第18話 姉妹それぞれ
【アリーナ side start】
本当に久しぶりに街を歩いている。
もちろん、顔はシンジさんに頼んで変えてもらっている。
王都にいた時以来なので2~3年ぶりかしら。今は開放感でいっぱいだ。
療養所も問題無いようだ。
おじい様も安定していて、わたしの人形も怪しまれてない。
監視用の映像も、馬車の中で見られるようにしている。
今日は女子3人で、さっきまでお洋服や小物のお買い物をしていた。
私の15歳、16歳は外に一歩も出られない生活をしていたので、こういう状況は信じられない。
先ほど二人と別れて、今は一人で商業通りにきている。
(王都にいた時でも、王女なので当然一人歩きなんか無理ね)
ルーシアさん達には本当に感謝している。どうやって恩返ししようかしらと考えて歩いていたら、この先の広場で大歓声が上がっていた。
何かしらと思って、その広場に向かっていたら回りで興奮した人たちが大声で話し合ってた。
「おい、王都から第二王女様が来てるみたいだぜ」
「ええっ、まさか聖王女様か」
「なんでも各地の神殿に祈りを捧げるため、巡礼中って話だ」
「ああ、あのイシュトアの宝石と讃えられる王女様にお会いできるなんて!」
「まだいらっしゃるかしら」
・・えっ、クレアがいるの?
最後に覚えているのは、もう2年以上前の事。
わたしがレベルアップするの前までの記憶。
小さい頃どこに行く時も「おねえさま、おねえさま」としがみつくようについてきたり、雷や動物の遠吠えにおびえ、朝までわたしのベッドにもぐりこんでいたり、
母上が早くにお亡くなりになったので、母上そっくりの顔のわたしに、特別に面影を重ねていたのだろう。
わたしも姉として、友達として、時には母の代りとしてクレアを愛していた。
そんなわたしのクレアがすぐそこにいる・・・
会いたい、会って思い切り抱きしめたい・・・。
そんな思いを振り切って戻ろうとしたけど、やっぱりだめだわ。
少しだけ、ほんの少し見るだけならと自分に言い聞かせ、広場に向かった。今は顔も違うし、ひと目だけでも・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
広場に隣接する神殿の前に大きな舞台が整えられ、ひときわ高い壇上にいるクレアが見えた。
いつもわたしに隠れておどおどしていたクレアはもういない。
そこにいるのは胸を張り、堂々とそれでいて慈愛に満ちた微笑みを絶やしていない聖王女がいた。
周りの人たち、特に女性たちからは、悲鳴に似たため息しか聞こえてこない。
「なんて美しいの・・」
「・・綺麗」
「こんな方がいるなんて・・」
クレアは、広場に半円形に集まった数千人の群衆に向かい、その天使の瞳でゆるやかに見渡していった。
そして、その視線が右から徐々にわたしに近づいてきて、そのまま左に流れたと思った瞬間、すぐに戻り信じられないことにわたしの目で止まった。
そのまま、・・・1秒・・・2秒・・見つめ合った時、突然クレアが何かを叫び、壇上から飛び降り、こちらに走り出してきた。
(だめ、来ちゃだめ!!その以上近づくと私も飛び出してしまう・・・)
クレアは当然、警護の騎士や侍女達に抱きかかえられ戻っていった。
わたしは群衆の波にひとり逆らってその場を離れた。
ひと気の無い路地の壁にもたれて、やっと落ち着いた。
(なぜわたしがわかったの、クレア・・)
【アリーナ side end】
【クレア side start】
・・お姉様、あれは間違いなくお姉様だわ。
間違えるはずなんて無い。大好きな大好きなお姉様だもの。
何か理由があって姿を変えているのね。あんなに賢いお姉様だもの。なにかきっと・・・。
もう2年以上会ってない。
お姉様がレベルアップしたという話があった後、突然お父様から、
「アリーナは療養所に向かった。会うのは禁止だ」と聞かされて信じられなかった。
お父様に何度聞いても、詳しい理由を教えていただけなかった。
一目だけでもと、お願いしても聞き入れてもらえず、最後には「もう会えないだろう」とも言われた。
その日から私は何度泣いたのだろう。
どれほどお姉様の優しい顔、温かい手、そっと抱きしめてくれたぬくもりを思い出しただろう。
いつものようにドアを開けて「おはようクレア」と、入ってきてくれるのをどれほど願っただろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
お姉様と会えなくなって1年たった頃、お父様から
「聖王女として、療養所にいる前国王の病を治せるか」と聞かれたことがあった。
おじい様が呪いの影響で寝たきりになっていることと、それが非常に強力な呪いであり、解決の糸口さえも見つかっていないと聞かされていた私は、
「はい、まだ未熟でどこまでできるが分かりませんが、ぜひやらせて下さい」と答えた。
しかしその後、私の心を読んだように、お父様がこう言った。
「だがアリーナに会わせることは出来ない。わかってくれ」と。
そう、よくわかっています。
でも、少しでもお姉様にそばに、お姉様と同じ空間に一緒にいたいのです。
その後私は何十人かの護衛に守られ、王族の療養所に向かった。
療養所に着き、おじい様に一心に祈りを捧げたが、やはりまだ聖王女としての経験が足りないのか、頭に強固な壁がある感じがしたが、回復させることは出来なかった。
今後、もっと力が増えた時にまた祈りを捧げに、ここに来ようと誓った。
おじい様の手を握って謝罪している時、ふとお姉様の声が聞こえたような気がした。
ああ、この壁の向こうにお姉様がいるのね。
手を伸ばせば、届く距離にお姉様がいるのね。
療養所を後にする時、振り向くとお姉様がいるという部屋が見えた。窓という窓に格子が貼られ、厚いカーテンが閉じられていた。私はその部屋に深くお辞儀をした時、また涙がとめどもなく流れてきた。
(また来ます、お姉様。でもその時こそ・・・)
涙をぬぐい、私はお姉様に別れを告げたのだった。
それが1年前の出来事。
でもいまはこの街のどこかにお姉様がいる.
会いたい、でも顔を隠しておられる。
なので私は待ちます。お姉様を信じて・・・。




