第26話 暗黒神の最後
ラス前です。
暗黒神が待ち受ける魔王城の結界が消滅し、ついにその城が全貌を現した。
ときおり雷光が見える灰色の雲に覆われ、近づく者を恐れおののかせるその巨大な城は、今は驚くほど静かであった。
周りには魔物たちの姿が見えるが、遠巻きにしてこちらを睨んでいるだけだ。
おそらく幹部たちをたった五人で討伐してきたことで、攻めあぐんでいることだろう。
もしくは暗黒神なら軽く蹴散らしてくれるという絶対の確信か。
私たちは邪魔されることなく、魔王城へ入っていった。
長い通路を抜け、重厚な扉の前に立った時その扉が音もなく開いていった。
そこは巨大な聖堂のようで、瘴気が重くただよっており、最奥には暗黒神がいた。
「なんだ、勇者ではないのか。しかし、配下の幹部や魔物をことごとく排除してきたようだ。
そこそこの腕はあり、我を楽しませてくれそうだ。よし相手になってやろう。かかってこい」
そして最後の戦いが始まった。
最初にアリーナ様が飛び出し、大剣で暗黒神の左腕を切り落とした。
しかし、切り落とした直後に再生し、何事のなかったように腕を振り払った。
私は暗黒神の右側の位置より、高位魔法を連発していった。
しかし魔法による攻撃の傷や、炎による火傷もたちどころに治っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
戦いの前に私たちは、暗黒神の討伐方法についてこう話し合っていた。
「再生してしまうのはやっかいね。それを止める方法はあるのかしら」
「勇者の話を聞くと、瞬時に再生してしまうみたいですね」シンジくんはそう言ってさらに、
「しかも再生してもまるで、最初から存在していたように動くとのことでした」と続けた。
「王宮や討伐本部の話では、封印スキルだけではなく、剣や魔法の攻撃でも再生するのではないかと言ってたわ」アリーナ様がそう言うと、今度がロブさんが、「過去に討伐した時の記録はどうなっているんだ?封印スキルだけの成果じゃないだろう。ほかに弱点とかなかったのか」と言った。
「オブマールの勇者神殿の資料をひっくり返して調べたそうですが、そういう記録はなかったと、そこの司教がいってましたね」シンジがそう言った。
それらの話を聞いていたマイラは、下を向いて手を握りしめている。
そうだ、私たちにはマイラがいる。15歳の少女でありながら、おそらく世界最強のスキルを持つマイラが。
方針が決まった。
最初に私とアリーナ様が前面に立ち、それぞれ魔法と剣による攻撃でダメージを与え続ける。
とにかく、私のMPとアリーナ様のHPがゼロに近くなるまで、それを続ける。
その間、ロブさんのスキルによって、体力強化、体力増強、魔法防御等のバフをありったけマイラにかけ、さらにシンジくんから、マイラに認識阻害や、攻撃を受け流す効果を付け、反撃されないように対応する。
また、前方には<L3:セイレーン>、後方には<L7:フェニックス>を待機させる、
この二人と二体の召喚獣がマイラを囲むように守りにつく。
最後に私が送る合図とともに、最強のユニークスキル<なし>を発動する。
実はマイラのスキルが暗黒神に効くのかは不明だ。
だが失敗したことも無い。私たちは自分そして、みんなの力を信じ望むことにした。
暗黒神側もただ攻撃を受け続けていたわけではなく、こちらの攻撃をかいくぐり、強烈な反撃を連発している。
私は召喚魔法をL:MAXまで成長させたことにより、同時に全召喚獣を出現できるようになった。
マイラを守る以外は、すべて暗黒神の攻撃に対応している。
戦いが果てしなく続くのではという錯覚さえ思える時間が流れる中、暗黒神の再生力がほんの少し、遅れることが増えてきた。
それに気づいた私はアリーナ様と背後の仲間たちに合図を送った。
その途端、アリーナ様の攻撃はさらに早く、さらに激しくなっていった。
私の魔法攻撃も最高位を連発し、暗黒神の対象をこちらに向けるようにした。
その中を進んだマイラはやがて暗黒神の真正面に立った。そして手を伸ばし・・・・、
何かの違和感を感じとったのか、暗黒神は、
「無駄だ、無駄だ。お前たちは何をしようとも、この我の前にひざまずくのだ!
