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復讐者の逃亡劇 12


「要約すると、シルタンス国降伏論が拡がってて、裏ギルドや傭兵が自己利益のために動き出してアスペル・ノーア殿が襲撃され、そのご子息がこちらに居られるフィンアス殿。んでイングリッタ、モウリッシには身を寄せられないからどうしようかね?ってことで良い?」


俺たちの話をまとめた城牙が確認のためにそう呟けば、ヴィルナークが代表して頷いた。


「ふーん……」


「おい。こんな悠長にしている暇あるのか?」


一言そう呟くなり腕を組んでトントンと肘の上で指を叩く城牙。俺や雪奈は彼の頭の良さを知っているから黙考し始めた彼の邪魔をしないようにしているが、フィンアス少年にはその前知識がないせいか、非常に苛立った様子で文句をつける。


確かにフィンアス少年からしたら、自分と大した歳の差のない男にいちいち説明して今後の指標を求めるという行動自体が無駄に思えるのだろう。口には出さないが紫晶石の瞳の女性も彼と同じような心境のようだ。


あえて返事しない俺の態度が不敬に思えたか、少年は座っていた岩から立ち上がり、おい!と強く一言吐いたところで城牙は思考の海から帰ってきた。


「うん。西に向かおうか」


「西、でやんすか?」


組んでいた腕を解いてそう呟いた城牙に、ヴィルナークがフィンアス少年の怒りを遮るように立ち問い返す。


「……エベリスさんたちを頼るってか?」


「うん、そういうこと。どうやら現状、カキュラムシンパのティパ殿に書状を渡しても手勢出して貰えるとも思えないし、フィンアスくんの存在がなおのこと面倒になりそうだから、まぁイングリッタ向かわない方が吉かな?」


「とはいえ規模のほどは知らんが戦いの只中だろう?助力得られるのか?」


「そこは賭けだねー。でも今から向かえば着くのは夜だろうし、戦闘行為自体は一度止まるんじゃないかな?面会さえ出来れば南郡領主の息子を無碍には扱わないでしょ、スターリン将軍も居るだろうし」


「ちょ、ちょちょちょ!?お二人さん、スターリン将軍とエベリス将軍と面識あるでやんすか!?ていうか戦闘行為って……え?戦争が西で行われてるんでやすか!?」


俺たちの会話の単語を拾って目をパチクリと開くヴィルナーク。そういえばこちらの状況はまだ伝えてなかったか。


仕方なくザッと彼にこちらの話をする。ルア村への襲撃から逃亡。途中でシーザと知り合いエベリスさんと顔見知りとなり、スターリン将軍が襲撃を受けたことからイングリッタへと救援要請をするために向かう途中、ここの騒ぎに首を突っ込んだことまで。


「うわぁ……。村のことは悲しむことしか出きやしませんが、商人としてはその繋がり羨ましい限りでやんすよ」


「そんなに有名なのか、エベリスさん」


「エベリス・サーズスノーと言えばシルタンス国の四驍(しぎょう)の一人にしてその最たる人物でやんすからね。“未完なる王佐の才”や“地裂(ちれつ)槍将(そうしょう)”などとも呼ばれてもいるでやんす」


「四驍?」


「シルタンス国で将来有望な四人の将軍の総称でやんす。シーザ・クラウド殿もその一人で、“豪炎(ごうえん)槍将(そうしょう)”のシーザと言えば他国にも知れ渡る豪傑でやんすよ」


他国にも知れ渡る。……俺たちの追っ手と戦っていた時の彼の名乗りを思い出すが、そんな感じなかったけどな。


「上手くいけばスターリン将軍とも面会の機会もあるだろうし、価値はモウリッシに向かうよりあると思うけど?」


「……そういう情報があるなら先に言いなよ」


城牙のその提案に全員が首肯するしかなく、やおら立ち上がったフィンアス少年も、ぶつけようのない不満を無理矢理言葉にして捨てる。少し頭に来る物言いではあったが、言われた城牙自身は気にしてないようなので、俺も納める。大人だからな。


「西に抜けるとして、この森の道案内は……えぇっと、お姉さんに頼んで良いのかな?」


「そうね、頼まれるわ。……あ、その前に(ねぐら)に寄っても良いかしら?」


「ん?んー……理由次第ではあるけど……」


「矢を補給しておきたいの。全部使っちゃったから」


そう言って(えびら)を見せる彼女。その中には矢の一本も残っていなかった。ということはさっきギルムに放った一矢が最後の一本だったのか。俺たちが駆けつけなかったら厳しい戦いを強いられていたところだったらしい。


