復讐者の逃亡劇 20
シルタンス国領・カミューの森
ーーー時は少し遡る。
矢の補充に合わせ、短期で終わるまいと見越したカミュンが荷を纏めて出立した頃には、森も茜色に染まりつつあった。正直、彼女には道案内さえ頼めればそれで良かったのだが、俺たち……というよりフィンアスの身が心配で付き合う流れになっていた。
実際一射しか見ていないが彼女の弓の腕は俺よりも明らかに上だし、非戦闘員が城牙にフィンアスに……ヴィルナークはどっちだ?まぁ計算出来る戦闘員が増えるのは、戦場に向かう上で助かる話だ。
颯爽と森の中を走る月魄狐の後ろを雪奈の手綱捌きで苦心することなく馬が付いて走り、やや遅れてヴィルナークが手繰る馬が追う。
雪奈の馬術は異常だが、ヴィルナークの腕もこの手入れされてない木々の間を支えることなく馬を操れる辺り、大したものだと素人目には思う。
「……剣戟の音?近いみたい」
「…………?」
雪奈が全員に聞こえるように声を張り上げると、二馬身は先を走るカミュンも耳を澄まして音を探り、その上で小首を傾げる。聞こえなかったからの態度だと思うが、ご安心いただきたい。雪奈以外はさっぱり聞こえてないし、聞こえてないのが普通だ。
「はれ?……シーザさんの声も聞こえるかも」
「お、そりゃご都合が宜しいな」
馬の揺れにも馴れた俺は、雪奈と背中合わせに馬の背に座り片胡座をかいてその言葉を聞き頷く。
城牙の提案では出来るだけ早くエベリス隊の将軍に目通りして、スターリン・クラドルとの会見の場を設けよう、って算段だった。中でもシーザは一番気心知れてる相手であるし、それなりに地位も高いから割と話が早そうだ。
よしんば戦争中であったなら援護の形で助力して恩を売るのもアリだよね。とは城牙の意見であるが、剣戟の音もするというならその腹案を選ぶのも良いだろう。
「このまま真っ直ぐ西?それとも少し南下する?」
探れども音を聞き取れないカミュンが雪奈に尋ねる。
「うん。むしろ西よりも南に進路取った方が良いかも」
「了解。……コルン」
雪奈の返事にカミュンが頷けば、彼女が声をかけるのとほぼ同じくして進路を変えるコルン。人語完璧に理解してるな。賢いわ。
コルンの動きを見て雪奈も馬をそちらに向けて走らせる。何か簡単にやってるけど、多分そんな容易い操作じゃないんだろう。実際ヴィルナークは「ちょっ、ここででやんすか!?」などと困ったように叫んでたし。
「……聞こえた!」
ようやく雪奈の聴力に頼らなくても聞こえる剣戟の音に声を張り上げたのはフィンアス少年。答えることはないが、カミュンも真っ直ぐ音の方を見据える。
「赤旗……金糸の狼の描かれた旗が見えるね」
「金狼の紋……破狼軍でやんすか!?」
雪奈が視覚情報を呟けば、馬を走らせるのに四苦八苦していたヴィルナークが驚く……というより嫌がるように声をあげる。何事かと口に出す前に、彼は俺たちに告げるように語りだす。
「破狼軍はカキュラム十臣軍の中でも機動力に特化した軍で、全軍騎馬隊で構成されてるでやんす。下手に関わって追い回されるのは正直御免でやんすよ」
げんなりと苦々しい表情とともに不快感を表すヴィルナーク。自身の馬術の程度を鑑みた上での反応のようだが、なるほど確かに。各位二人乗りの体勢である俺たちが機動力を誇る相手にぶつかるのはあまり上手くはないか。
「このまま合流するより少し離れて様子を見るほうが良いか?」
「…………そんなこと言ってる場合でも無さそうよ」
