を辿っていた。
人々は聖女に辛辣な視線を向けた。
それまで必ず青色の髪と共にあった聖女の歴史において、唯一赤色の髪を持って生まれたという特異もあり――多くが少女を災禍の諸悪と断じ、苛烈な糾弾を向けた。恐れを怒りへ変え、憤怒の向かう矛先を欲した者共が作り出す嵐のような混迷の中、聖女へ尊い慮りを向ける者は僅かである。
糾弾は年々苛烈を増してゆく。
国土の僅かな減少速度と共に。人々の恐怖と怒りの声は高まり続ける。
やがて聖女への糾弾は、迫害のような侮辱へと形を変える。
交わる存在を間違えたのだ。
故に汚された。あれ自身も――きっとあれの母も。
想像するに、あれ自身のそれに間違いがあった。
そう――あの聖女は汚された存在なのだ。
――母さえ侮辱の対象となり、自身もまた、役割であると強要されたその行為を指差され、陥れられる。
もちろん、そのような声ばかりではない。
それが全てではない。
だが、国中のどこからか湧き出る、わんと響くような悪意の渦巻きを聴いた少女が、どう思いか。
――凌辱を恥辱的に馬鹿にする声が、他ならぬ政《まつりごと》を指揮する者共から発せられたものであったならば――少女はいったい何を思うか。
政を指揮する者共は、事あるごとに少女へ、聞く者の心を殺す言葉を向けた。
唯一の聖女へ。
早く子を孕ませ、次代の聖女へ繋げなくては。
そのようなことも、慮りもなく、聖女の元へすら響く声に乗せた。
――もし、外側からこの世界を視る者がいるとすれば、その愚かに不自然さえ抱くかもしれない。
しかし彼等は、疑うこともせず――疑うことを放棄したように、そのような悪意の発露を際限なく、渦巻かせた。
まるで思考などどこにも無いように。
まるで、それが自然であるかのように。
怒号の他には、他に同調するような中身のない意見や、他へ同調を促すような無意味極まる稚拙ばかりで――。
……その渦の中、祈る者は、僅かだった。
――少女が国を去ったのは、なんでもないある日の事であった。
どうやって厳重に閉じられ保護されていたそこから去ったのかは、誰にも分からない。
確かなのは、国土の外は死が塗りたくられた地であるはずなのに、彼女はもはや土色の土地のどこにも存在せず、人は聖女を失ったということだけだ。
全てを動員した決死の捜索も、無意味なものとして終わってしまったのだから。