第6話 怪しい職種
【マイラ side start】
あれからルーお姉ちゃんと一緒に宿屋の仕事をすることになった。
「お姉ちゃんって呼んでいい?」といったら、思い切り抱きしめてくれた。
OKなのかな?
おかみさんも厳しいけれど、親切にいろいろ教えてくれるし、
ごはんもとってもおいしい。
ある時、おかみさんから
「実は今、転生者が一人で滞在してるんだよ。
なんで一人なのかは事情があるみたいで聞けてないけど、
この世界初めてで、いろいろ困っているみたい。
マイラ、手が空いたときでいいから、話相手になってあげて」
そういえば最近見かけないお客さんがいるなあと思ってた。
特徴はあまり無い人だけど、たまに音もなく現れて本当にびっくりしちゃう。
今度思い切って話しかけてみようかな。
【マイラ side end】
【信二 side start】
この世界に来て1週間ほどたち、生活にもだんだん慣れてきた。
資金はそれなりに貰ってる(質素に生活すれば1年間余裕とのこと)ので、
特になにもせず、毎日街中をぶらぶらしている。
やっぱり異世界だけあって人間だけではなく、さまざまな種族も普通に生活している。
猫耳やうさぎの耳をもった綺麗な人たち、2M近い体格で額に角をはやした
怖そうなお兄さん、
長いしっぽを器用に振りながら歩く女性などなど。
(う~ん、これぞ異世界)
自分はというとあまり見かけない黒髪黒目だが、
相変わらず目立たず注目されてることはまるで無い。
毎日食べてる屋台のあんちゃんなんかは、
「よう、見かけないやつだな。これ食ってみろ。びっくりするほどうめえぞ」
と毎回言ってくる。
おかげで定番の(からまれる)ということはなく、暗い裏道とかも自由に歩けている。
宿に帰ると最近仲良くなった、マイラという名の明るいブラウン色の髪をした
まだ子供っぽい、従業員の女の子が話しかけてくる。
「おかえりなさい、シンジさん。もうすぐご飯ですよ」
この子にはなぜか普通に認知されているようで、ちょっと嬉しい。
みかける度にお菓子をあげて、餌付けしてきた効果かな?
しかもまだ幼いながら、驚くほどの美少女だ。遠い先祖は猫族だったかもと言って
かわいい丸いしっぽを見せてくれた。大きさは野球のボールくらいだ。
今日もおいしいお菓子があるよと言ったら、喜んで俺の部屋に入ってきた。
(おっと、あぶないよ。お嬢ちゃん。なんの疑いもなく男の部屋に・・、ぐへへへ)
・・・はっ、ちょっと意識が飛んでしまった。どこが遠いところへ行ってたようだ。
気を付けよう・・
一緒にお菓子を食べながら、今日は俺の職業の話になった。
「へえ~、モブっていうんですが。不思議な職業ですね」と言ってきたので、
スキルポイントを振った状態のをマイラに見せてあげた。
【転生ーモブ】
L:1 通行人 少しだけ存在感を高めることができる
L:2 エキストラ キチンと人数に数えられるようになる
L:3 切られ役 魔物などに、切られた振りをすることが出来る
切られた振りをするだけなので、実際には切られない
L:4 雲隠れ その場から一瞬で離脱できる。囲まれていても大丈夫
L:5 屋根裏散歩 王宮や貴族の屋敷などに簡単に忍び込むことができる
スキル名に深い意味は無い
L:6 ??? ????
L:7 ??? ????
L:8 ??? ????
L:9 ??? ????
L:MAX ??? ????
「う、う、う~ん、なんか不思議なスキルばかりですね・・・」
とマイラはとっても困った顔になってしまった。
困られても自分でもさっぱりわからないので、返答しようも無い。
「そうだ、マイラちゃんのボードも見せてよ」と言ったが、突然下を向いてもじもじし出した。
「ほら、もっとお菓子あげるから、恥ずかしがらずお兄さんにすべてを見せてごらん」と
催促したら、上目遣いでじーっとこちらを見つめてひとこと「・・エッチ」と言われてしまった。
うお~~~~~~~~、これはまずい!思い切りヤバイ!!
あわてて謝ろうとしたが、顔を真っ赤にして部屋を走って出て行ってしまった。
う~ん、今度とびきりの大きなケーキも持って謝りに行こう・・
【信二 side end】
【マイラ side start】
ああ、危なかった。うっかりあたしのステータスボードを見られちゃうとこだった。
なんとかごまかしてきたけど、シンジさんすごいショックを受けてた。なんで?
