第2話 退屈な学校
――キーン、コーン、カーン、コーン
「おい、焔、お昼だぞ~!」
「おはよう……もうそんな時間か……」
「おはようじゃねーよ! もう、お昼だぞ! お前、また一限目からずっと寝てたのかよ!」
「だって、授業が退屈だったから……」
「そんな調子だと、次のテストは赤点だぞ!」
「テスト前になったら、また勉強を教えてくれよな。わが友よ!」
「またかよ、めんどくせーな! 悪いことは言わねーから、普段からちゃんと授業を聞けよな!」
「へいへい!」
「本当にそう思ってんのか? まぁいいけどさ……それより早く飯にしようぜ!」
「おう!」
俺は鞄の中に手を入れ、弁当箱を取り出す。
「あれ……おかしいな……?」
鞄の中にいつもの弁当箱の感触がない。
代わりに何か柔らかい感触が……。
「何だ、これ……?」
寝起きでまだ頭が働いていない中、鞄の中から出てきたものは――。
「……猫⁉」
のぬいぐるみだった。
「うわぁっ―――!」
慌てて、鞄の中に戻した。
え、なんで……⁉
慌てて周りを見渡した。
良かった、皆、食事や会話に夢中。
目の前の友人も弁当に夢中になってがっついていて、見られていない様だ。
でも、何でこんな物が俺の鞄の中に……⁉
それに、この猫……。
愛くるしい顔をしたふさふさの毛の茶トラ猫……。
どこかで見た様な……。
そうだ、妹がよく遊んでいたぬいぐるみだ。
「焔、どうしたんだ? 弁当は?」
「あっ、えっと……それが……。俺、弁当を家に忘れたっぽいわ……」
「もう、何やってんだよ、バカだな!」
妹の物とはいえ、ぬいぐるみなんかを学校に持ってきていることがバレたら一大事だ。
クラスメイトからバカにされて、俺の学校生活が終わってしまう。
ここは、仕方ない!
「ごめん、購買で何か買ってくるわー!」
俺は鞄を持って、教室から飛び出した。
「おい、購買に行くのに鞄まで持って、どうしたんだよ! って、おーい、焔!」
* * *
「はぁ……はぁ……」
俺は一心不乱に学校中を走り周っていた。
なんで、どこへ行っても人が居るんだ。
今は、昼休み。
校内のどこを見渡しても人の姿があった。
くっそ……。
人の居ない場所に行って、鞄の中をもう一度確認したいのに……。
どこか、人の居なさそうな場所は……?
校内を走りながら、必死に探した。
そうだ、あそこは……⁉
向かったのは、校舎裏。
雑草しか生えていないこんな場所には流石に誰も来ない。
「よし、ここなら!」
周りに誰もいないのを確認した後、俺は鞄の中を広げた。
うーん、やっぱり……。
何度見ても、鞄の中には猫のぬいぐるみ。
「で、肝心のお弁当は……?」
鞄の中を全て取り出していく。
逆さまにひっくり返しても、中に入っていたのは教科書とぬいぐるみのみ。
肝心のお弁当は入っていない。
「なんで、お弁当の代わりに妹のぬいぐるみが?」
俺は朝の出来事を思い出した。
「お兄ちゃん、お弁当~!」
「鞄に入れておいて……」
「は~い!」
そうか、あの時……⁉
妹にお弁当を入れるようにお願いして――
アイツ、弁当じゃなくてこの猫を入れやがったな!
頼んだ俺も悪いが……。
これは家に帰ったら妹をお仕置きだな!
――ぐぅぅぅぅぅ……
「お腹減った……。とりあえず、今は購買で何か買うか……んっ⁉」
「……ごめんなさい!」
誰かの声が聞こえた。
「ヤバイ、誰かこっちに来る⁉」
慌てて中身を鞄に戻すと、その場を立ち去ろうと走り出した。
そして、勢いよく、校舎の角を曲がった時だった。
「わ、わ、わぁっ――⁉」
反対側から、同じく誰かが勢いよく人が飛び出してきたのだった。
「……え、えっ⁉」
飛び出してきた相手は――。
「えっ⁉ ……玲奈⁉」
お互いに避けることができず……。
「きゃっー⁉」
「あぶないっ⁉」
俺たちはぶつかった。
「……えっ?」
「……えっ?」
思わぬ出来事に驚く二人。
この感覚……。
ひょっとして……。
俺と……。
玲奈の……。
唇が……。
重なってあって……。
いる……?
所謂、キスという行為だった。
空中で思わぬ形でキスをしてしまった二人。
地面に倒れるまでの僅か数秒。
なぜか、その一瞬一瞬がコマ送りの様にゆっくりと見えた。
間近に迫った玲奈の顔。
この距離で見てもドキドキするほど完璧な顔付き。
しかし、目の周りや鼻は真っ赤だった。
そして、頬には涙。
……もしかして、泣いている?
でも、何故?
玲奈が飛び出して来た角の先。
ぼんやりと人の姿があった。
どうやら、あれが噂の先輩だな……。
でも、玲奈と先輩に一体、何が……⁉
と考えていく間に、視界が徐々に真っ白になっていく。
「わっ、わっ、な、なんだこれ……⁉」
よく見ると、目の前が真っ白な渦に包まれていた。
そして、よく見ると、マンホールの表面がまるで魔法陣の様に光り出す。
そして、表面には見たことのない文字が浮かび上がった。
|ವണЂ̐Ԧشބޓ₠ᦖΐᚠᑒᏒᏔဂꬕꡱꗳꕆ《ようこそフレアワールドへ》
そして、いつの間にか地面が無くなり、俺たちは光の渦の中へと飲み込まれていったのだった。