そしてこの世は永久に・・、ま、まて、なんだその小娘は!!
なんという力をもっておるのだ。やめろ、今すぐやめろ!!ええい!こうして・・」
<やめて! もう終わりにして!! 二度とわたしたちの前に出て来ないで!!!>
その瞬間、すべてが消えた。暴風雨も、瘴気も、暗黒神も・・。
(やった。ついに終わった。過去より延々と続いてきた25年周期の暗黒神の封印も復活も・・、すべて・・)
私たちは疲労で倒れそうになりながら魔王城をでた。
さらに魔王城そのものを、流星魔法<L9:ブラックホール>で、残った瘴気ごとすべてを消滅させて、なにも無いただの荒野にしてその場を去った。
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暗黒神を永久に消滅させた私たちは感動の余韻もそこそこに、急遽オブマール近くにある王族の療養所に向かった。
暗黒神討伐の行軍中、前国王の様態が悪化したと報告があったためだ。
アリーナ姫の胸中はいかばかりであったろう。
飛び込むように療養所に入り、前王ガルフのもとに急ぐアリーナ姫。
医者たちに囲まれているが、容態は落ち着いているようだ。
マイラは「黒い煙が頭の中、そこら中に増えてます」と言っていた。
おそらく増殖したか、分裂したか。
状態はどうあれ、至急取り組まなければならない。
王族の方々は、「もう望みは貴方たちだけだ」とおっしゃられたので、こちらの要望を伝えた。
その要望を伝えた時は驚愕していたが。
その驚いたこととは、施術場所にダンジョンを指定したことだ。
近隣のダンジョンに先発隊の騎士団が入り、すべての魔物を退治してもらった。
その後ベッドごと、清潔にされた部屋に前王が運び込まれた。
準備は整った。いよいよ前代未聞の施術が始まる。
まず最初に、ロブさんが入り、いままでで最大の祈りを込めて<確率変動>と唱えた。
一気に回りの運気が上がったように感じた。これで運は最大の状態だ。
次にベッドの両隣、右にマイラ、左にクレア姫が位置についた。
クレア姫は一心に祈り始めた。
途端に先ほどの運気上昇に加え、浄化の光ともいうべき清らかな灯りがあたり一面に満ち溢れ、一点の曇りも無い静謐な空気がその部屋を覆った。おそらくこの部屋を中心とした広範囲の地域は、その恩恵のため、傷や病気がたちどころに癒えたに違いない。
その状態になって、初めてマイラがガルフの頭に手を伸ばした。
マイラが目を閉じなにやらつぶやき始めた。おそらく何十に分裂した呪いの一つ一つを消滅させているのだろう。
その誰一人として、動いてない状態が2分・・5分・・・10分と続いた。
マイラとクレア姫の額には大粒の汗が浮かんでいた。
マイラのつぶやき、クレア姫の祈り、その二人の声だけが永遠に続くと思われた時、突如甲高い悲鳴が上がった。
そして前王にまとわりついていたものが、完全に消えたことを、この部屋にいる全員が理解した。
その時、クレア姫が「・・終わりました」、マイラが「・・やりました」と同時に口にし、抱き合って膝をついた。
そしてガルフはゆっくりと目を開き、周りを見渡した。
筋力が衰えているので、まだ身体は動かないのだろう。
ただ状況は理解しているようで、かすれた声で一言「・・あり・・がとう」と聞こえた。
すぐさまアリーナ姫が飛び出し、ガルフに抱き着き泣きじゃくっていた。
私は、マイラとクレア姫を抱きしめて言った。
「二人ともよく頑張ってくれたわ。ありがとう・・」と。