実はこの間、ルーお姉ちゃんと今後のことについて話し合っていたんだ。
「ねえマイラ、そのうちこの街を出て違う街へ行かない?」
「えっ、どうしてですか、ここのおかみさん優しいですよ」
「うん、この宿屋は好きで問題ないんだけど、やっぱりこの街では
私たちっていろいろと肩身が狭いのよね。好きな物、好きなお洋服も買えないし。
でも遠く離れた街だったら、自由に買い物ができて、
顔を隠さないで堂々と歩ける気がするの」
「あたしはルーお姉ちゃんと一緒ならどこでも大丈夫です」
「あら、ありがとう、嬉しいわマイラ。
でもふたつ問題があるの」
「ふたつ?」
「まず一つ目は、新しい街に入るとき、必ずステータスボードをチェックされるの。
私のスキルポイントもそうだけど、二人ともレベル50を超えているでしょう?
冒険者ランクFなのに。
絶対怪しまれて、捕まっちゃうわ」
「そしたら、二人で逃げて・・・」
「だめよ、そのうちどこにも行けなくなっちゃうわ。
それともうひとつ、お金の問題ね。
薬草集めや低級魔物の魔石売りとかで、以前と比べるとかなり貯金もたまってきたわ。
でも街で新しく生活をはじめるには難しいかな?」
「でも強い魔物を倒した時の魔石がたくさんあるからそれを売れば・・・」
「そうね、でも私たちでは売れないわ。これも怪しまれちゃう。
ということで、ステータスボードの問題と魔石処分の問題、
まずはこれらをなんとかしないと。
私のほうでいろいろ調べてみるから、マイラも何か気づいたら教えてね」
シンジさんのステータスボード見せてもらった時、この話を思い出したの。
だってシンジさんのスキルって、隠れるとかごまかすとか、
なんかそういうものばかりだもん。
シンジさんごめんなさい!
でもここらへんにルーお姉ちゃんが悩んでいいる問題のヒントがあるような気がする。
もっとシンジさんと仲良しになって、いろいろと聞いてみようかな。
あっ、決しておいしいお菓子が目当てじゃないわ!!
【マイラ side end】
【信二 side start】
今日はマイラちゃんに誘われて、街の外で一緒に薬草集めをすることになった。
とりあえず先日のことを謝っていたら
「じゃあ、薬草集めをお手伝いしてください」ということになったからだ。
もともと街の外に出てみたかったので断る理由なんてなかった。
それに13歳(この世界では成人は15歳とのことなのでもうすぐ大人!!)美少女
しっぽ付きの子と
こうして仲良くお出かけできるなんて!!!
生涯でこんな素晴らしい出来事があったであろうか!!いやありはしない(反語)
しかも今、「これからシンジお兄ちゃんと呼んでいい?」と
可愛く上目遣いで言われた時はもう・・・。
嗚呼、
「お兄ちゃん」 それは心を締め付ける魅惑の言葉
「お兄ちゃん」 それは甘く切ない青春の1ページ
「お兄ちゃん」 それは極上のワインをも超える至高の・・・
「だ、大丈夫ですか、どうしたんですか!!」
・・・はっ、また旅立ってしまったようだ。
帰って来られないところだった。気を付けよう・・
現代では2人兄弟の弟だったし、彼女なんて夢のまた夢で、
当然女の子にはまるで免疫がない。
「本当に大丈夫ですか、もう。しっかりして下さいね、シンジお兄ちゃん!!」
嗚呼、
「お兄ちゃん」 それは・・(以下切りがないので略)
なにげに薬草取りが面白かったので、その後何回かマイラと出かけるようになった。
ついでに低級魔物の倒し方も教わって(といっても棒で叩くだけだが)、
いつの間にかレベルが上がっていた。
晴れて「お兄ちゃん」になったので、こっちも「マイラ」呼びになった。
モブスキルのL6を取って、マイラに見せたところ、いきなり
「お兄ちゃん!、今晩時間ありますか。大事な話があります!!」と
思い切り顔を寄せて迫ってきた。
(近い・・・)
当然「いいよ、もちろんさ」とさわやかにOKした。
今晩の大事な話ってなんだろう。
もしやマイラから、あんなことやこんなことを・・ふひひひ・・・
・・・はっ、また20億光年の彼方まで飛んでしまった。(最近こんなのばかりだ・・)
ちなみにモブスキルL6はこんなのだった。
L:6 偽証 ステータスボードやギルドカードなどの情報を偽造できる
鑑定やカードチェックされてもばれない
パーティメンバーも有効。
読んで頂きありがとうございます。