速度を緩めたコルンが下がってきて並走する形になるのと共にカミュンが答える。彼女の発言の意図は尋ねるより早く状況が語りだす。
全軍騎馬隊で組んでいるというヴィルナークの話を是とすれば、すり鉢状の窪地にあるカミューの森へと逃げ延びてくる歩兵たちはシルタンス国軍なのだろう。算を乱して崩れた部隊は檄声轟けど留まることは無く、まるで砂時計を逆さまに傾けたように一つの流れを産んで坂を降ってくる。
「シルタンス国軍って、弱い?」
「……重装歩兵、重装騎兵という大陸一の装備を備えた部隊は持ってやすが、反面兵の強度は推して知るべし、でやんすかね」
常歩まで速度を落とした俺たちに追いついたヴィルナークの私見に、ふーん、と呟き顎を親指の腹で擦り掻く。ある意味、この下り坂を一線としての戦いだったのだろう。崩壊した部隊は耐えることなく散り散りに追い散らされている。
「……基本騎兵は敵で良さそうかな?カミュンさん、ここから撃てたりする?」
「呼び捨てで良いわよ。……射線が通ってる位置にさえ入ってくれれば」
言葉はそこで切れども、可能だと答える辺り素晴らしい射手である。俺?障害物当てないように気にした結果、逆に狙ったのかレベルでそれに当てる未来なら見えてる。
スッと箙から矢を一本抜き弓に番えると、ゆっくりと、それでいて佇まいに美麗さを感じさせながら弦を引き絞ったカミュンは、フッと細く短く息を吐くと共に矢を放つ。
風切り音をあげて放たれる矢は木々の間を何でもないかのように飛び、逃げ惑う歩兵を追撃していた騎兵の一人の首を、横から一閃貫いた。
騎手が絶命したことを知らぬ馬はしばらく駆けるが、揺れに耐えられなくなった骸が崩れ落ちれば、数歩進んで立ち止まる。追われていた歩兵もそんな馬の動きを見て戸惑うように立ち止まる。たった一矢。だがそれがどこから放たれたモノかわからないが故にザワつく。
騒ぎを見ている内に第二射。ヒュンッと空気を裂く音が響いたと思えば騎兵の露出した肌を射抜く。警戒よりも戸惑いを見せていた騎兵は、憐れ物言わぬ骸へと成り下がる。……というか。
「二発目、何か変な飛び方しなかったか?」
鋭く真っ直ぐ敵を貫いた一射目とは違い、やや弧を描くように飛んでいったように見えたが、気のせいか?
「ん。矢羽を抜いて少し動かした」
そう言って人差し指と中指で挟んだ小さな羽を見せるカミュン。矢の制動を整えるための羽をあえて千切り、不規則な動きを意図的に生みながら放ったということか。……は?んなもん普通飛ばんし。飛んでもどこに当たるかわからんくなるし。矢の軌道が見えても射線見えんでしょ、それ。……いや違う。もしかしなくても、弧を描いて射抜ける射線が見えたから羽を必要な分抜いた?
自問した解答が理解の範疇を超えた結論を叩き出した故の思考の停止。それでも特に何のことはないと続けて矢を放つカミュンの横顔を、ドン引きの面持ちで見つめていると、雪奈が「あ」と呆然と呟く。
それで我に返り、反射的に雪奈の視線の先を辿ると、何発目とも知らないカミュンの矢が鋭く飛来する先に居た、紅い装束が目立つ見覚えある騎兵を見咎める。
「シーザ!?」
破狼軍兵と違い兜も被らず赤い馬に跨がる男の名を叫ぶ。今までの破狼軍兵と同じように貫くと思われたその矢は、彼の無防備な頭に当たる既のところ。しかしその矢が刺さることはなく、彼は見向きもしないまま左手でパシッと矢を掴んで止める。あまりにも自然な振る舞いで矢を掴むもので、見ていた俺や雪奈はもちろん、撃ったカミュンですら何事かと呆然とする。だが、こちらの反応がどうであろうがシーザには関係なく。俺の叫んだ声も距離を思えば当然届いていない以上、彼からしたらこの矢の出所には自分を狙った不埒者が居ると理解するも致し方なし。