まぁ恩に着せる必要もないので口には出さない。さらに言えばあの一矢が無ければ今俺が五体満足でいられたのかもわからない。そういう意味では彼女は彼女なりの打算で俺を助けてくれたのだとわかり、ある意味納得した。


「それなら構わないよ。というか、道案内無しで進む勇気もないし、貴女の指示に従うことになるよね」


偉そうに理由とか聞いてすまない。と言いたげな城牙の言葉に女性は一瞬キョトンとしてから、口元に手を当てクスッと笑う。どうやら彼女も言われて自分に主導権があることに気づいたらしい。


「じゃぁ一度取りに向かうわね。後は足をどうするの?私はコルンに乗るけど……」


そう言って辺りを見渡す。馬は二頭に人は五人。俺は雪奈の後ろに乗るが、城牙は一人乗りでしか覚束ない。代わりにヴィルナークが乗るのはあるが、流石に貴族のフィンアス少年を歩かせるわけにもいかない。となれば、二人乗りはヴィルナークとフィンアス少年となるわけで、城牙はどうしたものか。


……俺が歩くしかねぇやつじゃん。


「……ねぇカミュンちゃん。コルンちゃんにその子乗せられない?」


俺の自己犠牲による一番収まりの良い結論にたどり着くとほぼ同じくして、雪奈がふと発言する。ただ、彼女の呼ばわる名前に聞き覚えが誰にもなく暫く無言でいると、コルンちゃんという単語から連想される人物がハッと目を見張って振り向いた。


「…………カミュンって、わたしのこと?」


「うん。名前が無いのって面倒だなー、って思って。カミュ(・・・)ーの森のコル()ちゃんの姉妹ってことでカミュンちゃん!どう?」


雪奈の言葉に皆一様にポカーンと間の抜けた顔を晒す。いや、確かに名前がない人を呼ぶのは面倒だと思うが、ネーミングセンスがね。安直というか、選択肢なくそれだけで決め打つというのは如何なものかと……。


「カミュン、ね。……うん、そう。カミュン、か」


人差し指を顎に当てて上を見上げながら呟き、暫くして足元に視線を落として噛み締め、小首を傾げながら瞑目すること数秒。スッと視線を雪奈に戻した彼女は口端を柔らかく持ち上げて木漏れ日のような笑顔を見せる。


「良いんじゃない?コルンと韻も踏んでるし」


「マジでやんす?」


まさかの許諾に驚きの声を上げたのはヴィルナーク。気持ちは分かるから何も言い咎めないが。


「分かりやすいのは良いことよ?……カミューの森のカミュン。うん、気に入ったわ」


本人がそう言うならもう何も言いはしないが、雪奈のドヤ顔には少し物言いたくはなる。我慢するが。


「……じゃぁコルン、乗せて貰える?」


カミュンがそう聞くと、コルンはくぅ、と一つ鳴いてからフィンアス少年をジッと見つめる。正直コルンが現れてからずっと、怖さ半分興味半分といった感じでチラチラと窺っていた彼は、真っ直ぐ目が合ったことに緊張してか身体を強張らせる。


暫くして「コォォン……」と力無く鳴いたコルン。嫌がったか、と一瞬思ったが、カミュンは「ありがとう」と感謝しながら首元を撫でた。


「フィンアスくんなら良いって」


カミュンの言葉に少し何か言いたげな表情を見せたコルン。人間で言うならば喉元まで出かかった言葉を飲みこんだような表情。


良い、っていうアクティブな表現より、仕方ない、っていう表現で示した方がコルンの意思には沿ったのかも知れないな。


「ヴィルナークさんは城牙の乗ってる馬を、綱取るのもお願いしたいところなんだけど、二人乗りでもいける?」


「こちとら旅商の身でやんすよ。人でも物でも荷台牽くのでも、馬の扱いは心得てやんす」


ウィンク一つして胸を張るヴィルナーク。森の中の手綱捌きは別問題な気もするが、そうと言うなら任せよう。


「じゃぁ、俺と雪奈で一頭。ヴィルナークさんと城牙で一頭。カミュンさんとフィンアスくんでコルンに乗って、西へと向かうか」


「雑に西と言うけど、どこ目指せば良いのかしら?とりあえずカナカリー・フィスに出れば良い?」


カミュンの質問に村周辺の地理がようやくの知識の俺では答えられず、城牙に助けを求める視線を送る。


「そうだね。戦が起きてるとすれば拓けたところだろうから、カナカリー・フィス平原に出れれば。痕跡も辿れそうだし」


城牙のその言葉で行く道が確定した俺たちは、それぞれ顔を見合わせて一つ頷けば、コルンに乗ったカミュンたちを先頭にそれぞれ後に続いて駆け出した。

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