其れは、悲しみの、始まり。8.5
読み直していたら抜け作してたことに気づいた巨峰さん(_・ω・)_ヤラカシィ
実質ナンバリング話なんだけど、.5にしちゃうんだぜ(_−ω−)_
「……ん?」
いつの間に目を閉じていたのか。いや、むしろ目蓋を開けてから自分が目を閉じていたことに気付く。
その眼前に広がるのは一面の青。遥か遠くを地平線をなぞるように、横に一筋滲む白線が走るのが、それ以外は完全に青の世界。
少なくとも、俺が潜っていた泉の中ではない。
「んだ、こりゃ……あ?」
自然と吐いた言葉に自身で驚く。泉の中ではないと知覚してはいたが、普通に呼吸が出来る事実にさらに困惑を抱いてしまう。
手足は自由に動く。しかし浮遊感というか、地を踏みしめる感覚も無ければ水を掻く感覚もない。ただその場で動作することが出来ているだけで、進むにせよ戻るにせよ、その場から動いた感覚が一切無い。何なら上下の正否すら定かではない。
「ほほぅ。周陽でも進めないとなると、ボクの筋力が足りないわけではないんだね」
「にゃに?」
上から降ってくる聞き慣れた声に見上げると、そこには想像した通りの少年の、城牙の姿があった。ただし彼もまた見上げるように上を向く姿で、だが。
「……どういう状況?」
「わかんなーい」
尋ねた相手とはまた異なる方から聞き慣れた声が聞こえる。その場での反転振り返りは出来たので振り返ると、丁度俺とは対角線を築くような横向きの体制で、腰に手を当て胸を張る雪奈を視界に捉えた。寝そべっているにしては肩幅に開いた足が立ち姿を連想させることから、頭がそれを否定している。
思わず首を右に90度傾けて雪奈に視線を合わせていると、あっ、と何かに気付いたような声をあげる。
「しゅーひ、ちなみに全身脱力するとねー。回転出来るよ」
言いながら雪奈がだらんと腕を垂らすと、徐々にだが臍を支点に右回りに回転し始める。追いかけるように首を傾けていたが、自分は回転出来ていないので左肩から首に掛けてのスジが痛くなって反射的に顔の位置を元に戻した。
「で、力を入れるとー、ピタッとな!」
身体を捻りつつ腕を絞り上げるように掴むポージング。いわゆるサイドチェストを決めた雪奈。なんでそれ選んだん、チミ。
ただその止まった雪奈を見てやはりおかしいと首を傾げる。回転した雪奈の頭は俺に対して120度から130度の位置にある。つまり一見逆さまに立っているような体勢になっていた。
しかし彼女の裾の長い服は重力に引っ張られることなく、まるで自然にそうあるべきと彼女の膝の下まで隠していた。
「城牙、見解を述べよ」
「不思議」
「んー、百点……っ!?」
求めていた答えではないが俺の気持ちの代弁としては正解ではある。そう思って頷いていると耳の奥が一度キィィンと耳鳴りのような音が響いた。
「にぅ!?」
「いぎっ!?」
半拍遅れて雪奈、城牙も顔を顰めて耳を覆う。不快な感覚に自然と舌を打って周囲への警戒を高めると、それを察したような声が頭に響いてきた。
『あーっと、すまないすまない。周波数合わせ直してたらノイズ出たわ』
聞き慣れないが覚えがある声は、この訳のわからない空間に来る前に頭に響いてきたモノと同じである。ただしあの時よりは反響は抑えられ、不快感はそれほどなかった。
『改めまして、ようこそ時空の狭間へ』
軽薄な声色は明らかに作ったモノだとわかるが、おちょくるというよりは敵対心の無いことを伝えようとする意図を感じる。
ふと他二人を見ると、城牙も雪奈も聞こえているらしく、姿形見えない声の主に警戒しながらも傾聴していた。
「……城牙、頼んで良いか?」
俺がそう呟くと城牙も一つ頷く。主語はないが言わんとすることは理解している。……というか、俺たち三人の役割みたいなもので、交渉や頭脳戦は彼にお任せするのが一番手っ取り早い。
『ん、そこの青年が代表じゃないのか?』
「まぁな、話があるならそこの城牙と宜しく」
腕を組んでもたれ掛かるように重心を後ろに預けた俺を見……てんのかな?まぁ態度から交渉から外れたのを察したのか、声の主は疑問を口にする。てか、何も無いのに背が何かに触れるような感覚を覚えて、ラクにもたれ掛かれているのは何気に不思議だ。
『ほーん、んじゃまぁ、城牙くん?よろしく』
「よろしく。こちらは貴方を何とお呼びすれば?」
『あ、こっちはシオ……』
他愛もない挨拶を交わす途中でピタリと言葉が止まる。こちらは三人して『ん?』と首を傾げると、声の主はコホンと一つ咳払いをした。
『シオ、しお……塩が大好きな時空の管理者だ。名は特にはない』
「絶対嘘だろ」
「では管理者殿とでも」
「塩分過多は気をつけて?」
思わず三者三様の反応を返す。一番大人な対応をしたのが一番年下の城牙であったのが、俺たち三人組の理性を担当している理由を如実に語っていた。
「では管理者殿。まずは状況の説明とボクたちをここへ招待した理由を教えて貰いたい」
『あ、はい。んじゃまずここについてだけど……』
俺や雪奈の反応に文句をつけようとでもしたところを、城牙に話を続けられて戸惑いを見せながら説明に入る管理者。完全に会話の主導権は城牙が握ることとなる。