ピンッと指で弾くように掴んだ矢を自身の眼の前で空に回すように一度投げれば、身体を捻りながら彼の利き腕であろう右手で矢羽を掴むと同時に、こちらに向かって投げつけてきた。
「のひょおぉぉっ!?」
カミュンの放った時より速く飛んできた矢は、俺たちのいずれに当たることなく彼方へと通り過ぎていったが、この鬱蒼とした森の中矢を投げつけて、射線通して来るのはもうイカれてんのよ。ヴィルナークなんかすげぇ声あげて……いや、今の城牙か。
「オラァ!!!!隠れてるヤツ出てこいやぁッ!!!!」
良く通る声というよりはただただ煩いがなり声で俺たちに声を掛けるシーザ。多少視線に動きがあるのは俺たちの正確な位置を定め切れていないのだろう。さっきのも矢が飛んできた方に投げ返しただけだ。投擲用手槍でも無いのにあの勢いで投げれるとか器用なことだ。
「殺る?」
「いや殺らない。つぅかあれ、知り合いなんよ。……雪奈」
「あーい」
騎兵は全部敵の認識があったのだろうカミュンの言葉を否定して、雪奈に前進して貰うように頼む。彼女の手綱に従いパカラ、パカラと蹄鉄を鳴らしながら茂みを行く。こちらは蹄鉄の音が聞こえているが、向こうは茂みを踏み締めるガサガサという音が聞こえていることだろう。シーザこそ平然と音の元である俺たちの方を睨みつけているが、周囲の歩兵は手にした武器を構えて警戒の色を濃くする。
「すまない、手違いで狙ってしまった」
数人弓を構えているのも視認出来たことから姿を見せ切る前に声を掛けてやると、シーザの先までの殺意増し増しの視線は口がへの字を作るのと同時に雲散する。
ゆっくりと森から出て姿を見せると、その懐疑的な表情から一変。あんぐりと一つ間抜けに口を開いて一拍置けば、腹から湧き上がって来るような感情を呵々大笑と顕わにするシーザ。
「だっはっはっ!んーでそんなとこから出てくんのよ、オメェらはよぉ!?」
「色々あったんよ、こっちも」
姿を見せた相手を知るシーザは高笑うが、知らぬ兵士諸君は彼の反応に戸惑いを見せる。そして戦場あるまじき笑い声を聞きつけたのか、他にまた一騎駆けてくる。
「シーザ、誰だそいつ……ッ!!」
当然の疑問を口にしつつ駒を寄せてきた褐色肌の初老の男は、質問を言い切る前に自分の頭を目掛けて飛んで来た矢を伏せて躱す。完全に視覚情報は無かっただろうに、危機感知能力高いな。というか……。
「カミュン、ステイッ!!この人もシルタンス国側!……多分」
俺の声が聞こえたかどうか。とりあえず追撃が来なかったので静止はしてくれたようだ。
「あ、それ周陽くんがやってたんじゃないん?」
「流石にその技量はないなぁ。そちらの人は大丈夫?」
「……肝が冷えたわ。さっきから破狼軍のクソガキ共が撃たれてるの見てなかったら食らってたな」
馬の鬣に突っ伏しながら答えていたワイルドダンディがゆっくりと身体を起こすと、チラリとカミュンたちのいる方を見遣る。
「諸君らはアレか?火事場泥棒的な落人狩りか?」
「いえ。シーザ将軍に救われた一村民です」
「ルークスさん、そいつは周陽くん。馬を乗りこなしてるのが雪奈ちゃん。姿が見えないところを見るに弓を使ってたのが城牙く……あれ?そいやカミュンとか呼ばわってた?」
それ誰よ。と視線で問うてきたシーザ。説明するのは良いが、あまりだらだらとお喋りする暇があるか?
