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第5話 地響き

「な、何っ……? 何が来るの………⁉」

 それはとても黒く、そしてとても大きかった。


「う、うそ……わぁ――⁉」

 その姿に思わず俺は腰を抜かしてしまった。

 目の前に現れたのは見たことのないほど巨大な――。

 

 巨大な蜘蛛だった。

 

 黒鉄色の胴体に、鎌の様に鋭く尖った二本前脚。

 そして、真っ赤に光る無数の目からは恐怖を覚えるほど邪悪なオーラが漂っていた。


「この大きさに、この鋭い二本の鎌……。お主はまさか、漆黒の大蜘蛛(ダークチュラー)か……。お主はこんな森にはいないはずじゃ? どこから現れたんじゃ~⁉」

 真っ赤な邪眼はお爺さんの方を向く。


「ここにはお前の望むものはないのじゃ……素直に元居た場所に戻るのじゃ~!」


 

――ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――


 まるでお爺さんを言うことに逆らう様に、木々が激しく揺れるほど大きな轟音を響かせた。

 


「ひぇ―――――――‼」


 ……ヤバい

 ……怖い

 ……殺される


 モンスターを目の前にして俺は完全に怖気ついてしまった。

 夢見てた世界のモンスターはここまで恐ろしくはなかった……。


「いいか、お主はここから逃げるんじゃ~!」

「……で、でも……俺……」

 初めて目にする恐ろしいモンスターに、完全に力が抜けて、立ち上がれない。

「何をしとるじゃ。早く行くのじゃ~」

「行けと言っても足が……」

「仕方ない! 絶対に近づくんじゃないぞ!」

 お爺さんは俺から遠ざかり、敵の注意を反らした。

「お前の相手はワシじゃ!」

 漆黒の大蜘蛛(ダークチュラー)はその鋭く尖った鎌をお爺さんに向けて薙ぎ払う。


樹木再生エルゴーラル


 地面から伸びた複数の樹木は薙ぎ払った鎌に絡み付き、動きを止める。


「……なにっ!」

 しかし、モンスターの圧倒的な怪力により、簡単に引き千切られてしまった。


「……お主、少しはやるようじゃの!」


樹木再生エルゴーラル


 さっきより多くの樹木が、今度は漆黒の大蜘蛛(ダークチュラー)の後足へと伸びていく。

 流石に後足に絡み付いた樹木は引き千切る事はできず、その場でジタバタと暴れ出す。


「さぁ、今のうちにじゃ~!」

「は、はい……!」

 俺は勇気を振り絞って立ち上がった。

 そして、一目散にその場から逃げ出した。


 ヤバい、ヤバい、ヤバい……。

 あんなモンスターと戦うなんて俺には無理だ……。

 俺は森の中を全速力で駆け抜けていった。



 「はぁ……はぁ……」

 お爺さんの家からは十分に遠ざかった。

 ここまで逃げればもう大丈夫だろう。

 けど、お爺さん一人残して良かったのだろうか……。

 だだ、俺なんかが傍に居ては、足手まといになるだけだ。

 

 異世界に来ても、俺はただの人間。

 今の俺にはモンスターと戦う力さえないのだ。


 ――ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――

 森中に鳴り響く轟音。


「ああああああああああああああ――――――!」

 そして、お爺さんの叫び声が聞こえた。


「お爺さん!」

 ヤバイ、お爺さんがピンチだ。

 殺されてしまうかもしれない……。

 戻って助けないと……。


 でも、こんな俺に一体、何ができるんだ。


 クソ……!

 俺はその場で立ち止まり、強く手を握りしめた。


 力があれば……!何でもいい! 俺にも戦える力があれば……!


 ――ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――

 再び、鳴り響く轟音。

 俺はその音がする方へと振り向いた。


 モンスターを倒す力がなくても……。

 お爺さんを助けるぐらいなら……俺にだって……。

 こんな、俺にだって、できるかもしれない!


 ここで怖気ついて逃げているだけじゃダメだ!

 勇気を振り絞り、元来た道を引き返す。


「お爺さん、待っていてくれ!」

 勢いよく踏み出した一歩。

 しかし――。


「……って、えっ、えっ⁉ うわっ―――――――!」

 踏み出した足はさっきまでそこに無かったはずの木の根に引っかかったのだった。

 そして、横転すると、勢い余って、そのまま崖へと転落した。

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