「追撃は……もう無いんじゃない?こっちに来てたのも勢い余って坂降って来た数騎程度だし、多分俺たち追いかける暇があるならエベリスやエリファ攻めるっしょ?」
あるんだ。暇。
シーザのややすれば戦場にいると思えない気軽な発言に多少思うところはあるが、こちらとしても現況を知りたい気持ちはある。
とりあえずこのままというのも何だからと、森の中へと身を隠すようにシーザを始め二百から三百の兵が進駐する。
そんな彼らの前に現れたのが真っ白なもふもふの毛を持つ大きな狐に跨がる女性と少年。その横にも二人乗りで馬に乗る男たちが居たのだが、目が奪われるのは当然コルンの方だろう。
「うぉ!?……狼……じゃなくて、狐ぇ?だははっ、めちゃデカ!」
「白狐に跨がるお嬢さんも気になるが、その前に居るのはもしかしてノーア家のご子息?」
「ノーア家?……アスペルのおっちゃんのとこ?」
ルークスの発言を聞いてフィンアス少年をしげしげと確認するシーザ。対するフィンアスは……何か緊張してる?
「赤い馬に跨がる赤毛灼瞳の騎将……ほ、本物。本物の豪炎槍将!」
あ、憧れてたかなんかか。確かに彼ぐらいのお歳頃ならそういう感情を抱いてても……なんつー面してんだ、こいつ。
チラリと見たシーザの顔は唇を尖らせながら悄然としていた。さしずめ雨上がりの晴れ渡った空を見上げてたら泥に足を取られて転けたような、テンションが下がりきった顔だ。
「あー……シーザはあまりその呼び名を好んでないのでね」
こちらの表情から言わんとすることを察したか、ルークスさんの説明を聞いてなるほど、と頷く俺たち。……あ、俺だけじゃなかったんか。シーザの反応に対する疑問を抱いたの。
「さて。諸々説明を聞きたいところではあるけど、敵が追撃して来ないってことはシーザさんたちは別働隊?本隊は……東配置かな?」
城牙がそう尋ねれば、ルークスさんは驚いたように目を見開いて頷く。
「となると……時間帯、喚声の距離……騎兵相手に、位置状況としては…………なるほど、スターリン将軍は夕陽を使う気だね」
「夕陽?」
城牙のぼやきに首を捻る雪奈に対し、ルークスさんとシーザは驚嘆の眼差しを寄せる。カミューの森から見えるはずのない戦場の全景を知覚するかのような城牙の異才に勘付いたか。ただルークスさんの眼差しには少し何か言及したそうな雰囲気も窺えるが。
「城牙、俺たちはどう動く?」
「敵の兵站次第だけど……えっと、こちらの方は?」
「ルークスだ。ルークス・バーズ。敵は総数五千。まだ二千近い余力を残しているが、兵站は築いていないようだ。我らの物資を強奪したとしても、今夜一食賄うぐらいだろう」
「あ、どうも。……二千も遊ばせてる?……はぁん、なるほど?」
ルークスの補足を得て城牙は俺たちには見えない、自分の頭に描いた地図に情報を書き込んで先を見据える。彼を良く知る俺たちと異なり、他の人たちからは好奇と戸惑いが入り混じる眼差しが集うが、それでも知らないなりに興味深く見ていた。
「……ハイリスクハイリターンとローリスクローリターン。もしくはミドルリスクハイリターン。どれが良い?」
「言わずもがなじゃね、それ?」
悪い笑みを浮かべた城牙に呆れたように返す。リスクヘッジ出来つつ成果を得られるならそれが一番だろう。とはいえ決定権が俺にあるわけではないので、ルークスさんとシーザに向けて視線を向ける。
「……中身を聞きたいが?」
「ハイリスクハイリターンはこのまま坂を上がって挟撃作戦敢行。多少警戒はあるし被害も間違いなくあるけど、敵へ与えるダメージは十分見込める。ローリスクローリターンはカミューの森を通ってスターリン将軍本隊に合流。敵への被害は与えれないけど、部隊の継戦力を考えればただ合流するだけでも大きな成果と言えるかな?……んでミドルリスクハイリターンはこちらが敵を押し返すことが出来れば、の前提条件が必要だけど、坂に伏して伏兵として待機。撤退してくる敵に横撃をかます作戦。……多分敵としては本隊動かすことないと思うから、三つ目はかなりの確率で成功が見込めるかな?」
「動かすことがない?」
反射的に疑問を口にするが、そもそも動かすならもう動かしてるか、と一人で納得しかけるが、城牙は遠く西の空を見る。
「そもそも向こうの狙いにスターリン隊は無かったんだと思うよ。いや、正しくはスターリン隊である必要が無かった、かな?」
「……どゆこと?」
「それについては後からでも良いんじゃない?とりあえず今選択することはこの三案のどれを選ぶか、だよ。他にあればそれでも良いけど、夕陽を使う戦術を基軸にするなら、早めに選んだほうがいいと思う」
時間が押してるよ、と言外に言い放つ城牙に顎を撫でながら悩むルークスさん。シーザは地位の関係かそもそも頭を使う気がないのか、あるいは両方か。城牙の話も半分程度聞いたところでコルンが気になってかそちらに視線を向け……いや、角度的におまえ、カミュンのスカートの中覗いてる?
そういや雪奈と初めて会った時も胸見てたし、あれか……溜まってんのか。
「……三つ目を選ぼうか。労せず益を得られるならそれに越したことはあるまい」
「追い返すまではスターリン将軍は大変かもだけどね」
「本隊を率いてるのはエベリスだから構わん。あいつにも少し苦労を売りつけてやる」
そのルークスさんの言葉を聞いて、ようやくルークスさんの何か言及したそうな眼差しの意味を察した。スターリン将軍の指揮ではなくエベリスさんの指揮で今回の戦が行われているということ。俺たちみたいな将軍位を持たぬ一般人にしたら誰の指揮だとか策だとかはどうでもいいことだが、彼らにとっては兵権、指揮権の所在がハッキリと統一認識されていないのは決まりが悪い、というところだろうか。
直言せず会話の流れで差し挟んできたのも、ルークスさん自身はその意識を常としながらも、俺たち一般人の認識とは齟齬があることを把握しているからだろう。これがもっと堅物の将軍なら話の流れを断ち切ってでも訂正してきたのだろう。例えばエリファさんとかなら。
「ではその作戦を実行に移すとしよう。全軍、集合!」
ルークスさんの指示に疲労と怪我で満足に動くこともままならない負傷兵たちも気力を絞って従う。
「このままやられっ放しでは生きて帰れても美味い酒は呑めまい。俺としては破狼軍の醜態をツマミにしたいところだが、諸君に異論はあるかね?」
軽く言ってのけるルークスさんに一瞬の逡巡が見られたが、彼らはお互いを確認するように視線を一度合わせてから「ありません!」と強く答える。バレるから声潜めろぃ。
「では、彼の献策を用いる。歩兵隊は伏して姿を隠して坂に配備。騎馬隊は森に身を隠せ。敵の撤退に合わせて襲撃するぞ!」
「ふーん……じゃぁ木の上で戦況を見てようかしら?」
カミュンがそう呟きコルンから降りれば、シーザは名残惜しそうに視線を背ける。バレて怒られろ。
そして手頃な木を見繕ったと思えば、タタンッと二歩蹴り上がり木の枝を足場に乗り、そこからはヒョイヒョイと枝の強度と距離を測りながら登っていく。雪奈や俺も木登りは得意の部類ではあるが、彼女ほど速く登れる自信は無い。
「シーザ、俺たちも襲撃に参加するからさ。スターリン将軍に顔繋いでくれないか?」
物見役を買って出てくれた彼女を見送るのも程々に、シーザへと向き直りそう声を掛ける。どこかバツの悪そうな表情をしていた彼だが、提案に対しては一つ顎を撫でて唸る。
「じいさんにか?まぁ別に構いやしないとは思うが、朝から逃げっぱなしだし、休み挟むこと考えたらすぐとはいかんかも知れんぞ」
「それならそれでも良いさ。俺たちも疲れてるし、お互い休んでから話するだけだよ」
俺の答えにふーん、とだけ返事をしたシーザは、是とも否とも言わなかったがサムズアップだけして馬をルークスさんの方へと走らせていった。
その小一時間後。俺たちは戦場を逃げ惑う破狼軍の側背を襲撃し、小さくない被害を与えることに成功した。




